4−3 二人の王子
二人が並んでいるのを見ると、確かに『氷の王子』と『炎の王子』だなと思う。バロンは真面目な顔をしているけれど、ロランはふわふわと微笑んでいて対照的だ。でもロランにも『氷の王子』の部分はあるし、バロンにも『炎の王子』の部分がある。二人は全く違う人間でもなければ、同じ人間でもないのだなとエラルドはぼんやり考えた。
「それにしても、瘴気浄化遠征は今の時点で可能なのか?」
「と、いうと?」
「聞いていたよりはフェロモンコントロールができているみたいだが、普通のアルファなら理性が飛ぶだろう。行かせられるのか」
「今さっきシスから抑制剤の完成が近いと聞いた。エラルドにテストしてほしいと言われたから、その結果次第かと」
「突然変異のオメガに特化した抑制剤、か。先に出会ったのがバロンだったことに君は感謝するんだな」
「……それはもう、痛いほど」
最初に出会ったのがたとえロランでも悪いようにはされなかっただろうけれど、バロンだったからこそシスとも会えたし、バグオメガという深刻な状況下にいたエラルドにとっては本当に幸運だったと言うしかない。
もしもバロンに出会わず、闇の森の中で理性を失ったアルファたちに追われたままだったら――
そう考えると恐ろしくて、ぶるりと体が震えた。
「まぁ、もしも抑制剤が効かなければ誰かと番になったほうが早いかもしれないな」
「それは先ほどイーヴァル神官様からも言われました」
「もし相手に困っているようなら、優先順位は王太子の俺が一番かな?」
「……」
顔は真顔だったが先ほどまで和やかな雰囲気が流れていた室内に、バロンのピリッとした空気が広がるのが分かった。最初に闇の森で出会った時のバロンと同じような空気感にエラルドはきゅっと口をつぐんだ。
「ふ、ははっ、お前は意外と分かりやすい奴だなぁ」
ロランはバロンの威圧感に物怖じすることなく、ケラケラ笑いながらバロンの頭を撫で回している。撫でられているバロンは複雑そうな顔をしながらため息をついているので、もしかしたら日常茶飯事なのかもしれない。
それにしてもこの数時間で何回『番』という言葉を聞いただろう。
ロランもイーヴァルも『相手がいないならぜひ俺と』と言うけれど、アルファは『番の強制解除』ができるから簡単にそんなことを言うのだろうか。番の契約とは言わば『結婚』と同じなので、一生一緒にいる人を決めるということ。
ここはゲームの世界だとしても今のエラルドが『生きている世界』なので、そんなに簡単に生涯の伴侶は決められない。そう思うのは自分の頭が硬いだけなのだろうか?
そして『番』の話になるとバロンの機嫌が悪くなる気がしているのだが、エラルドに言い寄ってきているのは攻略対象者たちのほうだけれど、もしかしたら尻軽とでも思われているのかもしれない。
「お二人は婚約者とかはいないんですか?」
「候補はいるが、決めてはいないな」
「……あまり構ってやれる時間もない」
「バロンのは言い訳だ。時間は作ろうと思えば作れるものだから」
「でもお二人の年齢なら急かされたりしませんか……?」
「それはそうだ。でも、俺は聖者を待っていたからな」
その言い方から、ロランは本当に次に来る聖者と婚約しようと思っていたのだろう。バロンに関してはオメガのフェロモンに反応しないし、婚約者は必要ないのだと言っていた。
ロランが待っていた『次の聖者』がエラルドなのだが、彼と結婚するビジョンが全くと言っていいほど見えない。きっとまだ出会ったばかりだからだろうけれど、ロランの隣に並んでいる自分を想像できなかった。
それはシスやイーヴァルに関しても同じで、彼らの隣にエラルドが立ち、番として永遠のパートナーでいる想像がつかないのだ。でも、バロンだけは違った。
彼だけは、隣に立って背の高いバロンを見上げて微笑んでいる自分のことが、想像できた。
「俺と結婚したら、もちろん不自由はさせない。なんでも好きなことをしていいし、子供にたくさん恵まれて幸せになりたいと思ってる」
「……素敵ですね」
「はは。そう思うなら、ぜひ俺と番の契約を考えてみてくれ」
「み、身分が全然、違いますから……」
「元は男爵令息だが、今は聖者。王族と結婚できるほどの身分はすでにある」
「正確には、瘴気の浄化が成功すれば聖者は国一番の功績者となる。陛下から褒美を賜る時に王族との婚姻を望めば、それは叶えられるということだ」
「へぇ、そうなんですね」
てっきり聖者は有無を言わせず高い身分が与えられると思っていたのだけれど、どうやら実際は違うらしい。こういう細かい設定は前世では覚えがないので、実際にこの国で生きているからこそ分かるものだなと思えた。
「だからもしシスの抑制剤が効かなければ、俺と番になって行くのも一つの手だ。先に陛下から褒美を賜ってな」
「でも、それは、浄化が失敗した場合はどうなるんですか?」
「まぁ……考えたくはないなぁ」
ニコニコ笑っているロランと、より一層難しい顔をしているバロン。バロンの表情を見れば、先に褒美をもらって瘴気の浄化に失敗した場合、あまりよくないことが起こると言っているのが分かる。
だから何としてでもこのバグフェロモンをどうにかして、誰とも番にならずに浄化に出かけなければならないのだろう。
「とにかく、シスの抑制剤が効くことを願うしかない。あとはエラルド自身のフェロモンコントロールと、遠征選抜騎士のラット抑制コントロール訓練を行っているから、それを信じるしかないな」
「そういえば、お前はエラルドのフェロモンも効かないのか?」
「……いや、多少は」
「そうか、そうなんだな。エラルドのフェロモンは効くのか」
バロンがオメガのフェロモンに反応しないというのを兄弟であるロランも知っていたのか、エラルドのフェロモンに反応したことをバロンが伝えるとなぜかロランのほうが嬉しそうにしていた。
周りから色々と噂をされているのもロランは知っているのだろう。なんだか安心した、というような顔をしていたので、ロランなりにバロンのことを気にかけていたことがエラルドに伝わった。ただ、当の本人であるバロンはロランの心配をあまり分かっていなさそうだけれど。
「ふふ。俺は考えが変わったかもしれない、エラルド」
「へ?」
「うんうん、分かった。いいじゃないか!」
突然一人で納得し始めたロランの言葉の意味が分からなくて、エラルドとバロンは顔を見合わせて首を捻った。




