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【完結】バグΩは氷の王子に愛を乞われる  作者: 社菘


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11/25

4−1 番の契約



イーヴァルからの聖者教育が始まった。

どんなことをするのかと思っていたのだが、勉強の内容はグラン=フェルシアに生まれた者なら誰もが知っている、または学校で習うようなものだった。


座学はサラッと終わり、浄化の力の使い方や異常なフェロモンをコントロールする力の使い方を学んでいる最中である。


「大分フェロモンコントロールは上手くなりましたね」

「ありがとうございます!どうですか?フェロモンは全く出ていませんか?」

「全く……ではないですね。訓練されていないアルファなら飛びついてくるでしょう」

「はぁ、頭痛い……」

「瘴気の浄化遠征に参加するのは訓練された第四騎士団の騎士たちと、シスが率いる数名の医師と神官。第四騎士団はアルファの騎士が多いが、その中でもよく訓練されている騎士を連れていくつもりだ」

「浄化遠征前にエラルドさんと騎士たちを会わせる機会を作らないといけないですね」

「あとはシスが開発を進めている抑制剤の効果を信じるしかない」

「エラルドさんはコントロールがお上手なので、抑制剤次第ではすぐにでも浄化遠征には行けそうです。まぁ……抑制剤ではなく、誰かと番になったほうが早い話かもしれませんが」


番、と言ったイーヴァルの言葉にバロンの眉がぴくりと動く。エラルドは本来ベータだったのでオメガの生態にあまり詳しくないけれど、確かアルファとオメガが番になるとオメガのフェロモンは番のアルファにしか効かないと聞いたことがある。


ただ、バグを抱えた訳ありオメガの自分のフェロモンが番になったくらいで他の人に効かなくなる、という『通常の設定』が果たして通用するものなのだろうか。


「よろしければ、私がそのお相手に」

「えっ、し、神官様……!?」


イーヴァルがエリオットの手を取り、にこっと微笑む。今までは自分のことで精一杯で忘れていたけれど、目の前にいるイーヴァルも『攻略対象者』なのだ。


ローブを被っているのでいつも表情はよく見えなかったが、ぱさりとローブを取った彼は金色の髪の毛をサラリとなびかせて優しく微笑みかけていた。エラルドは急にイーヴァルを攻略対象者だと認識し、無駄に顔がいいなとドキドキしてしまった。


「私はアルファです。エラルド、あなたの番になれますよ」

「そ、それは、その…そうですね……!」

「お相手が決まっていないのであれば、ぜひ」

「……イーヴァル神官、時間だ。今日はもうここらへんで終わりにしよう」

「殿下は番がいたほうがいいと思われませんか?」

「それは……エラルド本人が決めることだ。私たちが強要することではない」

「ごもっともです。では、気持ちが固まったら教えてください」

「わわ……っ」


イーヴァルの唇が手の甲に押し付けられ、彼はまたローブを被って颯爽と裏庭園を去っていった。


唇が押しつけられた手の甲がじんわりと熱くて、以前バロンからされた時とはまた違う不思議な感覚がしたのでじっと手の甲を見つめていると、ゴホンッとわざとらしい咳払いが聞こえてふと顔を上げた。


「……嬉しいですか、口付けが」

「え!いや、その……こういうふうに真正面から求められたことってないので、ちょっと嬉しくて。心がふわふわするっていうか」

「誰にでもそうなってはダメだ、エラルド」

「へ……っ」


手の甲を眺めていたエラルドは、ぼふり、ソファに押し倒されていた。押し倒されたエラルドの両手にバロンの指が絡まっていて、手の甲に口付けられたイーヴァルの熱を上書きされるようだった。


どくどくと心臓が早鐘のように脈打ってきて、合わせた手のひらからそれが伝わってしまうのではないかと別の意味で緊張してきた。


「誰にでも、嬉しがったらダメだ。君がきちんと"この人なら"と思える人にしか」

「そ、それは、はい……番のことですよね?分かっています」

「番だけではなく、心を開くのも、だ」


ぎゅっと握りしめられた手がそのままバロンの口元に近づいていき、ちゅっとリップ音を立てて何度か口付けられ、エラルドはぶわっと顔に熱が集中するのが分かった。


早鐘を通り越して太鼓でも叩いているのではと思うほど大きな音を立てて心臓が跳ね、イーヴァルからの熱をきちんと『上書き』された。


「……すまない、頭を冷やしてくる」


するり、熱い指が解けてバロンは顔を赤くしたまま裏庭園から出ていった。エラルドはソファに寝転がったままポカンと口を開けて放心していて、彼がいなくなってもなお心臓の音の激しさを感じる。もしかしたら心臓が口から出てきたのではと思うほど、鼓動がとても大きく聞こえて耳を塞ぎたくなった。


「氷の王子も、赤くなるんだなぁ……」


エラルドから離れる間際のバロンの顔は首や耳まで真っ赤になっていた。なにも感じない、心が冷たい人だなんて真っ赤な嘘だ。離れても彼の熱が手のひらから引かないほどの温かさがバロンにはある。


二十数年、王宮にいる人は誰も知らなかったのだろうか。でも、バロンの温かさを知る人が自分だけで嬉しいと思ったりもする。氷の王子の本当の姿を知っているのは自分だけでいいのだと、そんな複雑な感情が芽生えていることにエラルドは気がついていた。


「裏庭園を開ける呪文って初めて使ったけど、意外と中は広いんだなぁ」

「バロン殿下……!って、あれ……?」


バロンと同じ声がしてソファから身を起こすと、彼と全く同じ顔立ちだが瞳の色が太陽の色をしている男性がニコニコしながら立っていた。


「初めまして、聖者様。王太子のロラン・ハーシェルです」


バロンと同じ髪の色をしているけれど、襟足がきっちり揃っている短い黒髪。バロンとは違って白い服を着ていて、どこからどうみても『王太子』の威厳がある『太陽の化身』と言われる炎の王子。


一眼見て分かるほど、アルファとしての力が強いと分かる威圧感。思わず呼吸をするのも忘れるほどの圧倒的なオーラに、エラルドはごくりと生唾を飲み込んだ。




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