第6話 私がハンナです! 後編
パパからの連絡を受け、急いでリクの家に戻る。
玄関で靴を脱ぎ、ハナの案内で家の奥へ。
「頑張ってね」
「ありがとうハナ」
指定された部屋の前でハナは私の背中をソッと撫でてくれた。
大丈夫、何を言われてもリクを離しはしないから。
「ハンナです。ただいま戻りました」
「入りなさい」
「失礼します」
静かにドアを開けるとリクの両親がソファに座り私を待ち構えていた。
「まあ楽にしなさい」
「ありがとうございます」
リクのお父さんに促され向かいのソファに座る。
部屋にはリクの両親と私だけ。
リクの両親は真剣な目で私を見つめていた。
「凌空には席を外して貰ったよ、今はリック達と外出してるからね」
「はい」
成る程、リクはパパ達と出掛けたのか。
どんな話をしたか気になる。
「早速だが君は凌空と、その...」
「はい、先月からお付き合いをさせて頂いております」
大きく頷く。ここは強調しないとね。
「...ふむ」
「そう」
特に驚く事なく、リクのご両親は私の言葉を聞いた。
既に知っていたとしても、直に私の口から聞きたかったのだろう。
「...凌空と」
小さく咳払いの後、リクのお父さんは口を開いた。
「凌空とどうしたいんだ?」
「どうしたいとは?」
「この先だ。
凌空は知っての通り後半年しかカナダに居られない。
その後は日本に戻って、大学に入って貰うつもりだ。
ハンナはどうするのかな?」
いきなり話は核心に来た。
リクが日本に帰るのは決定事項に聞こえる。
でも私は焦らない、心は既に決まっているのだから。
「私はリクが居ればそれで良いんです。
リクの居ない生活なんか考えられません」
「人生はそんな甘い物じゃないぞ」
「そうよ、それに答えになってないわ」
「ですよね」
ご両親はそんな事を聞きたいんじゃないのは分かっている。
でも言葉が溢れて止まらないんだ。
「確かにリクがカナダに居られる時間は残り半年です。
てもビザを変更すれば問題はありません」
「カナダの大学に留学かね?」
「それも選択肢に入れて下さい」
ゆっくりと頭を下げた。
ご両親に申し訳ない気持ちが心を締め付ける。
元気になったリクに泣きながら喜んでいた母親の気持ちを考えると...
「ハンナが日本に来るのはどうかな?」
「それが許されるのなら私としては何も」
全然構わない。
家族や親友と会えなくなるが、永遠の別れじゃないんだ。
「リックから聞いたが、君はブリティッシュコロンビア大学の進学を目指しているそうじゃないか。
そんな君の人生に凌空との恋愛は本当に必要か?
凌空と会って、たった半年だろ?」
私の希望大学まで聞いていたのか。
それよりもリクが必要かですって?
「必要です!」
「...そ、そうか」
「ハンナちゃん落ち着いて」
「...すみません」
つい本気になってしまった。
交渉事は得意な筈なのに、私って本当にダメだ...
「聞いてた通りだな」
「ええ、真っ直ぐで、凌空の事になると他が見えなくなる」
「そうだな、直情な娘さんで...凌空は幸せ者だ」
「...はい」
パパ達から聞いたんだろうな。
仕方ないよ、リクの事が大好きなんだもん。
「分かった、凌空の留学...前向きに考えてみよう」
「本当ですか?」
そんなあっさりと、いいの?
もうキャンセルは効かないよ?
「凌空もね、ハンナと歩んで行きたいって」
「それって...?」
「この先の人生をだよ」
「...リク」
リクの気持ちを知り、熱いものが込み上げる。
出来れば目の前で聞きたかった。
「...ハンナちゃん」
「...はい」
リクのお母さんが私の隣に座り、手を優しく握った。
「...リクをお願いね、あの子が...立ち直ったのはハンナちゃんのお陰よ」
「お義母さま...」
涙が止まらないよ...
「話は終わったか?」
「え?」
「「おめでとうハンナ」」
「パパ?ママも?」
ドアが開きパパとママが満面の笑顔で入って来た。
ひょっとして...
「聞いてたの?」
「もちろんだ」
「最初からずっと」
「はい?」
「隣の部屋でね、リク君ったら真っ赤になっちゃって」
「リクも?」
恥ずかしいにも程があるよ!
「さあリク」
「...ハンナ」
恥ずかしそうにリクがパパ達の後ろから現れる。
隣にはハナまで。
「ありがとう」
「ううん、リクが居ればそれで良いの」
抱き着きたい気持ちをぐっと堪える。
さすがにまだ恥ずかしい。
「リック」
「なんだ」
「今回は譲ってやる。
だかな、大学を出たら凌空は日本だからな」
「それはリクとハンナが決める事だ」
「なんだと!!」
「ち、ちょっと父さん」
「止めてよパパ」
パパ達は胸ぐらを掴んで睨み合った。
みんな止めてよ!
「イクコ、ありがとう」
「今回は凌空の幸せを優先するわ、でも次は譲れないよ」
ママ達も何だか物々しい空気、なんなのこれは?
「いっそのこと日本に移住するか?」
「良いわね、リクとハンナが卒業したら」
「は?」
「え?」
何で話がそうなるの?
