十七話
カインの戦いです。
目の前にはアベルがいた。
…去っていった日の。
十三歳の時のまままだ。
だからこれは夢だ。
こうやって楽しく過ごせているのはきっと夢に違いない。
こんなに…だってこんなに楽しく剣と剣を合わせているのだから!
互いが一撃一撃必殺の攻撃を繰り出すがどちらもそれを紙一重で避ける!
斬り裂く!切り裂く!きりさく!キリサク!
突き、刺し、払い、あらゆる方法で互いの命を刈り取らんとする!
アベルの表情は笑っている。
だからきっとオレも笑ってる。
互いが互いの命を奪わんとしているのに笑う。
純粋な笑顔、だがどこか凄惨で怖い笑顔。
互いに言葉はない。
剣で語り合っている。
だが何も分からない。
伝わってこない。
当たり前だ。
これは夢なんだ。
だから分からないに決まってる。
この剣の会話は自分自身となのだから。
姿形はアベルでもきっと中身はオレだ。
分かりきった剣筋。
アベルがこんなに弱いわけがない。
オレの脳みそよ、オレ自身を騙す気ならもっとちゃんとアベルを再現しろよ。
記憶の中のアベルはこんなもんじゃなかったぞ?
いったいいつまで続くのか?
時間感覚はマヒして何時間?何日?斬り合っているのか、もう分からない。
ただ止まれば死ぬ。
それだけは確かだ。
それだけは確信できる。
だから止まることはない。
だがそろそろ…それもどうでもよくなりつつある。
なんでオレは止まらないんだ?
死が何だ?
死ねば皆一緒だろ?
辛い思いもせずに済むし悲しい思いだってしなくて済むんだ。
こんなに悩む必要だって…………
…………でも、駄目だな。
楽はしたい。
楽になりたい。
でも……諦める気にだけはならない。
だからオレは止まらない。
でもさすがにこのままじゃきりがない。
ならどうするか?
目の前のアベルの姿をしたオレ相手に?
実力は互角、使用する剣技も同じ、威力すらもだ。
なら……
オレが更に強くなればいい。
斬撃を速くしろ!
新たな剣技を生み出せ!
威力を底上げしろ!
全てにおいて、かつての自分自身を凌駕しろ!
超えろ、自分を超えろ!
かつての自分自身を!!
アベルの姿形をとるオレが叫ぶ!
『赤刃!!』
手にしている剣の刀身が真っ赤に共鳴している。
以前のオレならそれに応えて剣の名を呼んだはずだ。
契約した剣獣であるその名を。
だがもういいだろ?
オレもお前も成長していいんだ。
だから……
お前の名前はもう…
『赤刃』じゃない。
そうだろ?
「赤帝刃!!」
新たな名を叫ぶ!
それに剣が、剣獣が共鳴し、体験した事のない魔素を爆発的に発生させ、その力を解放、アベルの形をした、オレ自身を斬り裂き跡形もなく消滅させた。
B級聖剣、赤帝刃。
それが新しいオレの愛剣、新たなる力!
自分自身に勝つ……難しいようで簡単、簡単なようで難しい。




