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剣と龍と神  作者: カナメ
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五十七話

ネタを求めて旅に出ます。……あくまで近場ですけど。


メルレガを睨みつけるルシスを見て、改めて確信した。

ルシスを怒らせてはいけないと。



ルシスが睨んだ先は樹木の上。

メルレガはそこに避難していた。

ルシスが発動した剣技により周囲一帯が氷原と化しており、溢れんばかりの死体や血は文字通り凍りついていた。

メルレガが生み出した肉と血だらけの赤い世界は今や、氷の世界に強制的に変更させられたのだ。



「何だよ何してくれてんだよふざけんなよオイ!俺様の!世界を!こんなつまんねぇ色に染めてんじゃねぇよクソが!!」



それに怒り狂うのはもちろん一人だけ。 メルレガの血走った目はオレではなくルシスへと向けられる。

ルシスを睨み返しながら歯ぎしりしている奴の形相はまさに獣同然。

互いに憎悪と殺意がこめられた睨み合いは、メルレガの先制によって終わりを告げた。

獣の如く法則性のない動きで接近し、ルシスへと襲いかかる!

対するルシスはそれを真っ向から迎撃する構えだ。

……ってオイ!

ルシスは魔剣使だろ!?

魔剣使は中・遠距離こそがその真価を発揮するタイプだ。

そしてメルレガはどう見ても近接特化の聖剣使。

なのに相手の土俵で戦おうとするなんて無茶、いや無謀だ!

だがオレのそんな危惧に反して、突然メルレガは接近を中止、ルシスとの距離をとる。

まるで意図の読めないその不審な行動に脳内には疑問符しか浮かばない。

何故わざわざ自分に有利な状況を捨てたんだ?

あのまま接近戦を展開すれば勝てたかもしれないのに、何故?

対峙するメルレガの表情は警戒。

対してルシスはクールな美貌、そのままだ。

焦りなど微塵も感じさせない、まるで今までの流れが想定通りだといわんばかりに。



「チッ、厄介な」



苦々しく吐き捨てるメルレガの眼前には氷の花が一面に広がっていた。

一輪一輪が綺麗で目を奪われる……が、それは殺意の塊でもあった。

一秒にも満たない時間で咲き乱れる氷の花が一斉に、散る。無数に散った氷の花弁一枚一枚が鋭い刃物となり、ルシスの



「切り裂け」



命令と同時にメルレガ目掛けて襲いかかる!

まるで意思をもつようにザァッと動いた無数の花弁はメルレガを上下左右に包み込んだ。

属性剣技『氷天氷華』はフィールドを氷原にしてからこそが真骨頂。

これよりは氷原の範囲内すべてがルシスのテリトリー。

逃げ場など、ない。だが、何事にも例外はある。

鼠一匹すら通る隙間のない刃の包囲がメルレガに殺到するが



「属性剣技、四樹八守」



足元の樹木を媒介にした剣技をもってそれを無傷で防ぐ。



「すごい……!」



両者の展開する剣技と魔素にオレはただただ驚嘆するしかない。

これほど激しく、しかし無駄のない戦いはそうそうお目にかかれないだろう。

ならば一瞬たりとも瞬きせずにこれらを網膜に焼き付けておかなければ!



「……少しばかり侮っていた。どうやらただのS級ではないらしいな」



二刀を手にしたルシスが初めて侮蔑以外の感情でメルレガを見つめる。



「……こっちも認識を改めるぜ。見かけによらずやるねぇ」



怒りなどはとうに消え失せ、今はただ愉快そうに笑みを浮かべるメルレガ。

美味い獲物を見つけたと語る獣の笑みが妙にハマっているように見えるのはオレだけか?



