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エピローグその1 私の親友

 待ちに待った8月の朝。

 今日は目覚ましが鳴る前に起きる事が出来た。

 時刻は6時、少し早すぎたかな?


「...まあ良い」


 着替えを済ませ、歯磨きと洗面をする。

 鏡にいつもの私が映っていた。


「...変じゃないよね?」


 最近は独り言まで日本語になってきた。

 そう言えば頭で考えているのも日本語が多い。

 英語を忘れる心配は無いが、広東語は...


「...たまには電話でもするか」


 カナダを離れ3年、日本に留学以来一度も帰っていない。

 両親からの連絡は殆ど無い。

 最近正式に離婚したそうだが、どうでも良い。

 仕送りは毎月欠かさず振り込まれてくるし。

 別に無くても手持ちの貯金だけで十分生活は出来る。


 大きなお金を遣う事が無い日本での生活。

 余った金で行っている資産運用も順調だ。

 下手を打たなければ一生生活に困る事はあるまい。


「...おはようございます」


 リビングの扉を開けるとホストファミリーのヤマサキさんが笑顔で私を迎えてくれた。


「おはようジャニス」


「おはようジャニスちゃん」


 私がお世話になっているヤマサキ夫妻、リクのご両親。

 これが本当の家族の姿なんだ。

 互いに相手を思い、慈しむ様子は私の理想とする家族の姿だった。


「どう?」


「...おいしいです」


 朝食を食べる私に奥さんが尋ねる。

 いつもの様に笑顔で答えた。


「いつも美味しそうに食べてくれて嬉しいわ」


「全くだ、ありがとう」


「...そんな」


 実際に美味しいのだ。

 温かいご飯に味噌汁、焼き鮭と海苔の佃煮。

 毎食しっかり食べているお陰か日本に来てから3kgも太ってしまった。

 カナダにいた頃、朝は外でファストフードか食べなかったりだった。


『ほらジャニス、もっと食べなさい』


『ハンナは食べすぎよ』


『...全くだ、朝からホットドッグ5個も入るか』


『今は3個よ!』


『リクの前だからでしょ?』


『言わないの!!』

 懐かしい親友達の姿が頭に浮かんで来る。

 ハンナはちゃんとリクに食べさせているのかな?


 スーザンは...アイツはずっとビスケットかパンだったな。

 きっと今も変わらない食生活だろう。


「...ふふ」


「どうしたの?」


「...ちょっと思い出してました」


「ハンナ達を?」


「...ええ」


 素晴らしい思い出。

 リクと結ばれ無かったが、後悔は無い。

 それは私の掛け替えの無い経験、そして今の私を作ったのだから。


「おはようジャニス、今日は早いね」


「...ハナもう7時だ」


「あら本当、でも夏休みだもん」


 ハナは今年大学2年、私と違う大学だけど楽しくやっている、結構な事だ。


「今日は随分お洒落にしてるね」


 私を見てハナが言う。

 しかしハナもいつもと服装が違うぞ、気合いが入ってるな。


「...今日は特別だ」


「そうよね、スーザンはいつ来るの?」


「...朝一の新幹線だから9時には着く」


「そっか、久しぶりよね」


「...直接会うのは1年振りだ」


「そうよね...」


 高校を卒業したスーザンは私と共に日本へ来た。

 しかしアイツは私と違う大学に進み、今は東京で暮らしている。

 入学するやタレント事務所にスカウトされ、雑誌モデルから始まり、最近ではドラマやバラエティにも時折出ている。

 キャッチフレーズは、

[カナダから来た無垢な妖精]


 ...正体を知らぬとは恐ろしい。


「そろそろ行く?」


「...そうだな」


 食事を終えた私達はハナが運転する車でスーザンと待ち合わせしている駅に向かう。

 ヤマサキ夫妻は留守番。

 夕方に来る大事なお客様を迎える準備に忙しいのだ。

 ...可愛いお客様の。


「ジャニス!!ハナ!!」


 改札口から聞こえる一際大きな声。

 周りの人達が振り返るのを全く気にしてないな。


「...ようスーザン」


「久しぶり!」


 無視する訳にもいかず、軽く手を上げる。

 恥ずかしいな。


「ジャニスは変わらないね」


「...1年で変わるものか」


「スーザンは変わったわね...」


 ハナがスーザンの格好を見て呟く。

 変わったと言うより、変異したと言うべきだろう。


「ふふ...どうかしら?

