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剣と龍と神  作者: カナメ
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七十五・五話

は~じま~るよ~

今、私の目の前ではミクトラン帝国の中心地である帝都が真っ赤に燃え上がっている。



突然侵攻してきた『剣精』の大軍によって。



唐突に現れた化け物どもが、我先にと帝都目指して駆けていた事に、誰もが信じられないと現実逃避したのは仕方ないだろう。

私もまさにその一人だった。

そしてそれはまさに悪夢のような光景だった。



一番早く正気に戻ったのは誰だっただろうか?

あまり鮮明には思い出せないが、私と同じ帝都守備に配属された高位剣使だった……かもしれない。とにかく、この状況をすぐに国の上層部に報告しなければいけないし、同時に国民の避難と戦闘準備を速やかに行わなければいけない。

すぐに各守備隊の指揮官が指示をしていく。

一時は茫然自失としていたが、さすがは帝都を守護するエリート集団で指揮する立場にあって、その姿は頼もしく映った。

だがそれ以上に頼もしい人物たちが前線に出てきた。

三つに分裂したこの国を、再び一つにした偉大なる三人の皇帝。

各々がA級剣使である三人は一致団結して帝都の三大門とも言われる北門、南門、東門へと散開。

私がいる東門には真正面から戦えば負けなしのサルージュ皇帝が陣頭指揮をとっている。



地平線の彼方からワラワラと動く『剣精』の大軍が視界一面に広がっている。

私を含め、帝都守備隊の全員が緊張と恐怖でどうにかなりそうなのに、ザルーシュ皇帝は平然とその光景を見つめている。

動揺や迷いなど欠片も感じられないその後ろ姿に、私は何とか最低限の覚悟を決められた。



やるしかない!

どうせ逃げてもさきはない!



そう自分に言い聞かせて。

…………そんな覚悟など簡単に打ち砕かれたわけだが。



怒涛の勢いそのままに、魔剣使の剣技射程に入った『剣精』に先制攻撃する形で戦争は開始された。まずは出鼻を挫くため、魔剣使の属性剣技が少なくない数の『剣精』を吹き飛ばしていく。

