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つぎはぎマリーの子守唄  作者: 宮澤


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15話 イブ・アーフベルト②

「それじゃあおやすみ。また明日よかったら話を聞かせて欲しい」


「はい……おやすみなさい」


 部屋の前まで案内してくれたルイスは名残惜しげに何度か振り向きながらも去っていった。

 きっと彼の目に映っているのはもうマリーでは無くイブなのだろう。


 綺麗に整えられた落ち着いた部屋に入るとマリーはほっと息を吐いた。


「……ルイス様はイブの事が本当に本当に大好きなんですね」


『……そうみたい』


『ずっと会えなかった妹に漸く会えたんですもの。――本当にごめんなさいイブ……みなさんも』


『謝んないでよ、エバ。わたし高飛車なあなたが好きよ。それに、本当に謝る事じゃない。さっきグレンが言ったみたいに必要な時が来ただけなのよ』


「必要な、時……」


『……イブも、そう思う。待ってくれてたお兄ちゃんには悪いけど、今だからイブもちゃんとただいまって言えたんだなって』


『あ、後マリーはちゃんと目元を冷やして寝る事!明日ひどい目に合いたくなかったらね』


「……はぁい、ジェシカ」



 マリーは身を整えた後、ベッドに入り冷やした布を瞼に掛けながら、その下で目を閉じた。


「……おやすみなさい」


 色々な衝撃があったからか、何か考える間もなくマリーは深い眠りに落ちていって――――。







 ふわりふわりと、草花が淡く揺れている。

 青とも灰色とも言い切れない絶妙な空がはるか上空に広がって。


 マリーはここに、来た事がある。



「ここは……」


「マリー」


 少し高めの、柔らかい声に名を呼ばれ後ろを振り向く。

 薄紫色の、長い癖のある髪がふわふわと風に乗って柔らかく動いた。

 その前髪の下には、大きく丸い、トパーズ色の綺麗な瞳。

 近づいてきた彼女は、マリーよりも背が高かった。

 少しだけ屈んで、マリーの目を射抜く様に見つめるその顔は、少女からすっかり大人の女性へと足を踏み入れている。


「あ、両目とも翠だ。……手足に繋ぎ目も無し。マリーだけだね」


「あ、え、い、イブ?」


「そうだよ。イブ、マリーよりも背が高かったんだねぇ。それともマリーが小さい?」


 マリーの薄茶色の頭を撫でながら、にこにこと笑う成長したイブ。


「ここは、夢?」


「夢だけど、夢じゃないのかも。マリーもイブもここに居る。ね、ちょっとお散歩しながら話そうよ」


「う、うん……」


 混乱するマリーを他所に、イブはマリーの左手を繋ぐとのんびりと歩き始めた。

 何と無く視線を向けると、マリーの左腕――ちょうど繋ぎ目辺りに赤いリボンが巻かれていた。


「2人でさ、こうしてのんびりするのは始めてだねぇ」


「そうですね、いつも賑やかだから」


 変わり映えのない景色の中を、2人歩く。


「マリー本当にありがとう」


「え?」


「今日お兄ちゃんに会えた事もそうだけど……イブねぇマリーの左腕になれて良かったよ」


「イブ?」


「イブね、毎日本当に楽しかった。本当に本当に楽しかった。それでさらにお兄ちゃんに会えてお話ししたらさぁ……幸せいっぱいで、満足しちゃったのかも」


「さっきから何を……」


「イブさぁ、あんまり信じる方じゃ無いんだけど、それでももし生まれ変わりっていうものがあるとしたらね、またお兄ちゃんの妹に生まれて、それでさ」


「イブ!!」


 思わず立ち止まり、イブの手を引く。

 マリーを見て笑うその顔は、美しい大人の女性だった。


「また、マリーと友達になりたいな」


 ぽろりとマリーの両目から涙が溢れる。


「あはは、今日のマリーは泣いてばかりだね」


「……イブの所為ですよ……」


「んふふ、そっかぁ」


 嬉しそうにマリーの涙を拭うので、余計に涙が止まらなくなる。


「あ、もちろんみんなともね?それでみんなでお買い物したり、ご飯食べたり――マリーが泣いてたらこうやって支えてあげるの」


「ずっと、ずっと支えてくれてます」


「違うの、ちゃんと心も体も両方支えたかったんだよ」


 温かい、温かい体温がマリーを優しく包む。

 柔らかくて、柑橘系の爽やかな香りがする。

 ――これが、イブ・アーフベルトという人。

 

「マリー。子守唄、歌ってくれる?あのイブの好きな子守唄」


「……もちろん、いいですよ」



 “良い子 良い子 私の良い子や

 眠るあなたに 愛のお花

 眠るあなたの お顔にひとつ

 愛の口付け 私のお花”


 イブの体温を感じながらマリーは歌う。

 この子守唄は、イブが眠れない夜に彼女の母が歌ってくれたものだと言う。

 イブが歌って、とマリーに強請る時は大体がこの歌だった。


「……これは、貰っていくね」


 するり、とイブがマリーの左腕のリボンを解いた。

 その事が酷く、酷く寂しく感じて。

 思わずその手を引き留めたマリーにイブは嬉しそうに笑った。


「マリー、大好き!またイブと出会ってね」


 ぐらり、と足元が揺れる。

 マリーだけが、落ちていく。

 イブはそんなマリーに手を振りながら、ずっとずっと見ていた。

 マリーもイブから目を逸らさずに子守唄を歌い続けた。



 “良い子 良い子 可愛い良い子や

 私の隣で 夢の中

 私も隣で 夢の中

 良い子 良い子 愛しい良い子や

 明日教えて あなたの夢”




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素敵な話です!
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