14話 イブ・アーフベルト①
「……夜会の夜にイブから聞いたのか?しかし、それなら貴女はイブから聞いた話として私に話したはずだ―――どうして、知っている?」
決して逃さない、誤魔化す事も許さないと意思の固い瞳がマリーを見つめている。逸らされる事なく。
『……話しましょう、イブ』
静かなエバの声にマリーは目を見開く。
『だって、そしたらエバ!』
『――ごめんなさい、イブ。貴女のお兄様にはもっと早く、もっと早く打ち明けるべきだったのよ……私がその機会を奪ってしまった』
『そんな事ないよ!』
『あるのよ、イブ。……きっとお兄様はこの話を信じてくださるわ。だから、イブ。だってこの方は貴女のただいまをずっと待っていたのよ?』
『……オレはさ、今この時だからこそ信じてもらえると思うぞ!多分もっと早かったら、信じきれない。そんな事を言うマリーを許せないと思ったかもしれない。今だからこそ、通じる話もあるだろ?』
『……グレン、あなた偶にとてつもなく賢く感じるわ』
『それ褒めてるのか?ジェシカ』
『褒めてる褒めてる』
『――俺も、言っていいと思う。彼におかえり、と言わせてあげるべきだ』
少しの静寂の後、決心したイブの声が響いた。
『……うん――お願い、していい?マリー』
イブの問いに、マリーは頷き、震える手で、頭に被ったマントを下ろした。
不意に顕になったマリーの素顔に、ルイスは瞠目する。
「――ルイス様。全てお答えします。嘘偽りなく」
左手を、ルイスに差し出す。
「……イブが、イブが教えてくれたんです。彼女は本が大好きで、知識が豊富で……でも、少し抜けてて。あの占いについての本が二冊しかない事も、今知ったみたいです」
「な、にを……」
ルイスは差し出された左手とマリーの顔を忙しなく交互に見る。
「それでは……まるで……」
トパーズの瞳に映るのは、困惑と―――。
「まるで………」
「……あの日からずっと、ずっと、私と共に居ます。5人は――イブは、私と一緒に」
がたり、と大きな音を立てて目の前の男は椅子から立ち上がる。
これでもかと目を見開いて。
「なにを――」
『マリー、イブの魔法使って?お兄ちゃんの髪の毛ボサボサにしてくれる?』
「……うん」
イブの魔法は風属性だ。
左手を一度軽く振ると、柔らかく温かい風がルイスへと飛んでいった。
悪戯な風は綺麗に整えられた男の髪を存分に乱すと満足したかの様に鎮まる。
その全てを呆然と受け入れていたルイスの瞳は、困惑の影に隠れていたもう一つに支配されて輝いていく。
それは、喜び。
「あぁ……!ああっ……!!イブだ!イブが!!」
マリーの左手に額を寄せて、祈る様にしてルイスは掴んだ。
イブと揃いの瞳からは絶え間なく透明で、柔らかい涙が落ちる。
「私は!俺は!!お前にずっと……ずっと!会いたかった!」
『マリー、今からイブが言う事そのまま伝えてくれる?』
「――うん」
『お兄ちゃん、ごめんね』
「お兄ちゃん、ごめんね」
「お前が、謝ることなど……!!」
『夜会に行く前にお兄ちゃんのお気に入りのお菓子食べたのイブなの』
「……夜会に行く前にお兄ちゃんのお気に入りのお菓子食べたのイブなの」
「……それは、謝って欲しい事だが!!」
『……お兄ちゃんの、役に立ちたかったの』
「……お、兄ちゃんのっ……役に、立ちたかったの」
込み上げてくるもので、言葉が途切れ途切れになってしまう。
それでも、一言一句漏らさない様マリーは続けた。
『お兄ちゃん、大好きだよ。――ただいま』
「お兄ちゃん、……っ大好きだよ。……った、ただいまっ」
今度こそルイスは声を出して泣いた。
肩を振るわせ、マリーの、イブの左手を強く強く握りしめながら、咆哮の様な声を出しながら。
「おかえり、おかえりっイブ……イブ、俺も大好きだよ。――夜会は楽しかったかい?」
『うん、イブね婚約者は見つけられなかったけど、たくさん友達ができたよ』
「……っあ、ごめんなさい……楽しかったと、婚約者は見つけられ、なかったけど、たくさん……っ友達が出来たと……」
マリーも耐え切れなかった涙が右目から溢れ出す。
震える声はもはや上手く話す事が出来ていなかったが、それでもルイスは泣きながら微笑んだ。
その日、結局マリーはルイスの家へ泊まる事となった。
マリーが、いや、イブが話す今までの事をルイスはずっと、ずっと聞いていた。
マリーが眠くなって一つあくびをこぼすまでずっと。