だが、『剣精』の勢いは止まるどころか更に増したようにすら感じた。

守りなど一切考えていない、捨て身ともいえる無謀な『剣精』の攻勢に終始、私たちは圧倒されるばかりだった。

そして……『剣精』の大軍はこちらの必死な抵抗など歯牙にもかけず、東門を容赦なく突破していく。

こちらも黙って行かせたわけではない。攻めよせる『剣精』を二千か三千は減らした手応えはあった。

だが『剣精』の大軍はまるでそんな抵抗は無意味だと言わんばかりに、味方の死体を踏み越え、門に接近。

当然、私たちは門を壊させまいと城壁の上から雨霰(あめあられ)のように様々な剣技を放った。

止むことのない無数の剣技は、『剣精』を数百単位で吹き飛ばしていったが、『剣精』はそれでも躊躇いなく攻め続けた。



結果、たった数分で東門は粉々に粉砕され、帝都への侵入を許してしまう。

だがあくまでもそれは一つ目の城壁に過ぎない。

この帝都は二重、三重と強固で分厚い城壁に守られているのだ。

その全てを突破されない限り、帝都は陥落などしない。

……城壁と城壁の間に居をかまえている一般市民の被害は少なからず出るだろうが、それは些末な問題だ。



しかし事態はより深刻な方向へと突き進んでいた。

東方面が第一城壁を放棄した時点で、既に北と南方面は第ニ城壁を放棄していたからだ。

あまりにも早すぎる侵攻状況だが、どうやら敵の主力は北と南の両方面だったらしい。

報告を聞く限り、北と南方面が凄惨で悲惨な状況であることが窺える。

その事実に、私はただひたすらに絶望した。

アレが敵の主力じゃないという事実に。 東方面はまだ、北と南に比べれば生ぬるい地獄だった事に。だが、絶望している暇すら、今はない。

北と南方面の守備についている他の二人の皇帝たちから、ザルーシュ皇帝は救援を求められていたからだ。

だが東方面も他所に兵をまわせる余裕など皆無。

しかし最後の砦でもある各方面の第三城壁を突破されれば、帝城までの障害はなく、簡単に落城するだろう。

つまりそれは帝都の陥落と同意義だ。



この戦いは一方面で勝利しても意味はない。

三方面全てを守りきらなければ、負けなのだ。

ザルーシュ皇帝は苦しい決断を迫られている。

だというのに、それでもなお平静な表情で、北と南方面に救援を送ることを決定した。

……所詮は焼け石に水だったが。

それからも『剣精』の侵攻は苛烈を極め、第二城壁で抵抗していた私たちの守備隊は文字通り、ボロボロになった。

いや、私たちの部隊だけじゃない。

全部隊が、同じだ。死者が多く出た定員割れの部隊は即座に他の部隊に吸収され、急場凌ぎの再編成。

片腕やら片足をなくしても動けるならば再度、前線へと駆り出され酷使されていく。

もはやまともな部隊など、この時点では帝都のどこにも存在していないだろう。ザルーシュ皇帝が自ら率いている精鋭揃いの部隊、その全員も満身創痍だ。

意地かプライドだけで何とか立っているのは、誰が見てもわかるほどだ。



それでもそんな状況でただ一人、表面上は平然とした様子で指示を出しているザルーシュ皇帝を見て、さすがは帝国のトップの一人だと場違いに感心してしまう。

ザルーシュ皇帝も疲れているだろうに、それを微塵も感じさせない姿は頼もしく映る。

…………思い返してみれば、この時に気付くべきだった。

ザルーシュ皇帝の違和感に。



その後、第二城壁では何とか一時間は『剣精』の攻勢をしのぎ、死守したが、そこまでが限界だった。

善戦むなしく第二城壁も突破され、放棄が確定。

私たちは速やかに第三城壁へと戦線を後退することを余儀なくされた。

最後の戦場になるであろう第三城壁へと後退している途中、突破された第二城壁の方角から無数の悲鳴が上がったが、私たちはそれに聞こえないフリをして無視した。

ただ、前だけを見て走った。

後ろを振り返ってしまえば、もう二度と戦えないと思えてならなかったから。

ただひたすらに、前だけを向いた。

先頭を走るザルーシュ皇帝も、決して後ろを振り返りはしなかった。

だがやはり私たち同様、心の中では市民を見捨てていることに苦悩しているのだろうか?

その後ろ姿からでは、私には何もわからなかった。





……第三城壁を間近にした私たちを待っていたのは味方ではなく、敵だった。

つまり、北と南方面のどちらか……もしくは両方の第三城壁が突破されたのだということだ。

この状況から推測するに、帝城が落城するのも時間の問題だろう。

それを認識すると同時に、ここに来て一気に全身を脱力感が襲う。

その脱力感に抵抗することも出来ず、私は地面にしゃがみこむ。

私と同じように力なく地面に座りこむ者、どうしていいか分からず右往左往している者、泣き崩れる者……各々の反応はそれぞれだった。

だが、やはり一人だけこの状況下で平静を保つ人物がいた。



そう、ザルーシュ皇帝だ。

何故、あのお方はあんなにも平然としていられるのだろうか?

今までは逼迫(ひっぱく)した状況だったので深くは考えてこなかったが、明らかにおかしい。

この絶望的な状況すら、ザルーシュ皇帝は予想していた?

ならばここから生き延びる方法、もしくはこの状況を打破する策でもあるのだろうか?

いや、逆になければあんなに死人のように落ち着いていられるはずがない。

冷静沈着なんて言葉じゃ片付かないし、ザルーシュ皇帝は元々、気性の荒い人物だったはず。

ならば私たちは生き延びられる?

一縷(いちる)の希望を見た私を待っていたのは、しかし非情な現実のみ。



後ろから、『剣精』の大軍が迫ってきたのだ。

すでに前方の第三城壁と後方の第二城壁からは火の手があがり、赤い炎と黒い煙が視認できる。

あの内部に味方が残っていると思っている奴は、よほど周りが見えていないか、ただのバカだろう。 逃げ道なんて、どこにもない。

あれだけいた東方面の帝都守備兵も、数十人しか残っていない。

うち、高位剣使はザルーシュ皇帝とその側近。

更には……私を含めて三人のみ。

最悪としか言い様がない。

周りの低位剣使や一般兵は、こちらをすがるような目で見ているが冗談じゃない。

自分一人の身すら危ういのに、他人になど構っていられるか!

もはやこんな状況下では、皇帝などよりも自分自身の身だけをひたすらに案じていた。



……卑劣?

………矮小?

…………醜い?

大いに結構。

それでも私は生きたいのだ。

だからこそ私は、ザルーシュ皇帝や他の兵に聞こえるよう、堂々と宣言した。



「私が退路を切り開きます!」



自分の身を省みず、危険な役目を自ら申し出た私を、周囲の人間がまるで聖人のようだと称える。



……やめてくれ。

………そんな期待するような目で私を見ないでくれ。

…………私は、一人で、逃げるつもりなのだから。



A級剣使である私なら、私だけならばあの『剣精』の大軍を突破し、生き延びられるかもしれない。

退路を切り開く、なんて言ってはいるが実際は一人で逃げる為の方便なんだ。

退路を切り開くなら、後ろを振り向かなくても不自然じゃないだろ?

ただ、前だけを見ていればいいんだから。

制止の声も、怒号も、悲鳴も、全部聞こえないフリをすればいいんだから。

大丈夫、聞こえないフリをするのには慣れた。

思わず立ち止まる、なんて愚かな行動もしない。

だから、私に、何も、期待、しないで。










そうして私は……ルサリア・ガーノは死地から脱した。

私だけが生き延びる為に、自分以外の全てを見捨てて。

見つめる先には未だ燃え続ける帝都が、遠くからでも見える。

私が、見捨てた場所。

もう、二度と来ないだろう場所を、私はずっと見つめた。

心の整理が出来るまで、ずっと……。







































「ホト様、ミクトラン帝国の帝都及び帝城が『剣鬼』の手によって陥落しました」



「そうか。予想より早く落ちたな」



「帝都の守備隊が万全の迎撃準備が出来ないように、『剣鬼』侵攻の情報を遮断した甲斐がありましたね」



「そうだな。それで……あの三人はどうなった?」



「はっ、全員の死亡……ではなく消滅を確認しました」



「うん、既に死んでいるから消滅が正しい表現だな。これでミクトラン帝国は瓦解し、計画通りならレラフは王都を壊滅させ、アベルがラーズを殺しているだろう」



「……人間側の二大勢力が同時に消滅ですね。これで別大陸から侵攻してきた『剣鬼』が派手に暴れ回れますね」



「あぁ、事態は更に混沌としていく。いい感じに煮えてきたな、ロードギアという世界が」



「ホト様の計画も、いよいよ大詰めですね」



「そうだな。実に楽しみだ」

さて、今後ルサリアさんは本編にどう絡んでいくんですかね~?

次話はカイン視点を予定してます。

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