六十七話
「面白いものが見れたな」
ヴェルガードの感想に、ファラとルシスが射殺さんとばかりに睨みつける。
殺意すら入り交じる視線を、しかしヴェルガードは華麗に無視。
やれやれ、もっと平和的にコミュニケーションをとろうぜ。場所は移って巨城の最上階。
狭くもない立ち入り禁止区域が二ヶ所に増えても、この城のスペースには余裕があり、広大さがわかる。
うん、案内なしだったら迷うな。
「カインにはこれまでの経緯を話しておかないとな」
「ん?ああ、頼む」
見張らしがいい光景を背景に、ヴェルガードがこれまでの経緯を語り出す。
要約するとヴェルガードも十朗太からホトの暗躍情報を入手し、オレが『鬼界』に来るのを推考。
ならばかつての借りを返す為にも力をかそうと『鬼界』に来たらしい。
おかげでこうしてオレ達は『剣鬼』の本拠地で暢気に歓待されることになったわけだが……なら最初から平和的に歓迎しろよ。
「さすがに何事もなくファラを救出したらつまらないだろ?」
「そういう問題か?」
「そういう問題だ。まぁ今回の茶番劇を演じられたのも、キーリカがワシを敵として迎撃しなかったのが一番の要因だな。じゃなければこんな余裕はなかった」
どうやらヴェルガードも自身の脚本内容が三流であったのには自覚があった様子。
よかったよかった、あれを自信満々に自慢してきたらどうしようかと思っていたから一安心だ。
「『鬼神』たるヴェルガード様を見間違えるなどあり得ません」
自信満々に言い切るキーリカに、ヴェルガードは微妙そうな表情だ。
「いやワシは確かに『鬼神』の生まれ変わりだが、外見は随分と様変わりしただろ?かつての身長、体重、体格……どれも規格外だったはずだが?」
「外見などでわたしは判断いたしません。魂で、感じとるのです!」
「そ、そうか?すごいなキーリカは」
「当然のことであります」
いい笑顔のキーリカとは逆に、ヴェルガードは気持ち若干引いている。
まぁ根拠のない、勘やら感覚の判断基準だから仕方ないだろうと一人納得。
「しかし他の『鬼王』連中がいない時に来られたのは僥幸です。あの不忠者たちがいれば、ああも簡単にヴェルガード様を城に受け入れられたか分かりませんでしたから」
「そうなのか?生まれ変わりと言えどもヴェルガードは『鬼神』だろ?」
『剣鬼』だったら狂喜乱舞して歓迎する一大事もんだろ。
「良くも悪くも『剣鬼』は自立してしまったという意味です。今の支配層たる『八鬼王』にしてみれば、ヴェルガード様は諸手をあげて歓迎できる存在ではありません。……こう言ってはわたしも不忠となじられるかもしれませんが、今のヴェルガード様の力はかつての最盛期に比べてあまりにも貧弱。最悪、排斥された可能性すらあったでしょう」
「そんなにマズイ状況だったのか?」
自覚なかったのかよヴェルガード!
「残念ながら。まぁわたしとしては弱くなろうが見かけが小さくなろうがヴェルガード様は忠誠を尽くす唯一無二の主人。下僕は仕える主人がいて初めて役に立つのです」
心からそう思っているキーリカはまさに忠臣。
あんた漢のなかの漢やで!
