三十一・五話
二人しか出てきません。
「おかえりホト」
大陸、いや世界各地に点在する自分の秘密研究所。
そのどれかに立ち寄るなどホト自身しか知らないはずだ。
いやホト自身も気分で立ち寄る先を決めているので、五分前の自分すら予想できない。
なのに少女はここにいる。
人形のような可愛らしい顔と綺麗なドレスを着飾り平然と。
場所が場所ならダンスの相手に引っ張りだこ…と言いたいが、ここは研究所。しかもホト個人の。
だから周囲には死体しかない。
保管の為に冷温は常であり、肌寒い。
だが少女はそんな場所にいても普段通りだ。
「ただいまトゥアラ」
だが常日頃から自分の帰りを待ち伏せする客人には慣れているせいか、別段ホトも驚きもしない。
「どうだった?今回の候補者は?」
一足先に帰った少女が過程を聞いてくる。
結果自体は剣神の誕生ですでに分かっている。
世界各地にいる他の剣神もそれは同様。
だから目の前の少女は過程、その中身が知りたいのだ。
「そんなに気になるなら一緒に来ればよかったのでは?」
「意地悪ね、ホトは」
頬をふくらます少女をしかしホトは冷めた目で見る。
「万が一でも正体が悟られるとでも…………アベル?」
瞬間、両者の時が止まる。
だがそれもほんの一瞬。
机の上に散乱している研究機材を適当に指で遊びながら、トゥアラ…いやアベルが口を開く。
声音は少女。しかし喋り方が変化した。
「その可能性もあるかなって。だからホトさんには私のフリをしてほしかったんですが…」
「すぐバレたぞ。この外見もな」
そこでホトは幻惑剣技を解除した。
十代の若者は、三十代の男性へと姿を元に戻した。
「同じとはいかないまでも、あるていどの面影を感じさせる努力はしたが無駄だった」
「なるほど、やはり行かなくて正解でしたね」
「…性別すら変えたのに見破られると?」
「間違いなく」
剣神の肉体改変は性別の変更すら可能にした。
結果、アベルは何が気に入ったのか剣神になった直後から性転換。遺伝子、フェロモンまでもイジくり回し…人形のような少女、トゥアラへと生まれ変わった。
ここで注意したいのは、別にアベルは正体を隠したいが為にトゥアラになったわけではない。
トゥアラのままでいたいからそうしただけだ。
「今はまだ会いたくないんですよねぇ…………出会った瞬間に嬉しすぎて興奮して殺さない自信がない」
瞳をキラキラさせるその外見は恋する少女……だが発言内容は物騒で危険。
「……なら当分はワタクシ達三人の計画を進めるか?」
「そうですね、あまりレラフを待たせると、退屈しのぎに先走るかもしれませんし」
「その点は心配ない。何やら本人が気に入った何かを見つけたとかでご機嫌だ。今はそちらに夢中だ」
「……それはそれで厄介だとは思いますが。まぁ、せっかく剣神も揃いましたし……この世界、ロードギアが戦争を始める前に、私達も動きましょう」
「準備しておこう。とは言ってもほぼ終えているが」
「さすがホトさん。……じゃあまた連絡するから、バイバイ~!」
突然喋り方を切り替えたアベルに、さすがのホトもやや唖然としながらその背を見送る。
「《狭間》のアベル、いやトゥアラか。……中々にいいコワレ具合だ。見てて飽きないな」
ホトはそれ以降、一言も喋る事なく研究に没頭する。
その脳に、アベルやカインの事など欠片も残ってはいなかった……
最初はアベルの事を男の娘にする予定でしたが剣神があまりにチート設定になったのでなら性別変えればいいんじゃね?って事に落ち着きました、てへ。




