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剣と龍と神  作者: カナメ
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七十四話

よっしゃー、総数百話いったど~!


「頑張ったね」



良い事をした子供を褒めるように、アベルが満面の笑顔でオレを見つめる。

アベルの全身は返り血で真っ赤に染まっているが、それは元から。

傷は一つも負ってない。

そう、オレはアベルに傷一つ、つけられなかった。

対するオレは全身から血を流しているし、呼吸も荒い。

体力、魔素はともに底をつく寸前。

剣を振る力などもはやなし、ただ意地で握ってはいるが意味はないだろう。

だが手離す気は欠片もない。

こいつの前では絶対に何があっても!

オレのそんな意思を嘲笑うかのように、アベルがオレの右腕に剣を突き刺す。



「がああああ!!」



「いい悲鳴だね」



オレの悲鳴が心地よいメロディーなのだろうか?

アベルは心底ウットリしている。

だが突き刺さしたオレの右腕を見て、未だに剣が握られて事に恍惚とした表情は一転、眉をひそめた。



「まだやる気なんだ?勝つ見込みなんかないのに、まだ」



「ぐぅぅううっっ!!」



痛みでどうにかなりそうで、言葉にならないうめき声しか口からは出ないが、アベルを睨むことでオレはまだ諦めてないと抵抗した。

予想した反応とは真逆なオレを見てガッカリするかと思われたアベルはしかし、先ほどよりも陶然(とうぜん)としていた。



「はっ??」



何故、アベルがそんなに嬉しそうなのかがオレにはわからなくて…………我ながら間抜けな声が出た。



「やっぱりカインは………」



オレの顔にアベルは手を伸ばす。

だが、その手が届く前に、言葉を遮る形でアベルが目の前で彼方に吹き飛ばされる。

あまりの急展開に声すら出せないオレの前に、一人の女が立っていた。

この国の女王にして『剣神』の一人、《神壊》のラーズが、目の前に。

かつてこの国に所属していた時は、遠い場所にいた女王が、手を伸ばせば触れられる位置に。



「女王陛下!」



遅れた形で数人の高位剣使が女王ラーズの周りを囲む。

その内の一人には見覚えがあった。



「お前は……」



どうやら向こうも気付いたようだ。

もう動けるようになったんだな、ネモ。 だが再会を喜んでばかりもいられない。



「国境戦線を立て直す。ネモ、斬士部隊の全戦力をもって帝国を押し返せ!」



「はっ!直ちに!」



すぐさま走り去るネモはこちらを一瞥だけして去っていく。 どうやら女王の脅威にはならないと判断されたらしい。



「雷師、王都をあまり手薄にはしたくない。直ぐに戻れ」



「承知致しました。ですが王都には宰相もいますから大事には至らないかと」



「楽観はできない。現に、メイゼルスは死んだ。我が国屈指のS級が」



「……確かに。あの男が死んだとは信じられませんな。では、直ちに帰還致します」



「頼んだぞ」



白髪の老人がラーズに恭しく頭を下げ、戦場から離脱していく。

おい、まさか一国のトップがこのまま最前線に残る気か?



「さてと……さっさと起きてこいトゥアラ。いつまで寝転がっている?」



「クスクスッ、いきなり殴り飛ばしておいて随分な言い草だねラーズ。でも予測どおり、最前線まで出てきたね、嬉しいよ」



吹き飛ばされて寝転がっていたトゥアラが、何事もなかったかのように立ち上がる。

その身にケガはなく、着ていたドレスがやや汚れただけだ。 すぐに警戒するようにラーズの周囲を固めた護衛が身構える。



「よい、下がれ。居ても無駄に損害が増えるだけだ。ネモと共に戦線を押し返してこい…………急げ」



急な命令に躊躇う護衛を半ば強引に追い払い、ラーズはアベルと一対一で対面する。



「勝つ見込みはあるの、ラーズ?」



「その言葉、そっくりそのまま返す。倒せるか?この《神壊》を?」



挑発に挑発で返すラーズに、予備動作なくアベルが動く。

それに即座に反応したラーズの神剣が、アベルの神剣とぶつかり合う!

直後に二つの神剣がぶつかり合った余波が周囲に拡散、一切の余力がなかったオレは抵抗むなしくただ転がる。

オレなんかはあの二人の視界の外側だ。 …………遠いな、あの領域は。

いつかオレも、あの高みに到達できるのだろうか?