「大した事ないなんて見くびって悪かったなぁ~?中々にそそるじゃねぇかよ!」



嬉々として笑うメルレガの周囲から膨大な魔素が視認、同時に殺意の具現化とばかりに



「属性剣技、血密槍」



剣技発動。

ルシスの足元から鋭い何かが(多分だが植物の根?)密集して容赦なく串刺しにした。

血飛沫が一面に飛び散る……本来なら。だがそれは幻影だとメルレガは即座に見破り、死角へと回り込んだルシスに裏拳を放つ!

だがルシスはその更に上をいく。

回避でもなければ、防御でもなく、受け流す。

勢いを殺さず、流れるような動作でメルレガを投げた。

数瞬後、地面に背中から叩きつけられたメルレガだが受け身をとった効果か、さほどのタイムラグなしですぐさま起き上がる……だがその表情は明らかに驚愕していた。心理状態を表面に出させてしまう程にはメルレガの度肝を抜いたらしい。

獣の顔から初めて余裕がなくなった。



「……シャレになんねぇな、おい」



コキコキッと手の骨を鳴らしたメルレガから溢れんばかりの殺気が霧散した。

それこそ欠片もなく。

出会った当初から殺気を隠しもしなかっただけに、それはあまりにも不気味すぎた。

ルシスもその違和感に気付いたのだろう、両手に握る二刀をやや上方に構えた。しかしその警戒をまるで見えていないかのように無視して一気にメルレガが踏み込む!

速い!!?

呼吸の間を奪うように踏み込んだ接近にルシスの反応が一瞬、遅れをとる。

そして、その一瞬はあまりにも高くついた。



一切の無駄がない一撃がルシスの心臓に寸分違わず放たれる!

だが虚をつかれたにもかかわらず、それにすぐ反応したルシスの反射神経も賞賛ものだ。

だがそれをもってしてもメルレガの一撃は完全には避けきれなかった。

ルシスの細い肩にメルレガの拳が深々とめり込む。



「ぐぅっ!!」



その威力に思わずルシスが苦鳴をあげた。

マズイ、あれは骨の一、二本はもっていかれた!

結果的に心臓は守れたがその代償はデカイ。

刀を手から離さなかったのは流石と言うべきだが、あれは傍目から見ても、もはや使いものにはなるまい。

メルレガとの間合いを広げたルシスの左腕がダラリと力無く垂れ下がる。



「今のを直撃させないなんてどんだけだよ」



やや呆れたように呟くメルレガに追撃の意思はない。

その様子はルシスの人間離れした反射神経に呆れているかのようにも見えた。



「甘く見るなと言いたいが、存外貴様もやる。なめていたわけじゃないんだが……強いな」



メルレガの力量をルシスが素直に賞賛した。



「だがその強さは仮初めだ」



かと思えばすぐにその全てを否定する。確かにメルレガの強さの大部分は高位剣獣の強さだが、メルレガ自身の力量も相当だ。

それは決して低評価出来ない程に。



「……負け惜しみか?見苦しいぜ」



誰が見ても劣勢なのはルシスだ。負け惜しみと言われても仕方ない状況下だが、ルシスにとっては何か確信があるような口振りだ。



「自分を偽り、狂ったフリをしている……まるで道化だな。滑稽だよ」



ブチッと何かが引きちぎられる音がした。

発生源は、まるで鬼の形相をしたメルレガだ。



「何をこの世すべての物事が分かったような面で好き勝手に語ってんだ?……気に入らねぇ……何もかもを見透かしているつもりになっているその目が無性にムカつくぜ!!」



怒りの絶叫をあげながら疾風となり駆けるメルレガはすさまじく速い!しかし我を忘れる程の怒りのせいか動き自体は単調だ。

まるで定められた道筋をなぞるように、一直線でルシスに迫る!



