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剣と龍と神  作者: カナメ
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六十六話

キーリカ外面モード発動!

「お帰りなさいませヴェルガード様」



「ただいま、キーリカ。とは言っても城門前までしか行ってないぞ」



巨城に一歩入ると早速の出迎え。

その出迎えが一目見ただけで強いと感覚で理解。

思わず無意識に緊張で体が強張る……だがヴェルガードは軽く茶化して素通りした。

これを素通りとかどんだけ豪胆なんだよヴェルガード。

見た目は小柄な奴の背中が二倍にも三倍にも大きく見えた瞬間であった。



「お二方もようこそ。ヴェルガード様の客人として歓待いたします」



言外にあまり歓迎してないと言われてる気がしてならない。殺気どころか敵意すら感じないのが逆に恐いんだけど。



「…………」



こちらはこちらで、さっきから無口なルシスは不機嫌オーラを隠そうともしていない。

片や上機嫌なヴェルガード。

片や不機嫌なルシス。

……何だこの正と負の感情の狭間は?

とりあえず返事くらいはしておこう。



「お気遣いなく」



事務的に対応し、パーソナルスペースを確保しておく。

相手も心得たもので絶妙な距離感でそれを察し、踏み込んでこない。

『剣鬼』とは思えない駆け引きの巧妙さに、思わず口笛を吹きたくなったが場所が場所だけにさすがに自重しておく。



「紹介が遅れました、わたしはヴェルガード様の下僕でキーリカと申します。以後よろしく願います」



『剣鬼』にしてはやけに色男な外見と丁寧な口調に警戒心が増加中。

キーリカ、ね。

要注意人物の上位リストに記載しておくよ。



「ご丁寧にどうも。オレはカインで」



指先を左隣にいる銀髪美女に固定化。



「隣にいるのがルシスだ。よろしく」



「……」



やはり何も喋らないね、ルシスさん。

こちらの自己紹介にキーリカはペコリと会釈したので反射的にこちらも会釈返し。



「何だかやけに腰が低い『剣鬼』だな。違和感しか感じないぞ」



強いとわかるからこそ余計にそう思えてしまう。

強くて理知的なんて……今までの『剣鬼』のイメージから真逆の存在だぞ、あれは。



「マスター、油断なさらないで下さい。いくら理知的に見えても所詮は『剣鬼』。化けの皮を一枚剥がせば獣と同様です」



ようやく喋ったかと思えば毒舌全開だねルシスくん。



「下手な貴族よりよほど紳士的な振る舞いだけど……わかった、油断せずに対応するよ」



「はい、それが最善です。ファラの身柄を確保したらすぐにロードギアに帰りましょう」



よっぽど長居したくないんだな。

因縁ある敵の本拠地だから仕方ないと言えば仕方ないのか。……オレに緊張感がなさすぎるのか?

