第22話 Enough.
翌朝。
前日の報告を開いた。
作業完了率。
100%。
未完了。
0件。
異常報告。
0件。
「よし」
次の画面へ進んだ。
*
データは、かなり溜まっていた。
作業時間。
投入人数。
完了率。
手戻り。
異常報告。
応援に入った人数。
現場ごとの差。
スタッフごとの作業実績。
以前なら、それぞれ別の場所にあった。
紙だったり。
チャットだったり。
誰かの頭の中だったり。
今は同じ場所にある。
僕はデータをまとめて、AIに読み込ませた。
昨日、コンサルと話したことを試してみる。
最初は、広く聞いた。
「この現場の運営状況を分析して」
AIはすぐに分析を始めた。
しばらくして、項目が並んだ。
作業完了率は安定している。
導入初期と比べ、手戻りは減っている。
報告項目の欠損も減少している。
一方で、似た作業を複数人が行っている時間帯がある。
一部の作業は共通化できる可能性がある。
時間帯によって、人員に余力がある。
「へえ」
思ったより、ちゃんと見ていた。
何となく数字を並べ替えただけではない。
現場ごとの差も見ている。
曜日も見ている。
作業ごとの時間も拾っている。
「改善できるところは?」
聞いてみた。
また、いくつか出た。
入力項目の整理。
作業順の変更。
教育手順の共通化。
シフト開始時間の調整。
似た作業の統合。
人員配置の最適化。
そこで目が止まった。
人員配置の最適化。
昨日の会話を思い出した。
利益が一円でも多く残る選択をするべきですよね。
僕自身、
「そうですね」
と答えた。
*
その日のオンラインミーティングで、分析結果を共有した。
「人員配置に余力があると出ました」
コンサルは画面を見た。
「どの程度ですか」
「そこまでは、まだ聞いてません」
「では、算出しましょう」
「人数を?」
「はい」
コンサルは資料を一枚送ってきた。
「現在の品質水準を維持することを条件にしてください」
「分かりました」
僕は入力した。
現在の品質水準を維持したまま、必要な配置人数を算出してください。
AIがデータを処理する。
画面に文字が増えていく。
やがて、数字が出た。
現在配置人数。
10名。
推奨配置人数。
8名。
「……二人、多い?」
「多い、とは書いていません」
コンサルが言った。
声の調子は変わらなかった。
「八人で現在の品質水準を維持できる可能性がある、という結果です」
僕は画面を見る。
確かに。
二人、多い。
とは、どこにも書いていない。
10名。
8名。
それを引き算したのは僕だった。
*
「これ、どこまで信用できますかね」
「条件を変えて確認しましょう」
繁忙日に限定する。
8〜9名。
「欠勤リスクを含めると?」
8〜9名。
「品質を今より落とさない場合は?」
「現在の条件に含まれています」
「ああ、そうか」
「念のため、品質水準を下回らないことを独立した条件として入れてみましょう」
入力する。
8名。
僕は画面を見た。
「十には戻らないですね」
「十に戻すことが目的ではありませんから」
「そうですね」
曜日を変えた。
時間帯を変えた。
一部の作業条件を変えた。
八。
九。
八。
九。
「ちゃんと計算してるんですね」
「そのためのデータです」
コンサルは次の資料を開いた。
「根拠データも確認してください」
「はい」
会話はそのまま進んだ。
*
AIに聞く。
「推奨人数の算出根拠になったデータを表示して」
一覧が出た。
日付。
投入人数。
作業時間。
完了率。
未完了。
手戻り。
異常報告。
一日ずつ並んでいる。
スクロールする。
完了率。
100%。
未完了。
0件。
異常報告。
0件。
次。
98%。
未完了。
1件。
異常報告。
0件。
次。
100%。
未完了。
0件。
異常報告。
0件。
昨夜。
作業完了。
100%。
未完了。
0件。
異常報告。
0件。
そのままスクロールした。
*
夜。
リビングでは、藤井風の「満ちてゆく」が流れていた。
最近の妻のお気に入りだった。
何度も流れているので、僕もイントロくらいなら分かるようになった。
だからといって、歌詞をちゃんと知っているわけではない。
妻はキッチンにいる。
僕はソファに座っていた。
テーブルの上には、買ってきたケーキの箱がある。
曲が終わった。
次の曲が始まる前に、妻が言った。
「ロウソク、何本にする?」
「何の?」
「ケーキ」
「ああ」
ケーキの箱の横に、ロウソクの袋が置いてある。
「年齢分でいいんじゃない?」
「嫌だよ」
「なんで」
「多いから」
「必要な本数でしょ」
「何に必要なの?」
「年齢を正確に表すため」
「誰に?」
「……俺?」
「知ってるでしょ」
「知ってる」
「私も知ってる」
「うん」
「じゃあ一本でいいじゃん」
「一本?」
「火を消したいだけなんだから」
「いや、それだと何歳か分かんないじゃん」
「だから、知ってるでしょ」
「……確かに」
妻は袋から一本だけ抜いた。
「一本なんだ」
「一本です」
「ずいぶん減ったな」
「品質は変わってません」
「何の品質だよ」
妻はロウソクをケーキに刺した。
真ん中から少しずれていた。
「そこなんだ」
「何が?」
「いや。真ん中じゃないんだなと思って」
「刺さってればいいでしょ」
「まあね」
「火つけるよ」
「はい」
部屋の明かりを少し落とした。
一本だけ火がついた。
歌うほどでもなかったので、歌わなかった。
「消して」
「早くない?」
「溶けるから」
息を吹いた。
火が消えた。
「おめでとう」
「ありがとう」
妻はロウソクを抜いた。
さっきの曲とは別の曲が流れていた。
それで終わった。
*
夜。
パソコンを開いた。
昼間の分析結果が残っていた。
現在配置人数。
10名。
推奨配置人数。
8名。
他にも提案は並んでいる。
作業順。
開始時間。
共通化できる項目。
シフト。
教育。
僕はまた、8のところで止まった。
AIが何か新しいことを言ったわけではない。
データを入れた。
条件を指定した。
その条件の中で計算した。
それだけだ。
品質を維持する。
その条件も、こちらから入れた。
画面を少しスクロールする。
作業完了率。
手戻り。
異常件数。
時間。
それらが、品質を判断する材料として並んでいる。
僕は画面を戻した。
10名。
8名。
*
コンサルから、試算が届いていた。
二名分の人件費。
月。
年間。
数字を見る。
「でかいな……」
思わず声が出た。
一日だけなら、大きく見えない。
一か月。
一年。
積み上げると、無視できない。
会社が利益を残す。
それ自体は、今も間違っていると思わない。
二人減らして、同じ仕事ができる。
同じ品質を維持できる。
もし本当にそうなら。
十人のままにする理由は何だろう。
そこまで考えて。
画面を見る。
現在配置人数。
10名。
推奨配置人数。
8名。
十人。
八人。
差は、二人。
画面の数字は、きれいだった。
二人。
まだ、
誰の名前も書かれていなかった。




