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剣と龍と神  作者: カナメ
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五十八話

気まぐれに新しい作品を書いてます。 よかったらそっちも見て下さいな。

両腕から流れ落ちる血液によって血まみれのメルレガだが、その足取りはしっかりしており、ふらつきもしない。

意思だけでそれに耐えているとすれば、やはりその精神力は常人の域ではない。 もちろん、狂った獣も範疇外。



獣とは本来、勝てる相手、勝てない相手を戦う前から本能で嗅ぎ分ける。

勝てれば襲うが、勝てないと分かった場合の獣がとる手段は二つ。

服従か逃走だ。

なのにメルレガはルシスに真っ向から挑んできた。

本能では剣龍の片われたるルシスに勝てないと悟ったはずなのに、怒りでそれを無理矢理抑制した。本能に逆らってまで。何故そこまで?

後退を恥とした?

それとも……死にたがっているのか?



「……来ないのか?なら俺様から行くぜ?」



警戒したルシスから仕掛けてこないと分析したメルレガが一歩分、間合いを縮めた。

ただそれだけでメルレガの血液がボタボタッと地面に落ちる。

このまま放っておくだけで出血死しそうな勢いだが、メルレガは止まらない。 ルシスも相手が瀕死状態であろうが油断せずメルレガに視線を固定している。 不審な動きを何一つ見落とさないようにジッと。

それに感心したようにメルレガが口を開く。



「全く一分一寸の隙すら見当たらねぇな。ここまでボロボロだと大概のアホは気が緩むもんなんだが……お前は勝敗が決しようが敵が動かなくなるまで気を抜かねぇみてぇだ。なんて言ったか…………『残心』だったか?」



「あぁ」



「いいね~…万に一つの状況すら考えさせてくれないその姿勢。だがそれすらを凌駕されて驚き慌てるお前の姿はきっと滑稽だろうな」



強がりながらニタニタと笑うメルレガが更に一歩、接近。

歩みも出血も止まらない。



「凌駕できるつもりか、その瀕死の状態で?」



「あぁ」



メルレガの即答に初めてルシスがピクリと反応した。

極々僅かな動きだった。

メルレガは気づいていないようだがオレには分かった。

その自信の根拠をルシスも怪しんでいる。この状況での逆転劇などあり得るのか?



「俺様の取って置きだ。存分に味わい、楽しんでくれよ?」



瞬間、おぞましい悪寒が全身を覆った。こいつ、ハッタリじゃない!?

ルシスも遅ればせながらメルレガの切札に対応しようとするが遅すぎる!



「唯一剣技、」



「ソレハキンシジコウダ」



今まさに発動せんとしたメルレガの切札が何者かの乱入によって強制中断された。



「なっ!!?」



驚愕はこの場にいた全員に共通した。 新たに現れた乱入者以外、全員だ。



「なんのつもりだこりゃあ?悪ふざけならてめぇから殺すぞアンデッド野郎?」



一番早く立ち直ったのは乱入者に羽交い締めされたメルレガだ。

おそらく顔見知りなのだろう。

オレやルシスに向けられる程の殺気が放たれていない。

だが皆無でもない。そんな殺気を真正面から受け止めるのは二メートルはあるであろう巨体の戦士。小柄な体躯のメルレガを羽交い締めしている姿は何だかじゃれているようにも……見えなくもない。



