三十一話
長かった~
もうお婿さんにいけない体になった…
汚されたー!
『マスター、細胞組織の定着化に集中して下さい、ナニを切り落としますよ』
ナニを!!?
…さりげなく物騒な言葉と毒を吐くルシスに一時は癒しを求めたのはつい一時間前の事。
なんか懐かしく感じる。綺麗なバラにはトゲがあるか…真理だな。
あれからオレに無理矢理に左腕を移植したホトは立ち去った。
引き止めてもこんな状態なのでさすがに止めなかったが、ただ黙って見送るのはシャクなので
「次に会ったら必ず殺す」
とは言っておいた。何だか物語の脇役のセリフだが、奴にファラやルシスを痛めつけられた礼はまだやり足りないし、約束を破っているので情状酌量の余地なしだ。
ぜってぇ殺す。
剣神全員が悪いとは言わないが、無関心なのも職務放棄に思われるのでとりあえず、相手が誰でも剣神は一発殴っていこう。
この先々で会うかもしれないし、実行できるかが問題だな。
『やっと定着化してきたな』
ファラのその言葉に一安心する。
「ありがとう、ファラ、ルシス。オレだけじゃどうにもならなかった」
実際、剣鬼と人間では細胞から何まで違いすぎる。
よくもまぁ、オレの体が異物を拒絶しなかったもんだ、自分で自分を褒めたい。
そしてそれを移植するだけ移植して、後は放置したホトはやっぱり殺すと心の中で改めて誓う。
「さて、二人共。設定はしたから剣から本来の姿に戻ってくれ」
左腕を定着化しつつも、右腕は手持ち無沙汰だったので、その間に神剣で設定を組み換えていたのだ。
『了解』
『はい、マスター』
剣が本来の姿形を形成して……あれ、予想よりデカイ!
現れたのは双頭の龍。
しまった、二人にとって本来の姿はこっちを指すのか。
二人との初対面は人間形態だったからそっちと勘違いしたな。
「あ~すまん、ごめんなさい。人間形態でお願いします」
そんな威圧感バッチリに見下ろされても困る。
どうせなら目の保養にもなる美女でいてほしいのは男なら誰でも望む事、間違いない!
そんな個人的なオレの指示に従い、双頭の龍が二人の美人さんに早変わり。
うん、オレは神秘を目にした!!
「何だ、こっちの姿がお気に入りか変態。どうしようもない主だ」
例え変態呼ばわりされようが構わん。
男は元々変態だ!
「マスター、ファラだけじゃ物足りずワタシも貪り喰うつもりですか?ケダモノですね」
いや、うん、間違ってはいないと反論できない自分に…………乾杯!
「まだオレの手には神剣は余るから徐々にな。それに龍では目立つし。何より両手に華!ハーレム!完璧や!!」
前半はまともな理由だが後半はオレの欲求のままに叫んだら二人の視線が痛かった。
やっぱ人間は正直すぎてもダメか。
少しだけ控えようっと。
「おふざけはここまでにして…カイン、この設定内容は本気か?」
「本気でマジで本当です」
それはきっぱり断言。よく考えた結果だ、間違いない!
「マスター、本当にワタシ達の支配権を完全に戻してよろしいのですか?」
支配権限とは、形はどうあれ神剣の主となった剣神であるオレが二人に対して行使できる命令権利だ。
普通ならそのままの支配権限をオレは二人に返した。
「いいんだよ、オレが直接屈服させたわけでもないんだから」
「それは過程にすぎません。結果的にはワタシ達自らがマスターをマスターとして認めたのです。支配権限をもつ資格は十分にあります」
「それは結果論だな」
「結果が全てです」
ふむ、これに関してはやけにルシスは引かないな?
「別に支配権限がアタシ達にあっても、やる事は変わらないよルシス」
思わぬ方向から助け船。いやファラは自由ならそれでいいって考えか。
「だが聞いた事ないぞ、支配権限をもたない剣神など!」
「そんな奴がいてもいいと思うよ。実際、アタシ達の前にそんな物好きがいるし」
はぁ~とルシスがため息をついている。
「ファラやルシスは今まで通りに自由意思をもっててくれ。オレが行動制限したんじゃ二人の持ち味が生かせない…ただいきなり街中で龍形態にはならないでくれ」
「そんな非常識さはアタシにはない。……ルシスは少しズレているから保証は出来んが」
「ワタシだってそんな事はしません!」
「ならこの話しはここまでという事で」
強引にシャットアウト!
