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第23話 ……それ、本当に最適化なのかな

 翌日。


 本部から連絡が来た。


 件名は短かった。


 配置人数見直しについて。


 開く。


 本文も短い。


 来月より、当該現場については八名体制へ移行してください。


 以上。


 その下に、承認者の名前が並んでいた。


 僕は画面を見た。


 昨日。


 十名。


 八名。


 差は、二人。


 そこまでは自分でも見た。


 条件も変えた。


 繁忙日。


 欠勤。


 品質。


 何度聞いても、八か九だった。


 人件費の試算も見た。


 年間で考えれば、無視できない。


 反論する材料はない。


 というより。


 反論するなら、昨日の自分にも反論しなければならない。


 データを揃えたのは僕だ。


 AIに分析させたのも僕だ。


 条件を変えて確かめたのも僕だ。


 会社として利益を残すことにも納得した。


 僕は返信を開いた。


「承知しました」


 送信した。


     *


 しばらくして、追加の連絡が来た。


 八名体制での配置案を作成してください。


 その一文を見て。


 ようやく。


 十。


 八。


 二。


 だったものが、


 人になる。


 スタッフ一覧を開いた。


 十人。


 名前が並んでいる。


 勤務日数。


 対応可能エリア。


 作業実績。


 入力精度。


 応援可能日。


 教育履歴。


 休み希望。


 顔写真まである。


 一人目。


 二人目。


 三人目。


 画面を下へ送る。


 八人目。


 九人目。


 十人目。


 昨日までは、ただの十だった。


     *


 AIを開いた。


 入力する。


 現在の業務品質を維持したまま、八名で運営する場合の最適な人員配置を作成してください。


 条件として、各スタッフの作業速度、対応可能エリア、勤務実績、シフト柔軟性、報告精度、手戻り、教育履歴を考慮してください。


 実行する。


 AIは処理を始めた。


 少し待つ。


 八人の名前が並んだ。


 一人目。


 二人目。


 三人目。


 四人目。


 五人目。


 六人目。


 七人目。


 八人目。


 その下。


 通常配置から外れる候補。


 二名。


 名前が出た。


 僕は一度、画面から目を離した。


 それから、もう一度見た。


 小峠。


「……小峠さん?」


     *


 理由を聞いた。


「小峠を通常配置から外した理由を教えて」


 AIは説明した。


 作業速度。


 平均。


 対応可能エリア。


 十分。


 シフト柔軟性。


 標準。


 報告精度。


 問題なし。


 手戻り。


 少ない。


 教育履歴。


 あり。


 悪くない。


 何も悪くない。


 でも。


 作業速度なら、もっと速い人がいる。


 対応エリアなら、もっと広い人がいる。


 シフトなら、もっと融通が利く人がいる。


 入力精度なら、もっと高い人がいる。


 八人で契約業務を回す。


 その条件で組み合わせると。


 小峠は外に出る。


 AIは何もおかしなことを言っていなかった。


 僕はもう一度一覧を見る。


 八人。


 その下。


 二人。


 小峠。


     *


 夜。


 現場へ行った。


 小峠には、何も言わなかった。


 普通に作業していた。


 新人に何かを説明している。


「そこ、最初に水流しすぎると広がるから」


「はい」


「先にこっち寄せてからの方がいいです」


「分かりました」


 それだけ。


 別に特別なことではない。


 新人は言われた通りにブラシを動かした。


 小峠は少し見てから、別の場所へ行った。


 僕は離れたところで見ていた。


 小峠がこちらに気づいた。


「あ、お疲れさまです」


「お疲れさまです」


「今日どうしたんですか?」


「ちょっと様子見に」


「何かありました?」


「いや。特には」


「そうですか」


 小峠はまた作業へ戻った。


 しばらくしてから声をかけた。


「小峠さん」


「はい」


「この現場、八人でできますか?」


 小峠が止まった。


「八人?」


「はい」


 少し考える。


「できますよ」


 思っていたより早かった。


「十人いらないですか?」


「作業だけなら」


「作業だけなら?」


「はい」


 小峠はそれ以上続けなかった。


     *


「十人だと、余剰に感じることあります?」


「まあ、ありますね」


「余剰が生まれたら、どうしてるんですか?」


「いろいろです」


「いろいろ?」


「はい」


 小峠は手袋を外した。


「頼まれたところやったり」


「はい」


「普段できないところ見たり」


「はい」


「新人ついて回ったり」


「はい」


「前から気になってた汚れ取ったり」


「他には?」


「ホテルの人にちょっと頼まれたことやったり」


「例えば?」


「この前だと、倉庫の床とか」


「契約に入ってましたっけ」


「入ってないですね」


「他は?」


「台車のキャスター見たり」


「それも清掃業務じゃないですよね」


「そうですね」


「契約外のことは、あまりやらない方がいいですよ」


