七十・五話
アッチコッチに飛びます。
今やロードギアにおいて三大勢力の一角となったミクトラン帝国はその領土を順調に拡大、遂には『剣神』の一人、《神壊》ラーズが治めるアースガルズ王国と国境を接する形となった。
近い将来、二大国がぶつかり合うのは時間の問題とされており、どちらから戦端を開くのか……バルト大陸全ての人間が緊張感を高めていた。
不穏な動きしか見せないミクトラン帝国を前に、アースガルズ王国の女王ラーズは即座に国境戦力を増強。
攻撃特化の狼王騎士団を筆頭に、守備特化の王国守護騎士団を動員。
精鋭部隊をミクトラン帝国と接する国境に展開したアースガルズ王国に、さすがの帝国も下手なチョッカイを出せないだろう………そんな大多数の思惑はしかしすぐに打ち砕かれた。
ロードギア屈指の精鋭部隊など取るに足りないとばかりに帝国は侵攻を開始、事前の緊張感はどこへやら、こうして二大国はあっさりとあっけなく戦端を開くことになる。
戦争の始まりは実に唐突だったが侵攻してきた帝国の大軍勢を前に、王国側の軍は即座に対応。
両国の兵がぶつかり合った。
まずは前哨戦の一般兵同士の戦闘が始まる。
この時点で如何にどちらが剣使部隊を動かすかで戦況は一気に傾く。
先に手札をさらせば不利なのは自明の理。
ならばここは指揮官として我慢、忍耐のときだ。
どちらが先にしびれを切らすか?
切らしたのはミクトラン帝国だった。
一気に投入される剣使部隊が一時的とはいえ戦場を完全に支配し、勢いそのままに王国軍を瓦解させんと突っ込んできた。
しかしこの時、王国側の指揮官……王国守護騎士団、騎士団長のメイゼルスは帝国の動きが腑に落ちなかった。
「何を考えているんだ敵は?」
思わず口に出してしまうほど、帝国の動きは不可解なものだとメイゼルスは感じていた。
(あまりにも剣使部隊の投入が早すぎる)
しびれを切らす……そんな段階でもない話。
拙速ともいえる投入タイミングに、帝国の指揮官は素人かと思えてしまうほどだ。
だがセオリー通りじゃないその戦い方は、一時的とはいえ王国軍を浮き足立たせている。
一刻も早く立て直さなければこのまま押しきられるかもしれない。
だが王国軍を指揮するは守りに関してなら完璧とも評判の守護騎士団の団長、メイゼルス。
いつまでも翻弄される無能ではない。
「剣使部隊で応戦する、守護騎士団を前面に出して剣使部隊の盾となり、損傷を減らせ。敵剣使部隊が疲弊したならすぐに狼王騎士団を側面に回し、食い破れ」
冷静に対応するメイゼルスの指揮は的確に帝国の兵力を削り、見事初戦の勝利に貢献した。
だが戦争は始まったばかり、血で血を洗う戦いはまだ続く。
不様にも初陣を敗戦という不名誉な立場の帝国側の指揮官、トゥアラは楽し気に笑っていた。
「負けちゃったね、メルレガ」
「えぇ、ものの見事にやられました。こちらの被害は一般兵千五百、剣使は百二十ほどです」
いつもは口の悪いメルレガも、トゥアラの前では慣れない敬語で報告していた。しかしそれを不快などとは思うことなく、なお一層楽し気に笑みを深めるトゥアラ。
「毎回いってるけど別に普段通りに喋っていいんだよ、メルレガ?」
「勘弁して下さい、自分にだって最低限の礼節はあるつもりです。トゥアラ様限定ですが」
事実、メルレガは他の『剣神』には敬語すら使わない。
あくまで自分の主はトゥアラだけだというスタンスを、他の『剣神』は面白そうに見つめるだけだ。
「せっかくホトからもらった兵を消耗しちゃったね~。わるいことしたな~」
言葉とは逆に、まったく悪びれてもいないトゥアラは眼前の机に上半身を投げ出した。
ダラ~とだらける主を前に、メルレガは侮蔑もせずに直立不動で待機する。