ヴェルガードの存在を確認した時点でオレにとってココは『剣鬼』の本拠地から友人の家って感覚なんだが。

不思議なくらいに敵意を感じないし。

本当にここは『剣鬼』の本拠地なのかと疑ってしまうほどに。



「ここには今現在、妄執にとりつかれた輩はいませんから大丈夫ですよ」



心の中を的確に読まれたような錯覚に陥るほど、キーリカはピンポイントでオレの疑問に答えた。



「わかりやすかったかな、オレ?」



「はい、とても」



うわ、恥ずかしい!どんな間抜け面をさらしてたのか聞きたいような、聞きたくないような……うん、聞かない方向でよろしく。



「妄執にとりつかれた連中とやらは今どこに?」



「ロードギアに帰還しました。ちなみにわたしは留守役です」



「き……かん?『剣鬼』がロードギアに?」



「はい、派手に暴れ回っていると部下から情報も入っています」



とんでもない事をサラリと口にしたキーリカの表情は微笑を浮かべたままだ。

まるで「今日もいい天気ですね」と言うように何気ない様子で。



「それは……ヴェルガードの命令か?」



核心をつくオレの問いに、キーリカは表情を変えずに



「いいえ、違います」



否定してくれた。

よかった、危うく友人の一人と死闘を始めるところだった。



ヴェルガード様は連中がロードギアに帰還した後に、こちらに参られました。連中のは独断専行ですよ」



キーリカの表情や声に変化はない。

ないんだが……言葉の端々に怒りを感じる。

どうやら『剣鬼』も一枚岩ではないらしい。



「何者かもわからない他者に都合よく踊らされている愚者ですよ、連中は」



紳士的な振る舞いはどこへやら、キーリカは吐き捨てるように呟いた。

すぐに冷静さを取り戻し、「失礼しました」と取り繕うが今更だな。

今のやり取りだけでキーリカがどれだけヴェルガードに忠誠を尽くしているのかが充分に伝わった。



「ところでここにオレの……」



ファラは相棒?友人?恋人?なんと説明すればいいんだ?

ピタッと中途半端に途切れたオレの台詞を



「ファラはどこだ?ここで歓待されてる聞いたんだが?」



ルシスが引き継いでくれた。



「城の最奥にあるヴェルガード様の私室にいらっしゃいますよ。主がいないと言うのに、形式というか飾り物の部屋でしかなかったですが一番いい部屋です」



至れり尽くせりの厚待遇だな。

ファラ本人が気に入っているかは知らんが。



「それにしても……デカイ城だな」



街の一つや二つ分は余裕でありそうな広さだ。

ここは城という名の巨大都市といっても過言ではないだろう。



「この城には『鬼界』にいる全ての『剣鬼』が生活してますから、これぐらいが丁度いいんですよ」



「……その割りには随分と風通しのいい箇所を見受けるな」



おいおい、いつになく皮肉を大量生産してるじゃないかルシスさん。



「あぁ、所々にある大穴の事ですか?アレは言いにくいんですが、我々とファラ殿による戦闘の余波での損傷です。急いで壁を修復しているのですが、遅々として進まず……」



やや困ったように苦笑いするキーリカに、オレも苦笑するしかない。

何かうちの子がやらかしてすいません状態だ。



「誰でも目覚めた場所が『剣鬼』の巣窟なら暴れるでしょうしね」



キーリカはフォローのつもりかもしれんが、まず普通なら暴れないから。

敵地のど真ん中で暴れまわったら大概は死ぬし。



「ここです、ファラ殿がいるお部屋は」



案内役のキーリカが大層ご立派な扉の前で立ち止まる。

ここにファラが……やっと会える。

この時のオレは少々浮かれすぎていた。 何とも言えない違和感を感じてはいたのに、結局気付けなかったのだから。



「ファラ!」



扉を勢いよく開けるとそこには驚きながらも嬉しそうなファラの姿…………



「いつまで閉じ込めるつもりじゃボケーーーーーーー!!!」



なんて感動ご対面はなかった。

出迎えたのは笑顔じゃなく、かたく握りしめた拳。

一瞬で、うん、これは避けられないなと冷静に分析。

一秒にも満たない時間経過で、見惚れるような右ストレートがオレの左頬を直撃。



「ぐべらばぁどは!!」



実に不様な悲鳴をあげて壁まで吹き飛ぶオレは確かに見た。 忍び笑いをする、意地悪そうなキーリカの表情を。



「……あれ?カイン?……………………アタシやらかしちゃった?」



バツが悪そうに顔をしかめるファラに、ユラリと動き出すルシス。



「ファラ、貴女せっかくこんな辺鄙な異界にまで迎えに来たマスターを邂逅一番殴り飛ばすなんていい度胸ね……」



「ま、まてルシス!これには深い事情と悲しい誤解とほか諸々が交錯した結果の悲劇だ!」



意識朦朧とするなか、ファラが必死に言い訳している。

あんなに慌てふためくファラはかなり珍しく、貴重だ。

だからどうしたってわけでもないが、なんか得した気分だ。殴られた分はこれでチャラにしてもいい。



「そんな言い訳でワタシが納得するとでも?」



「あー……ムリ…………かな~……………………」



オレは何とか立ち上がるが、口をはさむにはまだ少し時間が欲しい。

何故かって?

