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剣と龍と神  作者: カナメ
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五十五話

遅くなりました。本当に遅筆ですみません。でもおかげで色々とネタが出来ました。あとはそれを形にしていくだけ……まぁそれが一番大変なんですがね、ははっ。今後も読んでる方々に飽きられないように頑張ります!


メルレガの、呪いにも似た宣告にしかし素直に頷く奴はこの場にはいない。

特にアースガルズ王国でも五指に入る実力を誇る、S級剣使ネモは。



「ならお前が死ね」



疾風の如く勢いで踏み込み、ネモの必殺ともいえる一撃がメルレガを襲う!



ガキィィィィン!!



甲高い金属音はメルレガの左腕が斬撃を防いだ結果だ。

つまりはまだ生きている。

ならばネモが止まる理由はない。

疾風の勢いを継続、斬撃の嵐が容赦なくメルレガに降り注ぐ。

だが、その全てを素手で防ぐ。防ぐ。防ぐ。

その度に刃と刃がぶつかり合う音と衝撃がこの身を震わせる!

ネモもすごいがメルレガも手放しで賞賛していい技量だ。

ただその身に宿す剣獣の力に溺れていては、決してたどり着けない境地に立っている。



「はっは~!なんだ強いじゃねぇかお前!!さっきまでは手を抜いてたのかぁ?」



「様子見していただけだ」



「ならいいんだが。力を小出しするちゃっちい小物だと俺様が萎えるからよ~、ハハッ」



剣と拳が互いの身を削りあいながら、互角の均衡はいつまでも続くかと思われたが……徐々に形勢は一方に傾いてきた。



優勢はメルレガ。

劣勢はネモに。



理由はやはり先ほどの無茶な回避が招いた結果だ。

時間が経過していくほどネモの動きにキレはなくなり、メルレガの攻撃を捌ききれなくなっている。あのままではいずれ押しきられる。対するメルレガの治癒力は未だに底が見えない。

持久戦は不利。

その事実をネモはもちろん自覚しているだろうし、メルレガだって見破っている。

だがこの状況の打開にはそれを見越す何かが必要だ。

その何かをなすためなのか?無謀ともいえる接近のすえ、軽くはない傷を負ったネモが間隙を縫って強引にメルレガの懐にもぐりこんだ。

ほぼ密着した形へと持ち込んだからには何か策があるのか?あれじゃあ剣技もろくに使用出来ないはずだが……



「おいおい、ちけぇよ」



だが超近接戦闘は剣より素手の方が有利なのは誰の目から見ても明らか!

至近距離から放たれる死の一撃は回避不可能!!

だがネモはその一撃を信じられない方法でやり過ごす。

利き腕ではない左腕を前方に突き出す。言葉にすればただそれだけの行動。

しかしそれが急所を狙って放たれた一撃の着弾点を僅かにそらした。

代償にネモの左腕がその衝撃で使い物にならなくなったが。しかし腕が繋がっているだけまだマシだろう。

あの一撃なら腕ごと吹き飛んでいてもおかしくはない。

それほどの威力だ。



「なっ!!?」



思わぬ自身の一撃の対処法に、メルレガが目を見開き驚愕している。

本日二度目の勝機。これで決めきれなければネモの負けは確定だ。

余力はない。

左腕が見るも無惨な状態だが、恐るべきはネモの勝利に対する執念か。

わずかに体勢を崩したネモだが、瞬時に持ち直し攻撃モーションに移っている。この間、わずかゼロコンマ単位で。

攻撃された事でメルレガとネモの間に絶妙な距離が出来た。拳が届かない距離であり、剣の切っ先が届くまさにネモにとっては最上で最高な距離に。

ここまで計算していたのかと脱帽する周到さには頭が下がる。

勝敗は決した。

オレはそう確信した。



「破壊剣技、」



ネモの斬撃と更に追加で剣技。

この同時攻撃にはさすがのメルレガも耐えきれない威力だ。耐えたとしても戦闘続行など不可能だ。S級剣使の攻撃力は甘くない。

だが……



「唯一剣技、剣生」



の剣技より速くメルレガの剣技が発動。

それはあまりにも速すぎた。

多分、発動する瞬間を前もって見計らっていたのだろう。

そうでなければあんなにすんなりと剣技が発動するわけがない。



「!!?」



今度はネモが驚愕する番だった。

だが声は出せない。メルレガの手が、易々とネモの腹部を貫いているからだ。

いや正確には手じゃない。

手から生えた剣によってだ。



「がっ……ぁあ…………」



何かを言葉にする前に、ネモの口からは血が吐き出される。



「これが何かって聞きたいんだろ?」



どうやらメルレガはネモが何を言いたいのか察したらしい。口がニヤリといやらしく歪む。



「俺様にしか使えない剣技だよ。使用者の肉体のありとあらゆる部位から剣を生み出す『剣生』だ。痛いだろ?泣いていいんだぜ?ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!」