「ですがまだ前哨戦の段階です。互いに一般兵と低位剣使のぶつけ合いだけ……本番は高位剣使同士の衝突ですからあまり今回の敗戦は気にすることはないかと」
「それもそうだね~、こっちにはホトの部下だけでも高位剣使が四百くらいはいるんだし……これからだよね~」
「色々と各方面に散らばってはいますが、すでに王国側の高位剣使を数名始末したとも聞いてます」
「ならこっちはこっちで両陣営の被害を拡大させていこうか~。一秒でもはやく『始まりの龍』に姿を現してほしいし」
「まったく同意します。なら明日も派手に兵力を消耗しますか?」
「どんどん使い捨てていいよ~。命令に従わない奴は人形師に任せればいいし」
「……こんな面倒くさい事しないで一気にやっちゃ駄目なんですか?正直、こうチマチマした作業は性分じゃないんですが」
ややウンザリ顔をするメルレガに、トゥアラは笑顔のままでたしなめる。
「駄目だよ~、まだ『剣鬼』が別大陸を制圧してないし。『剣鬼』が来る前にアースガルズ王国を潰したら盛り上げに欠けるでしょ~」
「なるほど、湿気た花火なみに盛り上がりませんね。ならその時が来るまで我慢します」
「いつも我慢ばかりさせてゴメンねメルレガ。でも安心して、世界は確実に終わりに向かっているから」
「その時が来るのが待ち遠しいですよ」
互いが世界の破滅について笑顔で語り合うのはいつもの事。メルレガは心中で何度目になるかわからない願望を願う。
(はやく世界が壊れますように)
一心に、無邪気に、純粋に、そう願う。それだけがメルレガの生き甲斐なのだから。
一人の少女が、そばにいる青年に語りかける。
「ねえリュウちゃん」
「……いい加減ちゃん付けはやめないか?」
「リュウちゃんはリュウちゃんだからいいの。それよりも戦争、始まっちゃったね」
「あぁ、そうだな」
「こんなに大きな戦いだと始祖龍が目覚めちゃうよ?」
「そうだな」
「そうしたらわたしたち、強制的に巻き込まれるかもしれないよ?」
「間違いなく巻き込まれるだろうな」
「リュウちゃんはそれでいいの?」
「わからん。だがその時その時を最善の形にもっていけるようにするだけだ」
「……わたしはこうやってリュウちゃんと一緒にいるだけで幸せなのに、なんでみんなわたしたちを巻き込もうとするのかな?」
「お前も俺も、自分ですら持て余す力を持っているからだろうな」
「好きで持ちたくて持ってるわけじゃないのに」
「持ってない奴にとってはこちらの都合なんて関係ないんだよ」
「……理不尽だね」
「世界は常に理不尽だよ。ほら出番が来るまで寝てろ。いずれ寝たい時に寝られない日々がくるんだから寝溜めしておけ」
「……うん。ねぇ、リュウちゃん」
「なんだ子守唄でも歌ってほしいのか?」
「歌ってくれるの?」
「お前が望むならな」
「じゃあ歌って。いつものやつを」
「はいはい、お姫様」
心地よい子守唄を聞きながら、少女は青年の名を呼ぶ。
「リュウちゃん、好きだよ」
半分夢心地の少女の告白に、子守唄を歌いながら青年は優しく微笑む。
ロードギアにおいて一定量の魂が消費されています。
…………………了解、『始祖龍』の封印を解除準備します。予定されている魂の消費量がオーバーした場合、封印を即解除。
ロードギアに投下します。
なお、『始祖龍』が倒れた場合のセカンドプランの提示を願います。
…………………………了解、変更なしで登録します。
『始祖龍』の封印が解除された時点で報告しますか?
…………………了解、全員に報告します。
なお、ロードギアに降りている方にも報告は必要ですか?
………………………………………………………………………了解、報告は不要と登録。
ロードギア途中経過報告を終了。
また会う日まで、ごきげんよう。
いずれ各々の正体は解禁されるので待ってて下さい。




