三十九話
そろそろオッサンの名前を決めなきゃな……ま、いっか。
オッサンの勇姿は今日も輝いてるな…
そんなオッサン自体には興味はひかれんが、その話題の内容が気になる。
どうやら噂の運営委員会とやらが情報を集めている現場に出くわしたらしい。
連中がどんな人物を探しているのかを知れるいい機会かも。
厄介事を避けるにしても情報は少しでもあった方がいいに決まってる。
それによって、その厄介な人物と巡り巡って会ったとしても関わりを少なくする努力ができる。
何も知らなければその努力すらしようがない。
無知とは罪なのだよ、うん。
という事で、野次馬の一員に同化する。
未だオッサンの説教が続く現場を覗き見ると、それなりにいい服を着た二人組と倒れている商人らしき初老のオッチャン。
そしてその商人を守るように立っているオッサン…当事者四人を確認。
あとはオレと同じく野次馬と化した人々が遠巻きに事態の行方を見守る。
あくまで関わりはしない。
誰だって面倒はご免だ。
「邪魔をするなジジイ!そこの男が知っている事を話せば用はない!」
身なりのいい二人組の一人、細目の男が勝手な事をほざいている。
「ならばそれに暴力をもちいるな!恥をしれい!」
オッサンの反論はもっともだ。
だからこそ、さらに苛立つ二人組が声を荒げる。
「こちらは時間が惜しいのだ!情報を出し惜しむ輩には暴力で聞き出すのみ!」
だがオッサンはその程度の威圧など、そよ風のごとく聞き流している。
「情報とは金になる。それをタダで奪うなど愚の骨頂!出直してこいウツケ者共!!」
うーむ、ことごとく正論だ。
身なりのいい二人組も、まともに言い返せないでいる。
「言わせておけばジジイごときが……」
殺気立つ男達。
短絡的だな。
口で勝てなくなったら即暴力か。
だがあの程度の力量ならオッサン一人で充分か。
これにて騒動は一件落着か。
一足先に野次馬から離れるとしよう。
「そこまでにせよ」
美しい女の声が殺気で殺伐とした空間に響く。
その声にオレは立ち去ろうとした足を止める。
そのイイ声に思わず反応した結果だ。
美声の主は……建物の上にいた。
なんでそんな所に?多くの野次馬がその声の主を視認し……顔が赤くなった。
何で?
その女の格好が問題だったからだ。
まるで下着姿同然の格好に、色気溢れる肢体。流れるような黒髪が妙に…はっきり言ってエロい。
エロいですよ、お姉さん!
しかも顔の方もタレ目に泣き黒子と色気溢れるばかりのパーツばかり。
自分の外見をよく知り、魅せる方法を心得ている。
そんなエロいお姉さんに、さすがのオッサンも野次馬同様に呆気にとられているが……身なりのいい二人組は震えていた。
上司か?
お仕置きされるのか?
こんな公衆の面前で?
「すまぬなぁ、そこの二人は妾の部下じゃ。このような荒っぽい情報収集など許可してないのだが…言い訳にしかなるまい。真摯に詫びよう」
ペコリと頭を下げる美女の対応に野次馬は概ね好感を抱いている。
オレから見ればあまりにもわざとらしく感じたが。
そんな疑りの目で見るオレとは関係なく部下らしき二人組は絶望した表情だ。
オッサンもオレと同じことを感じたみたいだが…こうも正面から非礼を詫びられたので非難する気はおきないみたいだ。
場の空気が殺伐としたものから安寧の方へと変化していく。
「貴殿がこの者達の主ならば、罰するのは主人の役目。ただ、この怪我を負わされた者の治療費は……」
「当然こちら側が支払いましょうぞ。非は全てこちらにあるのじゃから……のぅ」
お互いにアフターケアも万全か。
実に軽々とエロいお姉さんが建物の上から降り立つ。
着地の際に音もたてずに。
……ただのエロいお姉さんじゃないな。
格好はともかく、仕草や動きにムダがない。
無論、そのエロい体にも無駄はない。
見事な巨乳だ!
尻も安産タイプか、死角がないな!!
……ちょっと興奮しすぎたか。だが正真正銘まとうオーラも強者のソレ。
物理的にも死角が見当たらない。
オッサンもそれに気付いたのか、更に警戒心が増している。
周辺の野次馬は、そのエロい格好に目を奪われて気付いてないが。
そんに視線など気にもしてないエロいお姉さんは、立ち上がる商人の男に
「ほんにすまぬ事をした」
幾ばくかの金を握らす。
感謝すればいいのか、非難すればいいのか、複雑そうなその表情はしかし、握らされた金を目にして驚愕に変わる。
「さ、さすがにこんなには…」
商人が躊躇する位の金を
「迷惑料もこめてじゃ、受け取ってほしい」
しかし強引に渡す。
「さて、後は罰をくださねばのぅ」
その女上司の言葉に部下の二人組の震えは最高潮だ。
おいおい、こんな野次馬の面前でご褒美…もとい罰だと!?うらやま…………実にけしからん!!
「お、おゆるし…」
「も、もうしわ…」
ヒュン!
二人の謝罪を最後まで言わせず、女上司がオレの目でも視認できない速度で二人組の首を同時に一閃。
「この都市の流儀じゃ、百の謝罪はいらん。その愚劣さは死をもって償え。お主らの一つしかない命でな」
パチンと指をならし、二人組の首がほぼ同時にズレる。
落ちる二つの頭部、噴き出す血の噴水。
一瞬で安寧していた空気が恐怖一色へと変わる。
あまりの唐突な事態の急変に、野次馬からは悲鳴も出ない。
金を渡された商人など腰をぬかしているし、オッサンでさえ驚愕している。
その全ての反応を楽しみ、妖艶な笑みを浮かべるエロいお姉さん。
「以後このような失態は犯さぬように、部下に言い含めねばならぬのでこれにて失礼を。…死体の方は警備兵に処理させるのでそのままで結構、では」
言いたい事は言い尽くし、去っていくその背中を誰が呼び止められようか。
エロいお姉さんがいなくなった直後、すぐに場は混乱した。
そんな喧騒に紛れ込むように、オッサンが路地裏へと消えていく。
……普段のオレなら気にもしないが、オッサンが深刻そうに思いつめた表情なのが妙にひっかかる。
オレは数瞬だけ迷ったが後を追うことに決めた。
小学生の時に好きな女の子を尾行したなぁ……懐かしい。皆さんも経験あるよね?…えっ?ないの?…………またまた~。…………まじに?




