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フリー台本声劇|読めば終わる、でも残る  作者: 沼波まろな


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作られたものの気持ち

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※利用規約は本文の冒頭に記載しております。

    【作られたものの気持ち。】


■人数:4人

■形式:掛け合い

■登場人物:女 友達 お化け スタッフ


________


私はお化け屋敷が嫌いだ。


暗闇が怖いわけでも、突然の大きな音が苦手なわけでもない。ましてや、いるかどうかもわからない幽霊を怖がっているわけでもない。


私がどうしようもなく恐ろしいのは、そこに集まる"人の感情"だ。

お化け屋敷という場所には、毎日何十人、何百人、何千人という人間の"怖い"という感情が投げ込まれる。

悲鳴や小馬鹿にした笑い、逃げたいなど様々な負の感情が吐き出される。

それらの感情は逃げ場を失い、出口のない通路の壁や、薄汚れた小道具にべっとりとこびりついていく。


そうして積み重なった感情の(おり)は、いつしかただの「作り物」に望まぬ魂を宿してしまうような気がするのだ。


天井から吊るされた血糊がついた片腕。

わざとボロボロにされただけの蝋人形(ろうにんぎょう)


それらは本来、誰かに作られただけのただの"モノ"だ。

それなのに、訪れる人々はそれを「おぞましいもの」として定義し、呪い、拒絶する。

そこに人々の執着によって歪な意識が芽生えてしまったとしたら…。彼らはどんな気持ちで、自分を拒絶する人々を見つめているのだろう。


「怖がられたくて生まれたわけじゃないのに」

「ただのモノだったのに、どうしてこんなに嫌われなきゃいけないの」


そんな、作り物たちの絶望が聞こえてくるようで、私は胸が苦しくなる。

一方的に恐怖を押し付け、虚構に命を与えておきながら、飽きたら「偽物だったね」と笑い飛ばす。

その人間の身勝手さと、宿らされた魂のやりきれなさが混ざり合うあの空間が___

私はたまらなく可哀想で、気持ち悪くて、怖いのだ。



「ねぇ、入ろうよ。夏休みの思い出じゃん」


友達の屈託のない声に私は顔をしかめた。

目の前にあるのは、ボロボロなお化け屋敷。。


「無理。外で待ってる」

「えー?びびりすぎだって!偽物だよ?」

「そういう問題じゃないの」


説明しようとして、言葉を飲み込んだ。

どうせ、分かってもらえない。

こういう場所は、偽物じゃない。

空っぽなんかじゃない。

飽和状態まで詰め込まれた負の感情のゴミ箱だ。

それが怖い。


結局、半ば引きずられる形で中に入った。


ひんやりとした冷気。

わざとらしい血の跡。

いかにもな音楽。


全部、分かっている。

いかにもな音楽が恐怖心を煽る、ただの舞台セットだ。


(…うるさすぎる)


視界に入る情報のすべてが、何層にも重なった「過去の恐怖」を再生している。

壁を叩く音、床を軋ませる音。かつてここを通った誰かの「助けて」や「こっちに来ないで」という呪詛が染み付いている。

私の耳の奥で無数の他人の悲鳴が響いている気がした。


(…怖い)


角を曲がった瞬間、そいつは現れた。


白い顔に不気味な整えられてない長い髪。

紅い飛沫が散るボロボロの服。

テンプレート通りの「お化け」だ。


でも、私は叫ばなかった。

何故か感情を失い、疑問が湧いた。


(この人は、どんな気持ちなんだろう)