崩れ落ちる敗者を見下しながら高笑いする勝者。

S級同士の戦いはこれで決した。

なら次だ。

ネモが倒れた直後に今まで待機していた斬士部隊五百が動き出す。

狙いはメルレガただ一人。

総隊長たるネモが負けた事に少なからず動揺はあるだろうに、隊員達は一糸乱れず行動している。

さすがは大陸きっての精鋭部隊と賞賛すべき冷静さだ。

さすがのネモも、この数の暴力には敵うまい。



「なんだよ、一遍に相手してほしいのか。いいぜ、遊んでやるよ」



だがメルレガに戸惑いは一切なし。

むしろ嬉々としてこの状況を楽しむようにさえ見えた。



「だがあいにく雑魚は嫌いなんだよ。……これで生き残れた奴となら遊んでやるよ」



嘲笑を浮かべたメルレガが手をかざす。同時に濃密な魔素が展開、剣神と比べても何ら遜色のないその桁違いな魔素にオレはただ立ち尽くす。



「唯一剣技、剣樹剣林」



その剣技を一言で言い表すなら、まさに剣の森だ。

地面から突き出された無数の剣が五百の精鋭をことごとく刺し貫く。



ある者は一撃で即死した。

ある者は致命傷を負って苦しみながら死んだ。

ある者は血液を失いすぎて震えながら息を引き取った。

ある者は未だに苦し気にうめき声を上げている。



まさに地獄のような光景。

無傷な者など誰一人として存在していない。



「ハハハハハハハッ!これぞまさに酒池肉林ってか!?まあこの場合は酒っていうよりは血の池だがな、ヒャハハハ~」



一瞬にして五百近い屍を生み出した元凶たる『逆襲鬼』はただ笑う。

大量の血で赤く染まっていく地を愉快そうに。



「あぁ……綺麗だ。あんな雑魚連中でも血だけは誰もが平等に綺麗なんだよな~……あいつの血の綺麗さには負けるが。あいつのはもっと赤くて紅くてあかくてアカクテ…………」



ブツブツと呟くメルレガの目は赤く血走っている。

その目がオレを正面から捉える。



「お前の血はどうだ?綺麗なのか?汚いのか?」



危ない発言をしたメルレガはオレの答えを待たずに間合いを縮め、両手から生えた剣で襲いかかる!一撃目を間一髪で避け、続く二撃目をかろうじて愛剣で防ぐ……が。



「マジかよ!!?」



予測の更に上をいくどころか突き抜けたメルレガの膂力に足が地面から浮いた。吹き飛ばされる!

軽く五メートルは浮遊している間にも状況は悪化していく。こちらだけが一方的に!!

吹き飛ばされたオレを追撃せんとメルレガが「さっさと血をぶちまけろよ」と口走りながら迫り来る。

常時メルレガと対峙している間は鳥肌が治まらなかったが、この瞬間は今日一番のやばさだと何故か直感した。

このままだと地面に着地した直後にメルレガの容赦ない攻撃でチェックメイト。なら……強引にでもメルレガの虚をついてこの状況を打破するしかない!



「属性剣技、火落(からく)」



剣技発動。

ただし狙う先はメルレガじゃない。

オレとメルレガの中間地点にあたる地面にだ!

剣技が着弾と同時に地面が爆散。

目眩ましと衝撃による着地予定地点を無理矢理にでもズラすのが最大の狙い。

戦果は上々…………のはずだった。



「小狡い小細工に萎えるぜ」



狂った復讐の鬼は、ゾッとする声音で土煙の向こうから現れる。

その表情、動きに一切の動揺は感じられない。

オレが何をしようとも正面から突破できる自信があったのだろう。

迷いはなく、その目はオレを射抜く。

互いの視線が交差した瞬間に恐怖か?はたまた混乱のせいか?

数瞬、体が強張った。

ほんの一秒にも満たない時間だが、それは致命的なものだった。

薄ら笑いを浮かべたメルレガの顔が目の前にある……そう認識した後に額にすさまじい衝撃。

一秒か二秒ほど?何が起きたかを理解出来なかった。



(頭突きをくらった?)



かろうじて脳みそをフル回転させて予想したが、現状況が変わるわけでもないので無駄だ。

問題はこの後だ。

ここからどうやってこの危機を乗り越えるのか?

