七十二・五話
『大魔女』、マレフィキウム。
それはロードギア屈指の悪名をもつ魔剣使。
常に一人で敵と戦う孤高の魔女。
ただ一部の女性の間では、彼女は非常に慕われている。
理由は……本文を読めばわかるかと。
重力剣技、滞空を常時発動しながら、帝国の本拠地、帝都上空に『大魔女』と呼ばれる魔剣使、マレフィキウムは考え込んでいた。
その表情は真剣そのもので、場所が場所だけに他人には知られたくない悩みなのだろう。
その答えを出すべく、『大魔女』は己の世界に一人入り込んでいた。
「ブツブツ……ブツブツ…………やはり大事なのはカップリングよね。誰と誰を?……素材は多いけど質がちょっとねぇ……ガザルとホトは?どちらも外見は悪くないし。……よしとりあえずはこの二人ね。設定は……死んだ恋人であるガザルを生き返るらせる為に、ホトは『剣神』になったでいいかな?時系列は狂うけど、読者が求めるものはいかにイチャコラするかだもんね!死者と生者の純愛ラヴストーリー……いいかも。大作の予感がするわ!あと一番大事なのはどちらが攻めか、受けかね。やはり普通に考えれば、体格のいいガザルが攻めで優男のホトは受けよね。ベターといえばベターで、外れのない安全牌。……けど待って。本当にそれでいいのマレフィキウム?何だか守りに入ってない?ここは攻めに転じるべき?一部コア層に目掛けて思い切って冒険すべきかしら?なら…………ホトのヘタレ攻めでガザルの強気受け?いいかも!やばっ、妄想が止まらない。これはありね!!」
上空高くで暴走する彼女の独り言を止められる存在は、あまりいない。
だが、いることはいる。
「ないよ」
『剣神』ホトはその一人だ。
マレフィキウムの妄想に真っ向から否定するのは、その脳内妄想の渦中に自分がいるからだろう。
ホトにしては珍しく苦い顔をしている。 そんな珍しい表情に現在進行形でさせているマレフィキウムは、まったく意に介してはいないのだが。
「何よ、他人の妄想にケチつける気?ホト×ガザルは中々需要がありそうよ?」
マレフィキウムの口調は毅然としているのだが、発言内容があまりに残念なのでそのギャップの落差が激しすぎた。
ホトが深々とため息を吐く位に。
「マレフィキウム個人の妄想にケチをつけるつもりはないが……それを形にして、不特定多数の人間と妄想内容を共有するのは止めてもらえないか?」
「ええ~……読者と共有してこその作品じゃない。一人脳内妄想で終わったらただの自己満足だよ」
「……ワタクシとしては、是非とも自己満足の範囲で終わらせてほしい内容なのを理解しているのかな?」
「全然まったくちっとも。ホトの都合なんかどうでもいいわよ。自分と読者が満足出来ればいいんだから」
話がまったく噛み合わない両者の主張は、どこまでも平行線のまま。
これでは時間の無駄だといち早く気付いたホトは話題を変える。
甚だ不本意だが、マレフィキウムの妄想、妄言を黙認する形で。
「そんな事より……そろそろ働け、『大魔女』。現代に生き返ってから今日まで、好き勝手しすぎだ」
「せっかく生き返ったんだからしばらくは好きにさせなさいよ。ずっとこの先も自由にブラブラするつもりはないんだから……多分」
「最後の一言でますます不安しか感じないぞ。つべこべ言わず、さっさと王国との最前線に行ってトゥアラを援護してこい。それ以降はしばらく好きにすればいいから」
どこか諦めたように、疲れた様子で命令するホトに、やれやれとマレフィキウムは頭を振る。
わざとらしいまでの仕草。
まるで、困った雇い主だと言わんばかりのマレフィキウムの態度に、ホトは苛ついた。
「さっさと行け『大魔女』。強制命令権を使うぞ」
切札である命令権を脅迫するようにチラつかせるほどに。
「嫌がる者を無理矢理にでも服従させる命令権をか?こわいコワイ」
それに対しても、『大魔女』と呼ばれたマレフィキウムの軽口は止まらない。