 専属のスタイリストさんに用意して貰ったの」


「...その格好で新幹線に乗ったのか?」


「もちろんよ」


 さすがは芸能人といった所か。

 あれはゴスロリと言うのか?

 白いドレスにはフリフリのレースが着いている、スカートや手口まで。

 成る程、見た目は妖精だ、中身はともかく。


「お茶でも行きましょ」


「そうね、まだ時間があるし」


「...うむ」


 これで3人揃った。

 後はハンナとリク...そして可愛いゲストの到着を待つばかりだ。


 近くのカフェに入り近況を語り合う。

 やはり親友との会話は楽しい、画面越しの会話と全く違う。


「どうハナ、大学生活は?」


「まあまあかな?」


「ジャニスは?」


「...楽しいぞ、やはり選択は間違って無かった」


「そう、良かった」


 自分で決めた日本の大学へ留学。

 両親は私を中国本土の大学に行かせたかったが、断ったのだ。

 自分の生きる道は自分で決めたかった。


「それよりスーザンは?

 学生と二足のわらじは大変でしょ?」


「ワラジ?」


「あ...えーとワラジって英語では...」


 スーザンにその日本語は難しい。

 ハナも分かりやすく言えば良いのに。


「...Wear two hats」


「ああ...そうね確かに忙しいけど、でも楽しいわよ。

 休みには友達とアキハバラに行くし」


「...それは羨ましい」


 スーザンは相変わらずヲタ趣味だ、私とハナもだが。


「そういえば、テレビ局でアイツ等と会ったわ」


「アイツ等」


「...誰だ?」


「リクのガールフレンドだったアイツ等よ」


「...ユミカか?」


「ユミカとサヤカね」


「まさか?」


 意外な名前にハナと顔を見合せる。

 ハナからユミカの事は聞いていた。

 顔も知っている、ハナから写真を見たからな。


『ジャニスも警戒してね』

 そう言われて。

 スーザンは...オンラインで見せたな、

『愚か者の顔を見るか?』そう言って。


「番組のオーディションでね、私も立ち会ったんだけど、入っていきなり

『双子の堕天使、ユミカ&サヤカです』って。

 変な衣装を着ててさ、プロデューサーも引いてた」


「受かったの?」


「一次選考で落ちたそうよ」


「...そりゃ良かった」


 あの馬鹿姉妹は大学の演劇サークルで色々やらかしたらしい。

 詳しい事は知らないが、追われる様に大学を中退して行方知れずと聞いたが。


「履歴書の経歴に地下アイドルって普通書かないでしょ?」


「何それ?」


「...理解不能だ」


「事務所にも入ってないし、あれじゃ未来永劫先は無いわ」


 余りに馬鹿らしい双子の生き方。

 これは産まれ持った(さが)だろう。


「リクにはハンナが居て良かった」


「うん、兄さん幸せになったもん」


「...そうだな、早く会いたい」


「後2時間よ、楽しみ」


「ハンナ変わったかな?」


 ハナが時計を確認する。

 やっとハンナとリク会えるんだ、可愛い子供を連れて...


 高まる気持ちを抑え切れない私達だった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ハンナ、学生結婚&出産デスカ いい子はちゃんと避妊するんだぞ。と言うか、 あの御両親のお膝元でよくやらかしたな、ハンナ。 [一言] 何やってんだwwww でも、気にならないというか知りた…
[一言] 双子w 理解不能ww
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