四十話
オラに元気をわけてくれーーーー
男をストーカーする趣味はないが、あのオッサンは色々と怪しい。
剣使でもなさそうなのにあの強さ。
珍獣扱いできるあの正義感…
怪しい。
怪しむその間にも、オッサンは路地裏から路地裏へと迷いなく突き進む。
オレはバレないように角一つ分を離れて尾行。
徐々に人気のない所を選ぶような道筋だな。
地元民じゃないよな?
あのオッサンが地元民なら正義の味方はこの街の名物に違いない。
そして数分歩き続け…オッサンが立ち止まる。
角一つ向こう。
気付かれたか?
足音も気配も、幻惑剣技で誤魔化したはずだが……
「若様」
「ジイか。今日も街の治安維持活動か?行く先々でよくやるもんだ」
オッサンの呼びかけに対応する、若い男の声が聞こえる。
気付かれてはいない事に一安心。
だが今のやり取りだけで察するに二人は主従関係か?
あのオッサンが仕えるからには、主もまた正義感溢れる熱血漢……とは言えないな。
「ここは今までで一番治安が悪く、やりがいがありますが……若様それどころではありません」
「何だ?何か深刻な問題か?」
「はい。どうも街中で不穏な連中が、若様の事をかぎまわっております。心当たりはございませんか?」
「ワシをか?……ないな」
声は若いのに自分をワシ呼ばわりとか。
誰かに……主にオッサンの影響でも受けたのか?いやいや、どうでもいいわそんな事!
若い男の方が、コロシアム運営委員会が探している張本人かよ。
だがその本人に心当たりがない?
ならあのエロいお姉さんの目的は?
「…若様、目が泳いでますが?」
「い、いやそんな事は……誰だ!!」
やべ、このタイミングでバレたか?
……命まではとられないよな?
運営委員会が探している奴がどんなのか気にはなるし姿を見せるか?
「バレましたか」
迷っている間に、別の声が応えた。
オレはまだバレてない?
聞こえた別の声はまた男。
男の密集率が高いな。
「お前は誰だ?」
「初めまして、ヴェルガード様。主の命により貴方をご招待するように言われております。名をトラードと申します」
「主?招待?…………心当たりがないんだが?」
その直後、すさまじい殺気が空気を重くする。
姿を確認できないオレには断言は出来ないが、トラードって奴の殺気か?
「心当たりがない…と?」
声にまで殺気が宿るトラードに、しかし招待された側は戸惑っている。
「あ、あぁ。お主の主とは誰だ?」
「…レラフ様です」
「……誰だそれ?」
心底知らんと言われた使いのトラードが、ここで我慢の限界を迎えた。
感情の爆発だ。
つまりは
「きっっっさま!レラフ様を知らんだと!!つい先日に貴様に想いを告げたあのお方の事をををを!きさまぁぁぁ!殺す!微塵も残さず!グチャグチャにすりつぶし、家畜の肥料にしてやるぅぅぅぅ!!?」
ブチギレタ。
よほどその主とやらを敬愛してるのか…はたまた嫉妬心の暴走か。
とにかくこれらの騒動は恋愛絡みと。
……他人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴り殺されそうだし退散するか?
……面白そうだし、もう少しだけ見届けるか。
「想い?…………あぁ、あれか」
「若様、心当たりが?」
「いやそういえば確かにそれに近い事を言われたが………」
「若様、まさか女性に恥をかかせたままアフターケアはしなかったのですか?そんな事ではいつか背中を刺されますぞ」
いやそれどんなサイコ女だ!
限定されすぎた種類だよ、それ。
ってかブチギレ状態のトラードを前にしてマイペースすぎだろ主従二人!
「だがなぁ…言い訳させてもらうが、その女はワシに奴隷として飼ってやるとほざいたぞ。それって告白か?」
「ある意味においては熱烈な告白ですな。つまりは飼い殺すほどに愛していると」
「さっぱり分からん」
オレも分かんねぇよ!
むしろ分かりたくないわそんな熱烈絶賛重すぎる愛は!!
オッサン変な方向で理解ありすぎだろ!
「だから断ったんだが…次は強制的にワシを奴隷として従属させる気か?」
「レラフ様の寵愛を頂ける奴隷だぞ!誰もが望む、その愛を一身に我が身に…………貴様が憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!」
うわぁ…………傍から聞いてるだけだが、完全にイッちゃてるよ。
会話から察するに奴隷は奴隷でも〇奴隷待遇なのかな?
「ワシは世界を自由に見て回りたいので奴隷にはならん。お主の主である女にそう伝えろ」
「貴様の意思など聞いてはいない!答えは一つ、奴隷にならせて頂きます以外はない!」
壊れたせいか発言が無茶苦茶だ。
「若様、話が通じる段階にはすでにありません。一戦交えるお覚悟を」
「仕方ないか。誰かの所有物になるのはさすがにご免だ」
「無駄な抵抗はするな!出来るだけ無傷でレラフ様に献上したい!」
「それはそちらの都合だ。こちらは徹底抗戦だ」
「愚か愚か愚か愚か!我らが主、レラフ様から逃れようはない!」
「随分と強気な発言だな」
「貴様…あのお方を前にして気付かなかったのか?」
トラードが信じられんと呻く。
「無駄にエロい格好した女としか記憶にないな」
「……くくっその程度しか見えてないとは笑わせてくれる。断言してやる、貴様は必ずレラフ様の所有物になる」
「だが断る」
「無駄だ。レラフ様からは逃げられんし抵抗も無駄。よく聞けあのお方こそ、この世界の管理者!」
なに!!?
「偉大なる剣神が一人、《魔神》レラフ様だ!!」
トラードが高々と宣言するは剣神の名前。
世界に六人しかいない、剣神の一人がここに…!
何の因果か、今このゴルドーに二人の剣神が揃うなんて何の冗談だ!
四人目の剣神です。断言します。作品内一番のドSです。