死者であるマレフィキウムを使役できる、ホトの『神剣』の特性などまるで歯牙にもかけないように。
そんな不遜ともいえるマレフィキウムの態度に、舌打ちしそうになる己を自制しつつ、再度の命令内容を告げるホト。
「今すぐ最前線に向かえ」
これが最終通告。
これで従わなければあまり気は進まないが、優秀な駒である『大魔女』にペナルティ制限が発生する強制命令権を使うつもりだというホトの決意が、マレフィキウムにも伝わったのだろう。
「承知した、今すぐに最前線に向かうとしよう」
今までのやり取りが嘘のように、マレフィキウムはあっさりと承諾した。
あまりにも素直な『大魔女』に、ホトは思わず疑いの目を向けたほどだ。
引き際を心得ているだけのマレフィキウムにすれば、ホトの反応は素直に面白かった。
さすがに声には出さないが、笑いは堪えきれそうになかった。
「では行ってくるよ」
笑いを誤魔化すように、マレフィキウムは身にまとう黒いローブをバサッと翻した。
そして重力剣技、滞空を発動したままで更に追加で剣技発動。
「重力剣技、浮遊瞬動」
大量の魔素を展開しつつ、『大魔女』マレフィキウムは空を駆ける。
その速度は軽く音速を超え、あっという間にホトの視界からマレフィキウムの姿が見えなくなるほどに。
「苦もなく連続剣技を使用するとは……『大魔女』の称号は伊達ではないという事か」
感嘆するように呟くホトの賞賛は、もちろんマレフィキウムの耳には届かない。だからこそ、マレフィキウムの呟きもホトには聞こえない。
「いつでも自由になれるからいいんだけど、ホトもちょっと口喧しくなってきたわね~…。目覚めさせたからなし崩し的に流されたままついてきたけど早まったかな?……はぁ~~どこかにいいベストカップリングはいないものかしら?」
ましてや音速を凌ぐ速度で駆け抜けているのだ、本人以外にはまったく理解できないだろう。
そうやってウダウダ迷いながらも、マレフィキウムは二大国の最前線上空に到着した。
ホトの命令内容は同じく『剣神』のトゥアラの援護だ。
援護など必要ないだろうが、その指揮下に入れという意味なのだろうと認識したマレフィキウムはまず、トゥアラを探す事から始めた。
ホトとは異質だが、しかしどこか似た波動を感じて、マレフィキウムはそちらに移動する。
最前線と言っても広大な戦場を、だがマレフィキウムは苦もなく目当ての人物を探し当てた。
「……何やらお取り込み中かしら?」
行き着いた戦場ではトゥアラらしき美少女と、それに対峙している赤髪の男がいた。
両者のただならぬ雰囲気に、何だか興味がわいたマレフィキウムは聴力を強化。 二人の会話を盗み聞きした。
そして会話内容から二人は実の兄弟なのだと知り、即座にマレフィキウムの脳内妄想がフル回転した。
カイン×アベル。
「キターーーーーーーーーーーーーーー!!」
マレフィキウムは思わず叫んだ。
力の限り、それはもう力強く。
「兄弟キタコレ!!大好きな兄に異性として見てもらいたいがために、男の娘が女の子になる為『剣神』になった弟の純愛!このカップリングならノーマルでもいけるし、男同士も書ける!なにこのベストカップリング!すごいポテンシャルを秘めてるよ!?これよ、これに出会うために生まれてきたのよ!」
『大魔女』、マレフィキウムは人生で一番と言い切れる歓喜の叫び声をあげた。それだけでは興奮が冷めず、次々に脳内妄想が垂れ流される。
迸る方向違いなその熱意を、しかし誰が止められるだろうか?
地上からの複数人の視線など、意識の外にあるマレフィキウムの脳内妄想はしばらく暴走し続ける。
そんなわけで腐女子なマレフィキウムさんでした。
このキャラが爆誕した経緯は活動報告の方にでも書いておきます。
何か書いている間にすごく気に入ったキャラになりました。 可笑しい、こんなはずじゃなかったのに。




