四十九・五話
地味に暗躍してます。誰が?秘密です。
「よいか、これ以上の失敗は我々には許されない。死力の限り任務を果たせ!!」
「「はっ!」」
ロードギアとは別の世界。
今や逃げた先の世界で、支配者となった剣鬼達が建造した巨城にある一室では三つの人影があった。
二つは膝をつき家来の礼を。
残る一つはそれを見下ろしながら荒々しく命令を下す。
八鬼王が一角の古参の剣鬼である。
外見は腰の曲がった老人だが、その割りには顔のシワがやけに少ないせいか外見に反して若々しく見える。
あくまで老人にしてはだが。
その老人剣鬼たる彼の指揮下に入った二人は今まさにロードギア帰還の最重要任務を言い渡されたばかりであった。
二人は鬼王直属の部下である八鬼衆の末席に座る強者たち。
そもそも八鬼衆とは八人の王それぞれが最強と誇れる部下達から結成された集団である。
故に老人剣鬼が命令を下せるのは本来、彼が直接八鬼衆に推薦した部下だけだ。
だが今回は異例で、別の鬼王の部下からも派遣される事が話し合いで決定。
その異例さに、いかに前回のヴェルジュ樹海の失敗が取り返しのつかない事態だと思い知らされるのは、今回アルブドル山脈に派兵される剣鬼の二人である。
一人は左目に切傷のある剣鬼。
もう一人は巨体を誇る剣鬼。
両者とも大役ゆえにこそ、今回決まった人選において多少の不満があった。
何故、自分一人に任せないのかという不満を。
剣鬼は総じてプライドが高く、誇りを傷つけられる事を極端に嫌がる。
それが更に選りすぐりの中から選ばれたエリート集団である八鬼衆なら尚の事である。
左目に傷のある剣鬼……十郎太もそんな一人である。
(鬼王の方々の決定であるからこそ逆らいはしないが……組む相手がこいつじゃなくても誰だろうが連携はあり得ないな)
未だ鼻息荒く、口調の荒い自分の直属上司である鬼王の激励を聞き流しつつ、十郎太は自分と同様に膝をつく剣鬼を横目でのぞき見る。
どうやら向こうも同じ事を考えていたのだろう、十郎太と目が合った。
同時に鬼王にバレないよう地面にうつむきながらも苦笑をこぼす。
前回の失敗では八鬼衆であるレギオンの死もあったせいか、鬼王達も帰還以前から激しかった対立を更に激化させている。帰還の慎重派と積極派の意見は現時点でも平行線のままだ。
そして積極派閥による強引な今回の帰還任務に慎重派はある条件を出した。
それが今回の特例である。
つまりは両派閥からの八鬼衆派遣である。
十郎太は、積極派の一人であり、目の前でありがたくもない演説を長々としている鬼王の配下だ。
十郎太個人はあまり積極的ではないが。
巨体を誇る剣鬼……名はデクリオン。
こちらが今回、慎重派から選ばれた一人である。
ロードギアへの帰還。
それは剣鬼という種族全体の念願である。
ただし最低限の、である。
剣鬼達は諦めていない。
ロードギアを統べる支配者になる事を。かつて現状打破には鬼神ヴェルガードが復活するまでの我慢だと、八鬼王は説いた。
しかし数百年も経過するとその希望は打ち砕かれ、王どころか剣鬼全てが絶望した。
だがその絶望から立ち直らせたのも八鬼王である。
元々は鬼神に仕えた重臣八人から始まった話し合いは、時が経つにつれ種族全体の意思決定の場へと移り変わった。
設立当初は不安定な情勢を安定させる事にのみに注力した彼等だったが、途方もない時間と権力が、ただ純粋だった重臣たる彼等をも腐らせていく。
念願はやがて妄執へと変わり、ロードギア帰還計画自体を見誤まっていく。
それは直属配下たる八鬼衆にも言えた事だ。
しかし一部ではそれを危険な兆候として危惧している者もいる。
十郎太もその一人だ。
(かつてはレギオンも予測した事態だが……あの野郎、剣龍でもないどこぞの誰かに殺されやがってマヌケ野郎が!)
レギオンの上司たる鬼王は慎重派だった。しかし部下の失態により発言権が弱まり、結果的にロードギアへの帰還は積極派が舵取りをつかんだ。
(これを機に本格的なロードギアへの帰還が………いや侵攻が始まるぞ)
十郎太が予想した通り、今回のアルブドル山脈派兵はあくまでロードギアへの橋頭堡作りにある。
つまりは足場を固め、本格的な侵攻の前準備である。
ロードギアには剣鬼に対しては従順な剣精が兵力になるのも積極派には有利に働いた。
(レギオンも思えばあわれだな。半ば捨て駒扱いでヴェルジュ樹海に送られたのだから。本人は薄々勘づいていたが……八鬼王同士の派閥争いがなければ死ななかっただろうに)
いまロードギアへと繋がるゲートはアルブドル山脈のみである。
ヴェルジュ樹海はすでに何者かの手によって閉ざされたが、つい最近になってアルブドル山脈のゲートが開放されたのだ。
ロードギアにある六つのゲートの内、まだ一つしか開いてないが剣鬼にとっては一つあるだけでも充分だった。侵攻出来ればそれでいいのだから。
故に剣鬼は気付かない。
何故、タイミングを見計らったようにロードギアへのゲートが開いたのかを。
そこに第三者の思惑があった事を。
この時点で真実を知る者は仕掛けた本人達以外、誰もいなかった。
後日、二人の八鬼衆と百の剣鬼兵がアルブドル山脈に降り立つ。
そしてすぐに兵の調達を開始。
たった数日で剣精五百を指揮下におさめ、アルブドル山脈にて本格的なロードギア侵攻拠点作りに着手。
それはファラとルシスが山脈へと向かう二十日前の出来事。
次話はファラ&ルシスサイドを予定してます。お楽しみに~