……オレの答えが出る前に、別の答えをメルレガは無理矢理に押しつける。

剣を握っているのはオレの利き腕である右腕だ。

その右手首にメルレガが肘を叩きこむ。

乾いた音と同時に激痛。

感覚で手首が折れたとやけに冷静に分析できた。

支えを失い、愛剣はスルリとオレの手から離れる。

メルレガはまだ止まらない。

その両手がオレの両手をがっちりと掴む。

両足はオレの足の甲を踏んでいる。

メルレガが何をしたいのかさっぱりわからないオレの疑問はしかしすぐに解けた。



「唯一剣技、剣生」



メルレガの両手両足から剣が生えた。

つまり、オレの両手両足はそれに貫かれた。

その痛みを脳が認識した直後、オレはあまりの激痛に叫んだ。

手首が折られた時とは比べるまでもないほどの痛みに、意識を失いそうになる。だがそんな事を許す相手ではない。



「へぇ……お前の血は予想より綺麗だな」



オレの両手両足から流れ出る血をじっくりと観察しながら呟くメルレガは、貫く傷口を更に抉る。

ある一定の時間が経過する度に何度も何度も。



抉る。抉る。抉る。抉る。抉る。抉る。



その度にオレは叫んだ。

だがそれが何度も続くと喉が枯れて声にならない声を上げるだけになった。

そんな様子をメルレガは至近距離で楽しそうに笑って見ている。

地面がオレの血を吸いとっていく……。じわり……。じわりと。



「あ~……綺麗だなー…」



陶酔しているメルレガはオレから流れ出る血だけを笑いながら見ていた。

だから気付かない。第三者の接近を。



「我らがマスターに何をしくさっているカスが」



五百人分の死体と血が溢れる地獄に、銀髪の女神が降り立った。



「……誰だ?俺様の至福の時間を邪魔するバカは。殺すぞ」



「それはこっちのセリフだ、たわけ」



メガネの奥の瞳が絶対零度でメルレガを射抜く。

ルシスの本気の怒りに、しかしメルレガはさほど気にもしていない。



「こいつの相棒か?俺様の邪魔さえしなきゃ今は見逃してやるよ。さっさと消えろ。じゃねぇと…殺すぞ」



「…………」



ルシスは一言も反論しない。メルレガの怒気に黙りこんでいる……わけではない。

やがて呆れたようにため息を吐く。



「チッ、なんだよその他人を小バカにしたリアクションは?おい、いいか女~。俺様が他人を見下すのはいいが、他人が俺様を見下すのはまったく!これっぽっちも!許せねぇんだよ!!……なぁ、死にてぇのか?死にたいんだろ?死ぬか?」



常人なら卒倒するレベルの威圧に、しかしルシスは平然としている。

立場が逆転した現状がまったく面白くもないメルレガが苛立っている。

しかしルシスはそんなものの相手をしない。する気はないのだ。



「属性剣技、氷天氷華」



それが証拠と言うように一方的に剣技発動。

ルシスを中心に地面から氷原が広がっていく。

その速さはわずか数秒でメルレガの足元にまで到達、それを見て忌々しそうに舌打ちして離脱した。

あとに残されたのは串刺しから解放されたオレの肉体だ。

無論、限界まで痛めつけられたオレに立ち続ける気力は皆無。

重力に従い、あとは前のめりに倒れるだけだ。

だが、そうはならなかった。

柔らかい何かがオレを抱き止める。



「遅くなってすいません、マスター」



オレよりも体の線が細いルシスに抱き止められたが、ふらつきもしないしっかりした安定感に安心して全体重を任せられる。



「こっちこそ……すまん……」



枯れた喉を何とか動かしたが、聞き取りづらいしゃがれた声しか出せない。

だが、ルシスは確かに聞き取ってくれたらしい。



「マスターが謝る必要はありません。今回別行動をお願いしたのはワタシ達の方なのですから。申し訳ありませんでした」



真摯に謝りながらルシスがオレの両手両足の傷口を剣技で凍らせる。

少しでも出血を抑える為の応急処置だ。



「あとは安静にしているだけで剣神たるマスターの治癒力で治ります。多少、時間はかかりますがご安心を。……あの狂った獣はワタシが処理します」



そこらへんの男よりも頼れそうな事を言い残し、ルシスは逆襲鬼を睨みつける。それは視線で人が殺せるなら射殺せそうな……そんなレベルだった。

暑いです。とけそうです。とろけそうです。皆様、熱中症にはくれぐれもお気をつけて下さい。

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