 小峠は普通に頷いた。


「そうですね」


 反論しなかった。


「何かあっても責任取れないですし」


「はい」


「本来の作業が押すこともあるので」


「そうですね」


 言っている自分も。


 間違っているとは思わなかった。


 小峠は手袋をつけ直した。


「じゃ、戻りますね」


「あ、はい」


 作業へ戻っていった。


     *


 作業が終わる前に、ホテル側の担当者に会った。


「最近どうですか」


「清掃ですか?」


「はい」


「特に問題ないですよ」


「何か気になるところあります?」


「いえ。むしろ助かってます」


「そうですか」


 少し歩きながら話す。


 担当者が続けた。


「本当は契約外だと思うので、大きな声では言えないんですけど」


「はい」


「ちょっとしたことに気づいて、その場で動いてくださるじゃないですか」


「ああ」


「この前も倉庫の床とか、台車のこととか」


 さっき聞いたやつだ。


「そういうの、現場としては助かるんですよ」


「そうですか」


「もちろん、お願いしすぎるのも違うと思ってますけど」


「はい」


「でも、ああやって動いてくださるスタッフがいることは、御社の強みですよね」


「……そうですね」


 担当者はそれ以上言わなかった。


 僕も聞かなかった。


     *


 会社へ戻って。


 過去の提案書を探した。


 何となく気になっただけだった。


 営業資料。


 現場提案。


 品質方針。


 いくつか開く。


 一枚。


 また一枚。


 その中にあった。


 一歩先を読む現場力。


 次。


 突発トラブルにも率先して対応する現場力。


 次。


 お客様の声にすぐ動ける、現場主導のサービス。


「……売ってんじゃん」


 思わず言った。


 誰もいない。


 営業資料だけが開いている。


 現場には、


 契約外のことは、あまりやらない方がいいですよ。


 と言って。


 営業では、


 突発トラブルにも率先して対応する現場力。


 と書いている。


 どこまでが突発対応で。


 どこからが契約外なのか。


 資料には書いていなかった。


 少し笑った。


 でも。


 たぶん。


 書けないのだと思った。


     *


 昨日の分析画面を開いた。


 現在の品質水準を維持したまま、必要な配置人数を算出してください。


 8名。


 その下に、算出根拠。


 作業完了率。


 手戻り。


 作業時間。


 異常報告。


 写真。


 未完了。


 全部、入っている。


 全部、ちゃんとしている。


 僕は一つずつ見た。


 倉庫の床はない。


 新人について回った時間もない。


 台車のキャスターもない。


 前から気になっていた汚れもない。


 ホテルの担当者が、


 助かっている。


 と言ったこともない。


 当然だった。


 入れていないから。


 AIに聞いたのは、


 現在の品質水準を維持したまま、必要な配置人数を算出してください。


 だった。


 AIは答えた。


 八名。


 僕は画面を見た。


 しばらく見た。


 AIは、間違えていない。


 聞かれたことに答えた。


 渡された数字を見た。


 指定された条件で計算した。


 それだけだ。


「……それ、本当に最適化なのかな」


 声に出た。


 誰に言ったのかは分からなかった。


     *


 人員配置案を開いた。


 八人。


 その下。


 通常配置から外れる候補。


 二人。


 小峠。


 もう一人。


 隣に、さっきの営業資料を置いた。


 一歩先を読む現場力。


 小峠。


 突発トラブルにも率先して対応する現場力。


 小峠。


 お客様の声にすぐ動ける、現場主導のサービス。


 小峠。


 並べてみると。


 少し変だった。


 でも。


 だからといって、


 小峠を残す。


 とも言えない。


 二人分の人件費。


 年間。


 大きい。


 契約外の作業。


 事故が起きれば責任問題になる。


 本来業務が押せば、品質は落ちる。


 八人でも契約業務はできる。


 それも。


 全部、事実だった。


     *


 本部からの通知を開いた。


 八名体制への移行。


 承認済。


 その横に、AIの配置案。


 八人の名前。


 その下。


 二人。


 小峠。


 もう一人。


 僕は新しい入力欄を開いた。


 何か聞こうと思った。


 顧客満足度。


 書く。


 少し見る。


 消す。


 突発対応力。


 書く。


 消す。


 新人教育。


 書く。


 消す。


 契約外対応。


 書く。


 そこで手が止まった。


 契約外対応。


 さっき自分で、


 あまりやらない方がいい。


 と言ったばかりだった。


 消した。


 入力欄が空になった。


 カーソルだけが残った。


 点滅している。


 画面には、八人の名前が並んでいた。


 その下に、二人。


 小峠。


 もう一人。


 昨日までは、


 ただの二人だった。


 カーソルが点滅している。


 何を聞けばいいのか。


 まだ、分からなかった。



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