「獣風情に理解できるかは知らんが一つ忠告してやる。戦場では冷静さを失った奴から死ぬんだ」



至近距離まで迫ってきたメルレガにルシスが心底冷めた声音で告げる。

そして、その言葉を獣に理解させる前に二刀が交差する。

金属と金属がぶつかり合う音……そしてそれ以外の音も、オレの耳には確かに聞こえた。

大音響だったわけではない。しかし、聞き間違えようもなく、はっきりと聞こえた。

肉を深々と切り裂く音が。



「!!ガアァァァァァァ!?」



メルレガの両腕が裂け、真っ赤に染まっている。

大量の出血により地面に血の雨が降りそそいでいる光景を、オレは唖然と見ていた。

苦痛で跪くメルレガとは違い、ルシスに怪我はなさそうだ。 少なくともパッと見には。



「クソがくそがクソがくそがクソがくそがクソがくそが!!!!」



ふらつきながらも立ち上がるメルレガは流石と言うべきタフネスだが、明らかに現状では戦えない有り様だ。

未だに滴る血液があまりにも生々しくて痛々しい。



「肩の怪我は演技かよ!しかも攻撃と同時に俺様の治癒能力を低下させるとは見た目通りの冷徹さだな、クソアマが!!」



メルレガの叫び通り、皮膚の治癒は一切始まらず傷口が塞ぐ気配もない。

低下というよりはむしろ無力化させていると言ってもいい効力だ。



「どうやら自慢の治癒力みたいだが、それを絶対だと過信した自分自身を呪え。まぁワタシとしてはその過信を突けたからこそ勝機を見出だせたわけだが。ちなみに肩の怪我は演技じゃない。実際、本当に折れてたよ。すぐに治したがな」



二刀にこびりついたメルレガの血を振り払いながら、ルシスが淡々と勝敗の分け目を語る。



「まだやるつもりなら付き合うが……勝敗は決した。無駄な抵抗はやめておけ」

ルシスの降伏勧告に、やはりと言うべきか「ふざけんな」とメルレガは拒否した。

すでにその身は満身創痍だが、メルレガの闘志は一向に衰えていないとそのギラつく目を見れば嫌でも分かる。



「勝敗は決した?何を寝言いってんだテメェは?俺様はまだ生きてるし、テメェも生きてる。ならまだ終わってねぇんだよ。勝敗を決するのはどっちかが死んだ時だ。それも分かんねぇヘタレはさっさと家に帰ってママの乳でもしゃぶってろカスが!」



ゼェ、ハァ、と荒い呼吸で肩を上下させるメルレガは使い物にならない両腕を無理矢理に構える。

出血は止まっていないので血は今も地面に流れ落ちている。 誰が見ても重傷者なのは一目瞭然。

だがそれでも相手がメルレガでは油断できない。

何故なら獣は手負いになってからが一番厄介なのだから。



「ほらどうした?かかってこいよ?両腕が使えないくらいがちょうどいいハンデだ。まぁ迂闊に近づいてこようものならその細い首を噛み千切ってやるがな」



ニヤリと笑うメルレガだが、明らかに強がっているのはオレでも見破れる。

だが浮かべるその不敵な笑みがそれは気のせいだとすら思わせる位に自信が満ちている。

まだコイツは切り札をもっている。

そう思わせる程に。

実際メルレガは本気でまだ突破口はあると考えているかもしれない。

そうでなければあれほどに精神が強く保てるわけがない。

この瞬間にも死ぬかもしれない極限の状況下なんだ、普通はヤケクソになるか正気を保てないまでに動揺するだろう。

だが、メルレガはどちらもない。

ヤケクソには見える、だがあれには自身の死を微塵も感じさせない生気が溢れている。

死相など浮かべすらしない。

ある意味、賞賛していい胆力、強靭な精神の持ち主だ。



「……まったく、敵にしておくには勿体無いな」



ルシスもオレと同じ事を思っていたらしい。

呆れ半分、賞賛半分で油断なくメルレガに剣を構え、相対する。

勝敗は未だ決せず。不屈の精神と獣の咆哮をもって『逆襲鬼』が戦闘続行を告げる。

殺し合いはまだ終わらない。

近々、本作の設定やら用語の説明を書くつもりです。あくまで予定。

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