「フザケテナドイナイ。ワガアルジノメイレイダ。キサマハマダ、シヌベキトキデハナイ」



「死ぬタイミングくらい、自分で決められるわボケが!それに貴様と俺様の主は別だろうが!」



抵抗するメルレガだが羽交い締めしている巨体の戦士もどうやら同等の筋力があるらしい、互いに拮抗し、外せないでいる。



「タシカニ、アルジハチガウ。ダガキサマハ、ワガアルジニ、カリガアル。ソレヲセイサンスルマデハ、キサマニシハユルサレナイ」



暴れている間にも血が大量に出血しているメルレガがようやく抵抗をやめた。 どうやら片言喋りの戦士に説得されたようだ。

忌々しそうに「チッ」と舌打ちしながらも大人しくしている。



「お前は誰……いや何なんだ?」



メルレガを拘束したままの戦士に思わずオレはその正体を問いかけた。



「ワタシカ?ワタシハ『フシガミ』ホトサマノ、チュウジツナゲボクダ」



応えなどあまり期待してはいなかったが律儀に返事をする辺り、主人よりは世渡りがよっぽど上手いと評価できる。

しかしよりによってホトの下僕とは。

やっぱりこいつは死体を利用したアンデッドか。

しかもあの変人奇人変態のホトの作品だ、この戦士はきっと生前は名高い強者だったと推測できる。



「それで……その下僕はその厄介者を持ち帰ってくれるのか?」



重要なのはその点だ。

メルレガがこのまま大人しく帰るとは思えない。

それこそ第三者による介入無しには。



「誰が厄介者だ!このアンデッド野郎の方が無粋な邪魔者だ!!」



「……アンシンシロ。コンカイバカリ八、ワタシガセキニンヲモッテ、ツレカエル」



叫ぶメルレガをオレとアンデッド戦士はナチュラルスルーして話を先に進める。話が通じる相手ならさっさと話をまとめよう。



「ならさっさと連れ帰ってくれ。ルシスもそれでいいかな?」



優勢な状況だからこそこちらも強気にいけるが、その大部分はルシスの手柄だ。 ならばメルレガをこのまま見逃すか否かは、最終的にはルシスの判断に委ねられるが……。



「マスターがそう望まれるならワタシに異論はありません」



……やっぱりそうなるよね。



「はっ、いいのか?優勢な状況をあっさり捨てて?二度とないかもしれない好機だぜ?」



重傷なわりには口が減らないメルレガの挑発を、しかしルシスは気にもしない。



「襲撃してくるならまた返り討ちにするだけだ。獣ていどなら追い払うのは容易いしな」



むしろ逆に挑発している。



「このクソアマ…!」とメルレガが掴みかからんとするが、アンデッド戦士が押し止める。



「オチツケ、ヤスイチョウハツニノルナ」



アンデッド戦士の言葉にやや落ち着きを取り戻すメルレガだが、その目は殺意満載だ。



「…次に会ったら確実に殺す。特にそこのメガネ女!てめえはたっぷりいたぶって、なぶり殺してやるから覚悟しておけよ!」



「出来ない事は口にするもんじゃないぞ狂戦士」



「必ず殺す」



こうしてオレを無視してルシスとメルレガは再戦の約束?をした。



「ところでアンデッド戦士、アンタの名前は?パッと見だと歴戦の猛者みたいだけど?」



「……セイゼンノナハ、ステタ」



……次に会うまでにどれほどの強者だったかを調査したかったんだが無理か。

正体が分かればどんな戦い方をする戦士だったのか、それを知るだけでも貴重な情報だったんだが………ホトの指示か、はたまた生前に自身の行いに恥じる事でもあったのか?



「そうか」



生前の名を語りたくないなら仕方ない。これ以上突っ込んで聞いても収穫はなさそうなのであっさりと手を引く。



「俺様が教えてやろうか?」



予想もしてなかった人物が、そんな発言を口にした。

暴露すると発言したのは…メルレガだ。



「メルレガ、ナニヲ……」



「隠すような事でもあるまい?親切な俺様が教えてやるさ、こいつの生前の名前を、な」



戦いを強制中断された事をまだ根にもっていたメルレガがニヤニヤ笑う。

慌てたようにそのふざけた事をぬかす口を塞がんとするアンデッド戦士だが、間に合わなかった。



「こいつの名はガザル。かつては別大陸で英雄と呼ばれていた程の戦士だよ」



「メルレガ!!」



怒鳴るアンデッド戦士、ガザル。

その名前にオレは聞き覚えがある。

別大陸……。

英雄…!?

まさか!!



「敵対していた勢力の六つの都市を滅ぼした『六禍』ガザルか!?」



大物すぎるだろ!

ホトの野郎、五十年も前の英雄の死体を掘り起こしたのか!