それに言ったはずだ。
オレが間違った道を進みそうになったら矯正してくれと。
その時にオレが支配権をもってたら二人を対等な視点でみられない……オレにはそちらの方が恐ろしい。
「それでこれからどうするんだカイン?何か旅の目的はあるか?」
「…特にないな。村を出てからはアベルの事ばかり考えてたし、したい事もない。……ただ」
「ただ?」
ひじょ~に言いにくいが……
「当面のカネがない。すっからかんだ、どこかで稼がないと」
「ならアタシのカネを使うか?ルシスとアタシは候補者がいない時は度々傭兵ギルドで稼いだいたから蓄えはあるぞ」
チラッとオレはルシスを見る。
「ワタシはファラほど人間には関わっていませんが、剣精を狩ってたのでそこそこです」
二人揃って蓄えアリとは……それを食い潰すオレはさながらヒモ?
いや食い潰す気はないけど!
イカン、これはイカン!
一応、そう一応ではあるが神剣の主である剣神が養われるって!
逆だろ!
オレが養う側だろ!
いや対等な立場だから三等分か。
「よしやっぱり稼ごう!ファラ、当面の資金だけ借してください」
低頭平身でお願いする。
カネを借りるからには当たり前だ。
「別にあげるよ?前の角アリの報酬も受け取ってないし、何ならそれを丸々資金に……」
「ファラ、オレをこれ以上ダメダメな男にしないでくれ!借りた分はしっかり返します!」
「あ、あぁ。カインがそれでいいなら…」
「ありがとうございます!」
さすがにファラとルシスがドン引きしてるが、カネはそれだけ大事だって事を二人にも理解してもらわなくては…ズレた金銭感覚は身を滅ぼす!!
「それでマスター、どこに向かいますか?ワタシはあまりおカネ稼ぎは意識したことないので、そういう情報には疎いです」
「そうだな…」
かくいう聞かれたオレもあまり心当たりはない。
騎士として仕官していた給料で不備なく暮らしていたからなぁ……
「どうやらアタシの独壇場ね、資金調達に関しては」
ファラがドヤ顔だ。
美人だから許される可愛さだな。
「どこかいい穴場があるのか?」
「任せなさい。あの都市ならすぐに大金持ちになれる。何を隠そう、アタシもあそこで荒稼ぎしたから」
……何か嫌な予感がするな。
ルシスは何も疑っていないのか乗り気だ。
……行くしかないか。
借りたカネを返すなら短い方がいいに決まってる。
「じゃあファラ案内してくれるか?」
「よし、アタシについてこい!」
ファラを先頭にルシスが続き、最後尾にオレ。
しばらくはこの三人で旅をしていくだろうな。
「カイン、さっさと来い。置いていくぞ」
「マスター、ファラは本気ですよー!」
こうしてはいられない!
オレは二人を追って死闘を繰り広げた場所を後にする。
「そういえばこの樹海はどうなるんだ?主である二人の住処だろ?」
「もう候補者を待つ必要もないし……ルシス、ここを解放するか?」
「そうだね、戻る事はあっても住む機会はないから解放しよう」
「いいのか、二人共?」
「もうここはワタシ達だけが独占する場所じゃなくなった方がいいんですよ」
……オレの気のせいだろうか?樹海が主の出発を寂しがっている風に見えるのは。
「…場を解放して他の動物たちに開放するのはいいが、樹海に時々は戻ってくると伝えた方がいいぞ。千年以上は世話になった聖域だろ?」
オレの顔を不思議そうな表情で見ていた二人だが、何か納得したのか樹海全体に語りかけた。
「またくるぞー!」
「必ず戻ってきます!」
二人の言葉に反応するように樹海に存在する全ての巨木が葉を揺らした。
まるで呪縛から解放された二人を祝福するように。
樹海全体が主の出発を寂しがりながら見送るように。
その巨木達のざわめきにファラとルシスの驚いた表情がやけに面白く可愛らしい。
今まで切迫した緊張感で、世界を憂いていたから気付いてなかったのか。
樹海のざわめきを…
「二人は愛されてるな」
オレの言葉に二人は最高の笑顔を浮かべた。
樹海編おわった~




