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剣と龍と神  作者: カナメ
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五十話

「中々の大群だな。いやもはや群れなどという次元ではないから大軍か?」



「楽しそうね、ファラ」



並び立つ二人の美女は今、人外未踏のアルブドル山脈を突破し、ある一つの山間に場違いな建造中の砦を監視していた。砦はまだ半分程しかできていないが理由としはその大きさ故にだろう。

砦の外壁周辺には少なくとも五百の剣精。

内部では多くの人間が忙しなく働いて……いや酷使されている。



「気のせいだよ。しかし労働力となる人間を近辺の村々から拉致し、砦建造の物資を商隊から奪って調達するとは…ふところにやさしい拠点作りだな」



「全てが現地徴集ね。でも規模からして少しばかり大きすぎない?」



ルシスの指摘通り、砦は一万人規模でも駐留できる桁違いの大きさだった。

決してこんな山間に建てる規模ではない。



「今後のロードギア全体に対する足場……というより本拠地にするつもりなんだろ。一時的な拠点作りにしてはあまりにも物々しいし、念の入れようが半端ない」



二人が見下ろす先には、堅牢さを増していく拠点が出来上がっていく。

砦を囲む二重、三重の高い壁に、巨大な門。

随所に土塁を積み上げ、東西南北それぞれに矢倉まで設置されている。

この人外未踏のアルブドル山脈の山中に、だ。



「まるで悪い冗談ね」



「いや悪夢だよ。こんな辺境に人間の軍隊が攻めいる事は不可能だ。あの砦が完成したら文字通り難攻不落だな」



そう断言するファラの表情は言葉とは裏腹にどこか楽し気だ。

ルシスは呆れたようにため息をつく。



「少々無神経じゃない、ファラ?」



「おっとすまない。そうだな、あの砦建設によって少なくない人間が不幸になっているのに。これじゃあカインに嫌われてしまう」



「全く。マスターはお優しいんだから人間に薄情な態度をとり続けると本当に嫌われるわよ」



二人の関心はマスターたるカインの心情にのみ向けられる。ルシスはともかく、常日頃マスターを軽んじている様に見えるファラも、実際はカインを信頼している。

確かに精神的な甘さや青臭い考えの持ち主だがそれら全てを含めて、マスターたるカインが好きなのだ。

そうでなくては契約者とは認めないし、ルシスだってゴルドーの鬼神の一件でも自重はしなかっただろう。

つまり、剣龍たる二人にとってカイン以外の人間などはどうでもいい存在なのだ。

だがそれをあからさまに表に出すとカインは複雑そうな顔をする。

まだ三人が旅を始めた頃に立ち寄った小さな町で、カインが一緒にいた時に普段通りに人間に接すると、冷たい印象を与えてしまったのは二人にとっても苦い経験だった。

(ちなみに補足ではあるが傭兵として活動している時の二人は実に事務的な態度、対応なので一部の傭兵からは冷血な女傭兵として評価されている。またその副産物ではあるが、別の一部の傭兵からは罵られたい、無言で睨んでほしいと願望しているアレな熱狂的ファンも存在している)



それ以後は出来るだけ二人も気をつけているのだが……それはあくまで表面上にすぎないのでたまにポロリと本音がこぼれてしまう。

またはあからさまに態度に表れてしまうと言うべきか。

龍たる二人にとってはポーカーフェイスなど無縁なのだから仕方ないとフォローしておく。

特に今はカインと離れて行動しているからそれは顕著けんちょだ。



「それだけは避けたいな。アタシとしてはカインを気に入ってるし。アイツ以外がマスターなんて考えられないな」



「同感ね。出会った当初は頼りない人間に見えたけど、身体を張ってホトと戦った時からもう…………ねぇ」



先程とは違った熱いため息をつくのは二人同時だった。



「…とにかく今はあの砦を破壊するなりして無力化しないとね。こんな場所にあんな物騒な砦は不要だし。開いているゲートも閉じなくちゃ」



「そうだな。ここら山脈一帯の剣精を排除するにもあの拠点は邪魔だし。立て籠る拠点とゲートさえなければ散り散りになって後は人間の軍隊が始末してくれるだろ」



「なら監視はここまでにする?」



「早速、動くとしよう。駐留している敵戦力は大体分かったし。問題は指揮官クラスの剣鬼二体だけだろ」



さほど大した事でもないと言い切るファラに「そうね、その二体くらいね」とルシスも軽く返す。

そこに気負いはない。

二人にとっては剣精がどれ程いようが問題はない。

だてに二千年前の鬼神戦争という地獄を生き延びてはいないのだから。



「剣鬼相手は二千年ぶりか。血が騒ぐな」



普段は見られない獰猛な笑みをルシスが浮かべる。

カインがこの場にいたら目を疑ったかもしれないその表情に、いつもは先走るファラが手綱を握る。



「落ち着けルシス。カインがいたらドン引きする顔をしているぞ」



「本当に?気をつけなきゃ。マスターの前では大人の女性とやらを意識しているのに、イメージが崩れてしまう」



「宿敵たる剣鬼が目の前にいるんだから無理もないがな」



「……ファラ、あなたもあまり他人の事を言えない位にいい笑顔よ」



「それもまた仕方ない事さ。アタシも理性を抑えるのに苦労してる。一刻も早く奴等を殲滅したい欲求にな」



「ゴルドーでは鬼神に手出しする事をマスターに禁じられていたから鬱憤うっぷんも溜まっていたしね」



アレが鬼神の生まれ変わりだろうが二人にはあまり関係ない。

その魂は同一の存在なのだから。

だがマスターにお願いされては二人もそれに従うまでだ。

自由意思があるとは言え、マスターたるカインに命令ではなくお願いされたのだから。

カイン本人にとってはそのつもりがなくとも、それはファラ達にとっては逆らう事を躊躇わせるものだった。



「命令だったら自由意思によって拒否も出来たがお願いされては、な」



「つくづく変わったマスターと契約したものね」



「後悔はしてないだろ?」



「お互いにね」



二人は互いに見つめあい、笑う。



「さて準備はいいかルシス?最初から全力で行くぞ」



「もちろん、いつでもいいよファラ。この自由意思すらマスターの為に」



直後に笑みを浮かべる二人の口角が限界にまで歪み、そして裂けていく。

そこから覗き見えるのは巨大な牙。

小柄ともいえる二つの肉体は魔素の光に包まれやがて一つに融合していく。

その光はやがて小山くらいに大きくなり、徐々に光がおさまっていく。

二つの人影が完全に融合を果たした時、そこに双頭の龍が君臨していた。

かつてのロードギアの管理者たる剣龍が、かつての同族が守護してきた聖域を見下ろす。



『さて、剣鬼どもには再度ロードギアからお引き取り願おう』



『代価はその命をもって、か?やれやれ相変わらず剣鬼が絡むと人格が変わるなルシスは。まるでおとぎ話の悪役のセリフだぞ今のは』



『貴女もね』



二人で一つの肉体を共有する龍が華麗に飛び立つ。

目的は敵拠点の完全破壊。

そして剣鬼の駆逐。



開戦の合図にまずは地上の砦、その中心部にルシスのブレスが放たれる!!!

ルシスの人格が一向に安定しない事について話し合いましょう!!作者には最早どうしようもありません。

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