十一話
ちょっと長くなりました。ちょいと貴方のお時間を下さい。
運命の日。
全てが壊れ、変わり果てた日。
いやすでに前兆はあった。
ただ見えないフリをしただけだ。
来るべきして来てしまっただけ。
あの日。
雷鳴鳴り響く豪雨の深夜。
悲劇は起きた。
村でも一番といわれた剣使の父とそれに劣らない実力をもつ母がたった一人に斬殺された。
ピクリとも動かない二人の亡骸をオレは愕然と、殺人者は興味なく見下ろしている。
「あ……あぁ…………」
言葉にならないうめき声はオレが発している。
対して
「兄さん、おはよう」
殺人者はいつも通りの挨拶。嫌になるくらいにいつも通り。
「とは言っても深夜だけど。やっぱりうるさかったよね?一応、音に気を付けてこんな天候の日を狙ったんだけどあまり意味はなかったかな?」
その発言内容に戦慄した。
前々からこんな事をすると計画してたのか?
なのにいつもと変わらずあの態度だったのか?
……こいつは何だ?本当にオレの家族か?血が繋がっているのか?
何もかもが信じられない。
そんなオレの心理などこれっぽっちも考えていない殺人者が、得意気に語る。
「ちゃんと公平な条件になるよう、父さんと母さんにも剣を構えさせてから戦ったから、ちょっと部屋が散らかったね」
「ど……どうして…」
「理由?簡単だよ、ボク以外にこの村で一番強い剣使とその妻だったからさ。でも…期待はしてなかったけどやっぱり弱かったよ」
父や母を殺めた事よりもその強弱にしか興味がない殺人者は異常だった。
やや暗闇に慣れた視界が殺人者の姿を嫌でも見せる。
殺人者は全身血塗れだがそれは全て返り血だろう。
どこか痛がる素振りは全くない。
つまりは無傷。
この村一番の強さを誇った父を相手に。
「ずっと昔から、もしかしたらとは思ってたんだ。直接戦う事を訓練とはいえやけに拒むからさ。…案の定、予想通りでさ」
クククッと笑っている。
きっと本人は面白ろくて笑っているんじゃない。
つまらなすぎて笑っているんだ。
その笑い声に狂気がにじみでている。
「弱かった弱すぎだよなんでこんなに弱いんだ?こんなのがかつては村一番?ハハハッそこらの子供にすら劣る弱さだ!?」
父は危惧していた。
目の前の殺人者が…自分の子供が強くなりすぎた事を。
その才能の片鱗は、すでに幼い頃から見せてはいた。
決定的だったのは八歳にもならない頃に、偶然か必然か剣獣と契約したのだ。
年齢が一桁の剣使誕生に父や母どころか村中が大騒ぎ。
日に日に強大な力を身につけていく殺人者…アベルにオレは恐怖を抱いた。
表面上はいつも通りにしていたが、心の中ではアベルを畏怖し忌避した。
そんな月日も流れ、父から手ほどきをうけていたアベルは二年後、十歳にも満たない時分に村近辺に突如として現れた剣精を斬殺。
村から退治に出た父がそれを目撃したらしい。
その時になってようやく父も気付いたのだ。我が子の危険性を。
常日頃、アベルは強くなる、強くなると口癖だった父はその言葉数を減らしていく結果になった。
それからは出来るだけアベルの成長を抑制しようとした父だったが、アベルは独学で成長していき完全に父の手を離れた。
この時点でアベルの剣位はおそらくB級。村一番の強者の称号は父からアベルへと移っていた。
この頃になってオレは偶然、森を歩いていた時に出会った剣獣と強制的に契約され剣使となった。
今思い返しても強引すぎるだろと言えるのだから、当時のオレはさぞ困惑したことだろう。
両親共に優秀な剣使の遺伝子を受け継いだおかげか、これで家族全員が剣使となった。
これは非常に稀な現象だが、過去にもなかった事例ではないらしい。
両親共に剣使ならば、その子供は剣獣にとって興味深い対象のようで、通常の人間に比べ契約しやすいとの事。
こうしてアベルに遅れる事二年。
オレは剣使として父の元で修行をつんでいく。
この時、オレは十三歳。
全体から見れば早い方だがアベルには負けた。
アベルの件で慎重になったのか、父はオレの修行に関しては徹底的に基礎を学ばせた。
剣技も基本的な使い方で、それを応用させる使い方は教えなかった。
それに関してオレは特に何も言わなかった。
言うべき雰囲気はなかったと言うべきか。
オレはアベルほどの才能はなかったが着実に強くなっていった。
その様子をアベルは冷めた目で見つめていた事はよく覚えている。
アベルは一人で修行していたせいでもあるが、父はオレとアベルを手合わせする事を固く禁じていたのも、そんな目をしていた原因だと思える。
そして、オレもようやく父に並ぶほどの剣使になれると確信した十六歳、アベル十三歳の時にこの夜の惨劇へと続く。
外は未だ雨がどしゃ降り、やむ気配はない。
むしろひどくなっている。
「……つまらない。ほんと、つまらない。」
心底つまらなそうに呟くアベルに、オレは掛ける言葉がみつからない。
不意に
「そういえば兄さん、約束はおぼえてる?」
先ほどに比べてやや楽しそうな声音でアベルが話し掛けてきた。
「やく……そく?」
あまりにも唐突だったので頭が働かない。
何の約束だ?
「ほら、ボクが六歳で兄さんが九歳くらいの時に、一緒に剣龍を倒そうってやつ」
「あ、あぁ」
そんな約束もあったなと思い出す。
正直、ウロおぼえの記憶だ。
子供故に、子供だからこそ約束できたあまりにも現実味のない話し。
何故この状況でそんな昔の約束を持ち出したのか、オレは理解できなかった。
「あんまり覚えてないのかな?ヴェルジュ樹海に行く話」
すっかり忘れてたよとは口に出せない。
「今はまだムリそうだから、時がきたら兄さんを誘うから絶対にきてね。それまではボクも……」
アベルが遠くを見つめるように、オレじゃない何かを見ている。
「……どこかでヒマをつぶしておくよ。じゃあまたね」
すれ違う際に、アベルがオレの肩を軽くポンッと叩いた。
直後にオレはその場に尻もちをついた。
そんなオレの事など気にする様子もなく、アベルは鼻歌を歌って我が家であった自宅を出ていく。
外はどしゃ降りなのに……
二度と戻る事はないはずなのに……
アベルはまるで近所にいくような軽い足取りで振り返る事なく去っていった。
それが四年前の出来事。
オレが村を出たキッカケ。
ちなみにカインが生まれた村は人口5、600人規模だと設定してます、あしからず。