怖がらせる側。

マニュアル通りに身体を揺らし、何度も同じ呻きを繰り返し、見知らぬ他人の「恐怖」を完成させるための舞台役者…いや小道具でしかない。


それってあまりに孤独なんじゃないか__


「……ねぇ」


気がついたら声をかけていた。

お化け役の女が一瞬動きを止めた。

白塗りの奥にある瞳が困惑したように揺れる。


「あなたって…怖がられるためだけに、そこに立ってるの?」


沈黙が続く。

背後から友達が「ちょっと何やってんの。迷惑だよ」と私の袖を強く引っ張る。

けれど、私は動かない。動けなかった。

女はゆっくりと首をこちらに向けた。

それは脅かすための演技ではなく、疲れ切った人間の動きだった。


「……そうだよ」


作られた声じゃない、絞り出した本当の声。


「怖がってもらうためにここにいる。それが私の価値だから。」

「つらくないの? 誰からも人間だと思われないなんて」


女が少し笑った気がした。

厚塗りの化粧がひび割れ、皺を作る。


「最初は…つらかったよ。でもさ」


女は少し壁に体重を預けた。

その仕草には何百年もこの暗闇に居座っているような倦怠感があった。


「何十人、何百人、何千人も驚かせてると、だんだん分からなくなるんだ」

「何が?」

「自分が人なのか、それともあんたたちが期待している“お化け”なのか」


作り物のはずの迷路が、急に現実味を帯びてくる。


「だって」


女は視線を落としたまま続けた。


「誰も私を“人”として認識しない。みんな私を『化け物』という演出としてしか扱わない。そう扱われ続けているうちに、中身が溶けてなくなっちゃったんだ」


頭も胸も苦しくなる。

ああ、やっぱり。ここは空っぽなんかじゃない。

他人の勝手なイメージが、一人の人間の輪郭を書き換えてしまった場所だ。


「ねぇ」


私は、自分でも驚くほど切実な声で言った。


「外に出たらまた普通に戻れる? 明日の朝には、普通の服を着て、普通に笑える?」


今度は、はっきりと笑った。

けれどその瞳には、光は宿っていなかった。


「どうだろうね。外でも、みんな私に“期待”してるから」

「期待……?」

「愛想良く振る舞えとか、役に立てとか、普通でいろとか。みんな自分の都合がいいように私という人間を形作ろうとする。ここはそれが“お化け”なだけ。結局、どこにいたって、作られてるのは同じだよ」


友達に強引に引っ張られて、先へ進まされた。

振り返ると、そこにはもう"女"はいなかった。

さっきと同じガタガタという機械的な動きで、別の客を脅かしている“お化け”がいるだけだった。

出口の幕をくぐった瞬間、目が眩んだ。

夏の夕暮れの強い光が現実を主張している。


「ほら言ったじゃん。全然怖くなかったでしょ?」


友達が誇らしげに笑う。

私は引き攣った顔でうまく笑い返せなかった。


「……うん、そうだね」


確かに、お化けは怖くなかった。

でも私は知ってしまった。

あの中で、何かが確実に“生産”されていた。

人の一方的な想い形成され、役割という名の鎖に縛られ、自分を見失っていくという絶望的な場所。


「ありがとうございましたー!」


出口でスタッフが爽やかな笑顔で声をかけてくる。

ふと、あの女の瞳が頭をよぎり私はたまらずに聞いた。


「さっきの…途中の角にいた白塗りの女性の方。すごくお上手でしたね」

「え?」


スタッフがきょとんとした顔で首をかしげた。


「どの辺りのことですか?」

「えっと、後半の……少し開けた場所の壁際にいた、髪の長い人です」


スタッフは、困ったように笑いながら答えた。


「ああ!あそこはセンサー式の仕掛けだけですよ。人は配置していません。スペースが狭いので、演者の安全が確保できないんです」

「……え?」

「全部、全自動のロボットです。うまいこと驚かされました?」


足元が崩れ落ちるような感覚に襲われた。

あの掠れた声。

服を掴む手の震え。

あの空っぽな瞳。

全部、私の頭が勝手に作り出した幻想だったのか。

それとも、あの場所に溜まり続けた"恐怖"が、私の問いかけに応えて“人”を模しただけだったのか。


「……あ」


私は、ゆっくりと振り返った。入口に立てられた看板。入る前には目に入らなかったそのサブタイトルが、夕日に赤く染まっていた。



『作られたものの気持ち"あなたの想像力が、彼らに命を吹き込む"』



ぞくりと寒気が走る。

私が彼女を"人"だと思い、その"痛み"を想像した瞬間に。

あの中の“何か”は、一時的な命を得て、私を共犯者に仕立て上げたのだ。

私は、やっぱり思う。

お化け屋敷が怖いんじゃない。

人間が一方的に何かを「作ってしまう」ことが、一番怖い。

そしてその作られたものに「意味」を与えすぎたとき。

それは本当に実体を持って動き出してしまうのだ。


「……ねぇ、もう帰ろう」


私は友達の手を握った。

握ったその手が、プラスチックの偽物ではないことを、何度も、何度も確認しながら。

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― 新着の感想 ―
これがバイオハザード レクイエムをプレイしている時に思いついたという話でしょうか。 作品の為に「作られた存在」であっても、その存在に対して恐怖を感じたり、その生き様に悲しみを感じる。物語だとわかって…
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