大きくて硬いのをちょうだい。
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【大きくて硬いのをちょうだい。】
■人数:2人
■形式:掛け合い
■登場人物:女男
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女「大きくて硬いのをちょうだい。」
彼女はわざとらしく意味深な言葉を放ち、くすくすと笑った。
女「……あなたって、本当変態だよね」
男「は?」
女「絶対そういうこと想像したでしょ。今、一瞬目が泳いだもん」
男「…してないけど」
少し不機嫌に返せば、彼女は少しつまらなさそうな顔をして俺を見つめる。
女「私が言いたいことわかってない。」
彼女の声から明るさが消えた。
女「ただ愛が欲しいの。ちゃんとしたしっかりしたやつ。……触れるくらい、硬いやつ」
男「またそれ?」
俺は小さくため息をついた。
この、終着駅のない会話がまた始まる。
女「だって足りないんだもん。あなたがくれる愛は、全部液体なんだよ。連絡をくれるとか、優しさとか、たまに言ってくれる“好き”とか。それって水と同じでしょ」
男「……何がダメなの。水がないと人間は死ぬだろ」
女「全部こぼれていくの。指をすり抜けて、どこにも何も残らない」
思わず声が強くなる。
男「こぼれるって何だよ。昨日だって仕事帰りにわざわざ__」
女「昨日のはもう乾いちゃったよ」
彼女はゆっくり首を振った。
女「私ね、たぶん壊れてるの。愛を受け取る容器が、荒いザルなの。あなたがどんなに綺麗な水を注いでくれても、落ちてくの。…その瞬間は幸せだよ。でも幸せを感じながら流れていくだけ」
男「……」
女「注がれている間はいいよ。でも蛇口を閉めた瞬間に『あれ、私本当に愛されてたっけ?』って。さっきまでの潤いが嘘みたいに消えて、喉が焼けるみたいに不安になるの」
俺は思わず眉をしかめた。
男「じゃあ、ずっと蛇口を開けっぱなしにしろって言うのかよ」
女「毎日くれるならまだいいよ。ずっと注ぎ続けてくれるなら渇かない。でも…あなたって飽き性でしょ? 私を知り尽くした瞬間に水を止めちゃう」
図星だ、言い返せない。
俺を見る彼女の瞳は乾いてる。
女「一日でも途切れたらもうダメなの。連絡がない日に『あ、もうこの世に私の居場所はないんだ』って、そこまで考えちゃうの」
男「一日くらいで? 」
女「うん。だってザルには一滴も残ってないんだもん。昨日の貯金ができないんだよ」
その言葉に、胸がしめつけられる。
俺が積み上げてきたつもりの愛や信頼という貯金は、彼女の世界では利息どころか元本すら残らない。
男「俺だって人間だ。休みが必要な時もある。こんなに尽くしてるのに、全部ゼロにされる俺の身にもなってくれよ」
言った瞬間、彼女の瞳から光が消えた。
女「ねえ、その“こんなに”って、誰のための記憶?」
冷たい問いが刺さる。
女「私の中には一滴も残ってない。残ってないものは無いのと同じだよ。昨日の愛を盾にして、今日の怠慢を正当化しないで」
男「怠慢……? 冗談だろ」
女「怠慢だよ、水はいらないの。注ぎ続けなきゃいけないような面倒なものはもういらない」
彼女は俺の腕を掴んだ。
その指先は驚くほど冷たい。
女「大きくて、硬いのをちょうだい。飲み込めないくらい大きくて、絶対に形が変わらないくらい硬いやつ」
男「……」
女「少しくらい放っておいても壊れない流れないやつ。私がどれだけ暴れても、泣き叫んでも、びくともしない岩みたいなやつをさ…。私が死ぬまで私の中心に居座り続けて、深く沈んでくれるようなものそういう『形のある愛』をちょうだいよ」
喉まで出かかって飲み込む。
そんなものはもう愛じゃない、呪いだ。
重苦しい沈黙が流れる。
言うしかない。
男「……無理かもな。俺が持ってるのは、いつか蒸発する水だけだ」
女「……無理かもね。私が欲しいのは、あなたを一生縛り付ける石だもん」
好きなのに。
お互いを求めているはずなのに。
渡す側と受け入れる側の器が違いすぎる。
あぁ、水が飲みたいな。