顎が痛くて喋れないんだよ。

道雪以上の威力だったぞ、あのストレート。

そんなこちらの様子を、やや遠巻きに眺めていたヴェルガードがゲラゲラと大爆笑している姿を発見。

野郎……先にどこかへ消えていたかと思えばこの状況を一番楽しく、かつ巻き込まれない位置で観覧してやがった!

この結果を予測して、あえて放置しておくとは……ヴェルサガードめ、覚えておけよ。

しかしほんのわずかな違和感の正体は、扉の向こうで怒り狂うファラの怒気だったんだなと今更だが理解した。



「なら覚悟は出来てるわね?」



「いやそれはまた別の話というか……ルシス、冷静に話し合おうよ」



「ワタシは至って冷静です」



姉妹喧嘩?はルシスの一方的な展開だ。 ファラの方は押されまくりで見てて可哀想になってきた。

そんなファラが救いを求めてオレを見つめるが……いやオレでは力になれないぞ。

相手が『剣鬼』やら『剣神』ならともかく、ルシスだぞ!

無理無理。

オレは力なく首を左右にふる。

……いや、そんなに睨まれても無理なものは無理だからねファラさん。



「わ、わかった。ルシスは冷静だよ、うんスゴく冷静!だから……展開している魔素を何とかしよ?」



「その必要性がないと判断します」



「いやいや、そんな魔素量を展開、解放したらここら一帯極寒区域になるから!」



そう、恐ろしいことにルシスは異常なまでの魔素を展開して怒っていた。

先ほどの二百あまりの『剣鬼』の殺気すら可愛く思える絶対零度の威圧。

それに正面から向き合うはめになっているファラほどではないにせよ、背筋に嫌な汗が流れる。

視線だけで周囲を確認すると、いつの間にか案内役のキーリカはヴェルガードの元に避難していた。



「どうせここは『剣鬼』の城です、多少壊しても問題はありません」



「物は大切にしよう!ねっ!!」



いや城の一部を吹き飛ばしたファラには言われたくないだろ。



「……わかりました、物は壊しません」



おや、ルシスから譲歩した?

怒りゲージが減少して落ち着いたのか? ルシスの言葉に、ファラがあからさまにほっとする。

だがこの時、オレとファラは互いにまだルシスの怒りを正しく認識できていなかった。

増大していく魔素がその証拠。



「えっ?あれ?」



間抜けな声を発しているファラを無視し、一秒未満で現状把握したオレは一目散にトンズラ。こういう一瞬の判断が生死をわけるのだと体で覚えているからこその即断である。

ああやって状況においてけぼりにされているファラは残念だが……。



「壊しはしません。ただ凍らせるだけです」



怒りゲージは減少したわけじゃない、ゲージの限界を突破しただけなのだ。底冷えするルシスの宣言と同時に魔素が解放。

ルシスを中心に、床が、壁が、空気が、音速の速さで凍えていく。



「!!!」



咄嗟に出せるだけの魔素を展開したファラの反応は驚嘆ものだ。

おっとまずい、もっと離れないと巻き添えくらう!















こうしてこの日、『剣鬼』の本拠地たる巨城の一角は極寒区域に早変わり。

しばらくの間は立ち入り制限される事となった。

この結果にヴェルガードは大爆笑、キーリカは苦笑いしていた。

ちなみにオレはファラとルシスを正座させて説教した。……なんで千年以上を生きている『剣龍』が、たかだか二十年しか生きてないオレに説教されるはめになるんだと思ってしまった今日この頃である。

何か予定より早くファラと合流しました。

おかしい、予定ではもっと長丁場になるはずだったのに……まぁテンポよく行きましょう、今までもこれからも。


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