ファラやルシスもそんなキーリカの気概だけは共感できるのだろう、うんうんと頷いている。
「……だからと言って半ば軟禁された身としては全てを美談としては受け入れられないが」
ファラの苦情に、キーリカは即座に頭を下げた。
床に頭ぶつけるんじゃないかと思えるくらい深々と。
体柔らかいな~。
「いや、すまん。それはワシの指示だ。キーリカは責めてくれるな」
「『鬼神』の……。なんだ、二千年前のことを根にもっているのか?」
ならばお互い様だと言わんばかりのファラに、ヴェルガードは「違う違う」と手を左右にふる。
「お前さんを解放したらカインはすぐにロードギアに帰るだろ?それはちょっといただけない事態だ」
「何故だ?それは貴様の都合か?はたまた別の思惑あっての事か?」
ルシスの指摘に、ヴェルガードは正面から応える。
「お前さん達が来る前にキーリカに頼んでロードギアの情報を収集してもらっててな、その内容に関連する」
「内容は?」
「大戦だ」
その一言に、客人であるオレとファラ、ルシスが息をのむ。 反してヴェルガードたちは特に無反応。 事前に情報を共有している証拠だ。
「大戦、か。あまりにも物騒な発言だが……確証はあるのか?」
三人のなかですぐに立ち直れたのは過去の大戦を記録としてしか知らないオレだった。
大戦を直に体験しているファラとルシスは未だに浮かない顔で沈黙している。
「あぁ、じゃなければこんな決め顔で断言できんよ」
軽くふざけるヴェルガードだが、発言内容は訂正しない。
つまりそれだけに関しては冗談の類いではないという事か。
「何故そう判断したのか聞いても?」
「今この瞬間、おかれている状況がその判断基準だ」
「……………………これ以上ないくらいに簡潔にして簡単な答えだな」
だが疑いようはない。
確かに、『剣鬼』がロードギアに帰還しているこの状況そのものが大戦の前兆だわな。
「ワシがこちらに来る前でもロードギアには色々ときな臭い噂が錯綜していたぞ」
「………言い訳になるがファラの身を案じるあまり、周囲を見回す余裕がなかったんだ」
「ふむ、仕方ないと言えば仕方ない、か。しかしカインはどうやって『鬼界』に来たんだ?カギとなる『神剣』は持っていないだろ?」
「あぁ、それなら『直刃』セトの力を借りて……」
「セトだと!!?」
オレの言葉を最後まで聞くことなくヴェルガードが信じられないとばかりに叫んだ。
事情を説明していなかったファラも、ヴェルガードほどではないが驚いている。
「ルシス、本当か?」
よほど衝撃的な情報だったのだろう、ファラがルシスに確認している。
「えぇ、お願いしたワタシも信じられないけど、セトはあっさり頼みを聞いてくれた。思わず拍子抜けするほど簡単に」
「天変地異の前触れか?奴が他人の頼み事を快諾するなんて……」
ひどい言われようだな、セトは。
そんなに悪い奴には見えなかったが。
「あの世捨て人が他人の頼み事を快諾するなど信じられん」
ヴェルガードはよほど信じがたいことなのか、信じられないを連発している。
いやなんかここまで言われてるセトも大概だが、何だかやけに可哀想になってきたぞ。
「そうか?気のいい人物だったぞ」
助力してもらった身としてはここで多少はセトのフォローをしておこう。
世話になった恩人みたいなもんだし。
しかしそれはあまりにも不用意な一言だったと、オレはすぐに思い知らされた。具体的には……
「カイン、騙されてるぞ!奴はそんないい人的ジャンルには当てはまらない!」
いやいい人ジャンルってなんだよヴェルガード?
だがまぁさすがに今のヴェルガードの言い草にムッとしたオレは反論しようとしたが……
「カイン、今回ばかりは『鬼神』の言う通りよ。奴がいい人?ハッ」
うわ、ファラが鼻で笑った。
笑止千万という態度に、どんだけセトはマイナスイメージが強いんだろうと心配になってきた。
「マスター、あれは神の気まぐれレベルでのあり得ない奇跡です。ワタシもここに送られるまでは半信半疑でしたから」
ルシス、あれって奇跡レベルだったの? 確かに拍子抜けするほど順調だったけどさぁ。
しかしひどい言われようだなセト。
あんたに対する評価は軒並み最底辺だぞ。
「ヴェルガードの口振りからすると会ったことあるみたいだな、セトに。時期的に考えると生まれ変わってからか?」
『鬼神大戦』時にはセトはまだ生まれてないはずだし。
「あぁ、そうだ。直接セトに会ったのはおよそ十年前……ワシがまだ十二才の頃だ。その時点で既にある程度の力を使いこなしていたワシは慢心していた。いくら弱くなったこの身でも、ワシより強い者は『剣龍』くらいだと……。甘かった。実に甘い考えだった。『剣龍』を倒した『剣神』という存在を軽視しすぎていた」
その時の出来事がトラウマになっているのか、ヴェルガードが震えている。
いやいや『剣龍』の族長たる『龍神』ともガチで死闘を繰り広げただろお前は。
「何があったのですか?」
敬愛している主たるヴェルガードが震えるほどの相手に興味があるのか、キーリカが続きを促す。
いやトラウマを抉るなよ。
「……慢心していたワシの前に、奴は唐突に現れた。今でも鮮明に思い出せる、奴の気だるげな姿を。圧倒的強者のオーラを放つ、化け物を…………!」
いや鬼神に化け物呼ばわりされるなんてどんな人外だよ。
当時幼いヴェルガードにどんなトラウマをうえつけたんだセトは。
そして語り出されるヴェルガードの過去。
『直刃』セトと『鬼神』の生まれ変わりであるヴェルガード……二人の出会いは地下遺跡。
当時は自分こそが強者だと驕り高ぶる少年時代のヴェルガードが、財宝を探しまわっていた頃から話は始まる。
ごめん、少し長くなりそうなのでここでぶつ切り。