オレの羨望の眼差しなど、あの二人にとってはどうでもいい事。

圧倒的な魔素量を互いにぶつけ合う死闘は、激しさを増す一方だ。

ああ…………悔しいな。


























「あれ?また新手の邪魔者?あの兄弟二人は何か呪われているかのように星の巡りが最悪ね~。おちおち語り合う事も出来ないなんて」



剣の雨を降り続けさせながらも余所見する余裕すらあるマレフィキウムを、しかし誰も咎められない。

あまりにも理不尽な状況を作り出したマレフィキウムが、有利さを捨てない限りは、どうしようもない。

そんな状況をなくす存在が都合よく現れたりは…………



「はっはーーー!!」



しないと思われたが現れた。

豪快に、力強く、考えなしに。

空中でマレフィキウムと、乱入者である金髪ロングの色白男が『剣神』ほどではないが、膨大な魔素を衝突させた。

だが勢いと体格差があった分、マレフィキウムが押しきられる形で大地へと叩きつけられる。

これにより、マレフィキウムは上空というアドバンテージを失った。

だがすぐに立ち上がるマレフィキウムに、別段深刻な様子は皆無。

むしろ自身を大地へと叩きつけた相手を楽しそうに見上げた。



「これはこれは……まさか三大聖剣使の一人、『列聖』ラインが乱入してくるとは予想外ね」



「相変わらず世俗に疎いのか『大魔女』?俺は『七欲』の一人でもあるんだぜ」



「……なるほど。それで戦うの?三対一で」



マレフィキウムを取り囲む位置に、アタシとキーリカが立つ。

突然現れた男……『七欲』のラインはとりあえず敵と認識しなくていいなら、確かに三対一だ。

さすがの『大魔女』も、この状況から迂闊に動けは……



「属性剣技、氷光乱舞」



しないと思っていたのは明らかに油断。ルシスと同等とも言える威力の剣技を何とかやり過ごす。

だがあくまでやり過ごしただけだ。

無傷ではない。

アタシの左腕は事実しばらくは使い物にならないだろう。

負傷したのはアタシだけではない。

キーリカやラインも少なからず怪我を負っていた。



「……まぁこれ位がちょうどいいか。さぁ来なよ、たかが三人でこの『大魔女』を止められると思うなら、ね」



不遜な態度で宣言するマレフィキウムに、アタシを含めて他の二人も唾を飲み込む。

ハッタリじゃない。 『大魔女』マレフィキウムは本気でこの状況がイーブンだと思っている。



「チッ、化け物みたいな魔素量も相変わらずかよ。そこにいるお二人さん、邪魔だけはすんなよ?」



生意気な事をほざくだけほざいて、ラインは聖剣使らしく近接戦闘をマレフィキウムに仕掛ける。

だがマレフィキウムもそう簡単には近付けさせない。

魔剣使の得意な中・遠距離戦でラインを翻弄している。

……この場にいるのは聖剣使だけか。

つくづくバランスが悪い編成だが、文句を言ってても始まらない。



「キーリカ、何とか隙を作れ。三人がかりなら一人くらいはあの弾幕を突破できるだろう」



「サラッと言ってくれるけど、下手したら死ぬよ?」



「その時は、その程度でカインの本妻にはなれないのだと潔く諦めろ」



「……なんだろう、何か無性に怒りが込み上げてくるんだけど」



「その怒りは『大魔女』にぶつけろ」



「言われなくても!」



アタシとキーリカの牽制がわりの剣技が同時にマレフィキウム目掛けて放たれるが、難なく無力化される。

だが意識の分散が出来ただけでも上出来。

アドバンテージが失われた時に逃げなかった事を後悔させてやるよ、『大魔女』!!























「トゥアラ様!」



何者かに吹き飛ばされたトゥアラの元へ駆け出さんとしたメルレガの進路を塞ぐように、ワタシは立ち塞がる。



「邪魔をするな!!」



それは無理な相談だ。

ワタシはここで、お前を殺す気なのだから。



「唯一剣技、剣生」



いきなりそれか。

だがメルレガ、焦っているせいか動きが単調だぞ。

そんなわかりやすい剣筋では、かすりもしない。

繰り出される一撃、二撃目を余裕で回避し、更に三撃目を剣で弾く。

バランスを崩した無防備なメルレガの脇腹を削る。

しかしさすがの反応速度、一気に腹を両断するつもりだったのに脇腹しか削れなかったとは。



「……てぇ…」



ん?



「いてぇだろ……」



!!

何だ、この魔素量は!?



「いてえって言ってんだろ!このクソ女が!!」



瞬速。

まさにその一言に尽きる。

気付いた時にはメルレガがワタシの上に乗りかかっていた。 両肩を刃で貫かれ、地面へと縫いつけられるのに抵抗はしたが無意味だった。

もはや『剣獣』と一体化しているメルレガに、理性などない。

ワタシの上で獣のように叫び、喰らわんと口をあける歯はすでに尖った牙だらけ。

……所詮は獣か。

ワタシはまだ、剣を手離してないのに食事休憩とは。

なめるなよ、メルレガ。



「召喚剣技、虎狼」



『剣獣』に形を与え、ロードギアに顕現させる。

ワタシに馬乗り状態のメルレガの背後から、体長三メートルはあろう巨虎と巨狼が牙を剥き出しにして襲いかかる。



「!??」



気付くのが遅い。

二体の巨獣は容赦なくメルレガの両腕を喰い千切り、吐き捨てる。

その際のワタシに対する雑な救出は……まあ目を瞑ろう。

奇しくも互いに両腕は使えない。

こちらの手札は召喚した『剣獣』で、あちらは牙と足か……。

ワタシの方が有利……と考えるにはまだ早い、か?

そういえば以前メルレガと戦った時に、最後の方で切札らしきものがあったかな。

あの様子からして切札には絶対の自身が窺えた。

最後まで油断は禁物ね。



「くそガ!!ヨクも……!殺す殺す殺す殺す殺すコロすころすコロス殺す殺すころす殺す殺してやる!!」



両腕を喰い千切った『剣獣』と、それを使役するワタシにメルレガの呪詛のような叫びが木霊する……その所々の発音が少しばかり呂律が回ってない事を、奴は気付いている様子はなし。

限界がすぐそこまで迫っている。

自滅の時が。



「それはそれで厄介なんだけど」



巻き込まれる前に決着をつけたいというのに……



「ショウカン剣ギ、獣樹王」



どうにも事態は悪い方向にばかり突き進むらしい。

メルレガ自身を依代にして召喚されたのはもちろんS級の『剣獣』。

しかも今の今まで閉じ込められていた鬱憤(うっぷん)値は限界突破しているのは確実。

……早期決戦は無理そうね。

次はまた王都です。

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