「マスター、ガザルというのは有名なのですか?」



人間社会には疎いルシスの為にも、簡単にガザルがどうして有名なのかを説明しておこう。



「あぁ、剣使なら誰もが知っている英雄の一人だ。大小六つの都市をたった一人で廃墟にした『六禍』のガザル。最強の『剣神』でもある《直刃》にもその実力は確かだと認められ弟子になった男だ」



「あの《直刃》の弟子ですか……。それだけで厄介者確定ですね」



……ルシスの口振りからするとあまり《直刃》は好かないみたいだ。

はるか以前に会ったと言っていたが、この様子だとよほど馬が合わなかったみたいだな。



「フショウノデシダッタガナ」



「謙遜すんなよガザル。かつては『七欲』の一人だったんだろ?」



何とかこの話の方向を変えたいガザルだが、その邪魔を全力でしているのが味方のはずのメルレガだ。

まったく空気を読まないアホに、アンデッドであるガザルも呆れ果てている。



『七欲』。最強の『剣神』、《直刃》の愛弟子であり、その中でも上位七名にしか許されない称号を目の前にいるガザルが……。

あまり知られていない事柄だな。

オレも初めて聞いた。



「モト『シチヨク』ダ。イマハスデニ、アタラシイセダイガ、ソノショウゴウヲ、ウケツイデイル」



過去の栄光と割り切っているガザルは思いのほか冷めた口調だ。

……不思議な話だ。 弟子であるガザルは死んだというのに、師である《直刃》は未だに生きている。千五百年を生き続けているらしいが、いったいどんな人物なのやら?



「マッタク、ヨケイナコトヲ……。トウブンハ、オトナシクシテモラウゾ、メルレガ」



「ふん、これで邪魔をした分はチャラにしてやるよ」



咎めるようなガザルの視線を、悪びれもせずにメルレガは無視。

仲がいいのか、悪いのか、分からん二人だな。



「ヤレヤレ……。ソレデハ、ワレラハコレデ、シツレイスル。イズレマタ、チガウセンジョウデ」



メルレガを羽交い締めしながらも、律儀に一礼して去ろうとするガザルが後ろ向きのままで



「アルブドルサンミャクニイル、アイカタノモトニ、イソイダホウガイイ。ワガアルジガ、イマハソコニイル」



とんでもない事を最後に言い残して姿を消した。



「アルブドル山脈にホトが!?本当かルシス?」



「いえワタシにも分かりません。ですがワタシがここに来る前まではその姿を見てません」



ならルシスが転移した直後にファラの前に現れたってことか、最悪だな。



「ルシス、急いでファラの元に向かってくれ。ファラ一人じゃホトは危険すぎる。回収したらすぐにまたここへ転移を」



「承知しました。戦闘は避ける方向ですね?」



オレの考えを理解したルシスに頷きで肯定する。

アレとやり合うのは今じゃない。

いずれは倒すが、今は無理だ。

未だに不完全な『剣神』のオレでは……!



「敵であるガザルの言葉は真実かもしれないし、罠かもしれない。十分に気をつけてくれ。それと……ファラを頼む」



「ご安心を。必ずファラを無事に連れ帰ってきます」



「ルシスも無事に帰ってこいよ。二人一緒が成功条件だ」



ニコリと氷の笑みではない笑顔を残して転移したルシスに、オレは暫し呆然とした。

あのタイミングであの笑顔は反則だろ。



「…………さて、こちらはどうしたものか?」



ようやく現実へと意識を戻したオレが振り返った先には辺り一面の氷原。

見た感じ斬士部隊は全滅だが、ネモは多分生きているだろう。

仮にもS級剣使だ、あの程度では死なないだろう。



「無事に帰ってこいよ、二人とも」



頼りなくて未熟な『剣神』にはお前たちが必要不可欠な存在なのだから。

片方がいないだけでも、オレは使い物にならなくなる気は満々だ。

だから、どうか無事でいてくれ。

ルシスは多分大丈夫だとは思うが……ファラ、ホトを相手に迂闊な行動はするなよ。

アイツは……危険すぎる。

フラグ~!

それはフラグですから~!

さて次話はファラサイドに。

そろそろ他の剣神も動かしていこうと思います。

どう動くかは……作者も分かりません!!

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