↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つぎはぎマリーの子守唄  作者: 宮澤


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/19

16話 決心

 まだ朝には早い時間にマリーは目を覚ました。

 飛び起きたと言ってもいい。

 しばらく固まっていたマリーは徐に夜着の左腕部分を捲り上げた。


「―――っあ、」


 次いで爪を見る。

 そこにあるのは細長い、爪。


「……ふっ、い、ぶ……っ」


 二の腕あたりにあった繋ぎ目の赤い糸は、綺麗さっぱりなくなり、肌の色も、爪の形も何もかもが元のマリーのものであった。


「イブ……っ!イブ!!」


『……マリー?』


 寝起きの、掠れる様なアーシュの声が聞こえた。

 続いて起きたのだろう三人の声も続いたが、混乱したマリーは答える事ができなかった。


「イブが、イブが、居なくなっちゃった……!」


『それは、どういう……っ本当だ。イブの気配がない』


 驚くグレンの声も。


「さっきまで一緒だったの!夢の中で、一緒に歩いて話してたの!なのにっ……!」


『……マリー、落ち着いて!』

『ゆっくり、息をするのよ』


 宥めるジェシカとエバの声も。


「でも、そう、お別れみたいなことばかり言ってて……!」


『マリー』

 

 呼びかけるアーシュの声も、マリーには届かない。

 ―――その時。


「すまないが勝手に失礼する」


 ガチャリ、とマリーの部屋の扉が開いた。

 そこに居たのは夜着にガウンを羽織ったルイスで。


「……ルイス、様!イブが!イブが居ないんです!!」


「……ああ、先程まで私も話をしていた。――マリー嬢」


 近づいてきたルイスはベッドへ腰を掛けると、泣きじゃくるマリーをそっと抱きしめた。

 それは、幼児を守りあやす様な抱擁だった。

 ただただ優しく、慰める為に背中を叩く温かい手。

 そう、もう彼の手は、温かい。

 つい先程感じたイブの体温と良く似ていた。


「……ありがとう、マリー嬢。イブを連れてきてくれてありがとう……お陰で俺は再びあの子と話ができた。こんな奇跡はない」


「でも、せっかく、せっかく会えたのに」


「……そう、会えたんだ。それだけで十分だ。あの子はもうずっと貴女達に幸せにしてもらっていたと良く分かった。ありがとう。マリー嬢も、貴女の中に居る4人も。――イブは本当に幸せだった」


 ふわり、とルイスが目元を和らげ微笑む。

 その表情まで先程のイブを彷彿させて。

 この兄妹はきっと、きっとよく似た2人だったのだ。


「――っう、寂しい、寂しいです。……すごく、寂しい……だけどイブは、イブはきっと穏やかな場所に行けたんですよね……?」


「ああ、間違いなく」


 穏やかで、温かい手がマリーの背を撫でる。

 

「マリー嬢、今日はこの部屋でゆっくりと休むと良い。必要なものがあったらそのベルを鳴らせば誰かしら来る」


「……ありがとう、ございます」


 温かな手がそっと離れていく。

 残された体がひどく冷たく感じた。


「……ルイス、様は……」


「ん?」


「私を、憎く思わないのですか?」


「なぜ?」


 マリーの問いにルイスは酷く驚いたようだった。


「……イブを、勝手に連れて行ってしまったから……」


「――ようするに、貴女は今私に怒られたいんだな?10年、私とイブを引き離したと感じている」


「………はい」


「……マリー嬢。悪いが貴女の期待には応えられないよ。……感謝している。貴女を生かすためにイブを選んだマシュー殿にも―――イブと共に10年、歩んできてくれた貴女達にも。……先程話した、と言っただろう?」


(そういえば――……)


「……私の夢にも、会いにきてくれたんだ。――そもそもあれは夢なんだろうか……」


「――!では……直接、お話しできたんですね……」


「ああ、それもマリー嬢のお陰だ。成長したイブと話すのも楽しかった。……少し悔しいくらいに、満足していた。幸せだった、と」


 マリーの頭を優しく撫でるとルイスは立ち上がる。


「だからマリー嬢。私は貴女を怒ってはあげないよ」


 少し意地悪気に笑いながらルイスは部屋を出て行った。

 寂しく、悲しいのは変わらない。

 けれどマリーの心は少し暖かくなっていた。



「……ごめんなさい、さっきは混乱しちゃって」


『……大丈夫だよ、マリー。何があったか教えてくれるかな?』


 穏やかなアーシュの声に、マリーは頷くと夢の中でのイブの話を語った。

 あの場所に再び訪れた事、成長したイブが居た事――イブと話した事も。



『……そっか、イブはそれで……』


『……私達にもご挨拶くらいしてくれても良いのに……っ』


『まあまあエバ。イブにとっても急だった筈だからな!オレは……寂しいけど、嬉しいよ。イブは幸せに眠れたんだ。あの夜、マリーに繋がらなかった子供達は、きっと穏やかには眠れなかった』


『……そうですわね……』


『ね、マリー。17歳になったイブの姿もっと教えて?わたしちゃんと覚えておきたい』


 ジェシカの提案にこくりとマリーは頷いた。

 話をしていくうちに、各々がイブとの思い出を語り始め、泣いて笑ってイブを慈しんだ。

 きっと、それが何よりの弔いだった。





(―――みんな……アーシュも、エバも、グレンも、ジェシカも………あの夜に思い残した事が叶ったのなら………)


 マリーのエメラルドの瞳には、悲嘆と……一つの決心が宿っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。