「良いな、リック近所に来いよ」
「そうだな、大学時代は同じ寮だったし」
「イクコ良い?」
「良いわよ」
親達は私とリクをそっちのけで盛り上がる。
こんな簡単に決まるなんて...
「おめでとうハンナ」
「ハナ」
「少し寂しいけど、兄さんを宜しくね」
「うん」
ハナはリクが大好きなのに、少し可哀想な気がした。
「大丈夫よ」
「何が?」
「いつでもオンラインで会えるし、それに家もホストファミリーするんだ」
「そうなの?」
「ええ、兄さんの部屋が空くからね。
お父さん達が決めたの」
「リク知ってた?」
「初めて聞いた」
リクも驚いている。
最初からリクの留学を許すつもりだったのか。
「さあ飲むかリュウジ」
「そうだな、見ろ取って置きの日本酒だ」
「何か作りますね」
「イクコ手伝うわ」
大人達はそのまま宴会を始めた。
「出掛けない?」
「良いの?」
思ってもみなかったリクのお誘いだ!
「街を案内したいんだ」
「喜んで!!」
「行ってらっしゃい」
「ハナは?」
「私は遠慮するわ、早速ジャニス達に報告しなくっちゃ」
「分かった、宜しく言っといて」
スーザン達驚くだろうな。
私とリクは家を出る。
時間は昼の2時、夕方までゆっくり出来るよ!
「...あ」
「どうしたの?」
家を出て直ぐに出くわした人を見たリクの顔色が変わる。
誰だろ?
男の人が2人に、女性が3人だけど...
「...まさか」
見覚えのある2人の顔、あれは間違いない。
ママのタブレットで見たよ。
「凌空!!」
「...由美香だ」
「そうね...」
固まるリクの手をしっかり握る。
大丈夫だよ、私が居るからね。
「凌空、帰って来たのね!」
息を切らして走って来る2人。
どっちがユミカか分からない、双子だけにそっくりだ。
「あの...凌空」
「何か?」
「どこに行ってたの?」
「別に何処でもいいだろ、関係ないからほっといてくれ」
「「...そんな」」
リクの言葉に後退る2人、白々しい。
「山崎君だっけ?」
後ろに控えていた男がユミカの前に立つ、何だコイツら?
「そうですが、貴方達は?」
「僕達は由美香達の所属する演劇サークルの者だ、少し言いたい事がある」
「言いたい事?」
何だ、早く言え!
リクとの時間が減るじゃないか。
「だいたいの事は由美香達から聞いたよ。
君、少しやり過ぎじゃないか?
彼女達の謝罪も聞かないで逃げるなんて」
「はあ?」
余りの馬鹿発言にリクの顔色が真っ赤に変わる。
「そりゃ彼女達のした事は過ちよ、でも悔やんで反省してるの。
今日だって貴方の妹さんが、外国の方を連れているのを彼女のお母さんから聞いてね、由美香達は私達の予定を断って戻って来たのよ」
引き続き馬鹿発言をする別の女。
こいつも演劇サークルの仲間か?
「...話す事は無いです、貴方達には関係ない事でしょ?」
「リク」
私はリクの手を引っ張り歩き出す。
何か言ってやりだいが、これ以上リクを傷つけたくない。
コイツらは害悪だ、リクから遠ざけねば。
「貴女は?」
ユミカだか、サヤカだか知らない女が私を呼び止める。
誰が返事なんかしてやるか!
「日本語が通じないんだろ?」
「話を聞かない男には調度良いわね」
「全くだ、こんな綺麗な外人を騙せるなんてチビッ子は得だね」
「止めてよ、みんな」
「そうよ、凌空にちゃんとお別れを...」
「お前ら...」
もう怒りは臨界を越えた。
「ハンナ、駄目だよ」
ごめんなさいリク、愛する人を馬鹿にされて黙っていられる私じゃないの。
「な...なんだよ日本語分かるのか?」
「嘘」
馬鹿共が騒いでいる。
もう遅いよ...殺気を抑え切れない。
「この女が何をしたか知ってて許せだ?
お前らは本当の馬鹿か!」
「「ヒッ!!」」
「裏切られ、苦しむ人の気持ちを理解しないで何が演劇だ!
お前らがやってる事は単なる良い人遊びだろうが!」
「...そんな事は」
男達は怯みながら私を...何処見てるんだ?
「お前らは人の胸ばっかり見てないで、人と話す時は目を見ろ目を!!」
「は...はい」
男達の目を睨み付ける。
「目を逸らすな、さあもう一回言ってみろ!」
「な...何を」
「今さっきリクに言った事だ!
胸じゃなく、私の目を見て言ってみろ!!」
「もう止めようハンナ」
「...リク」
リクがそっと私の背中に手を回した。
しっかり力強く、それは私の昂っていた気持ちを優しく包み込んでくれた。
「もういいですか?
僕は貴方達と話したくありません、時間がもったいないです」
「そ...そんな凌空」
ユミカ達が縋る目でリクを見る。
ここはリクに任せよう。
「由美香、彩也香、以前なら言いたい事は沢山あったけど、今は無いんだ」
「「...どうして?」」
「幸せだからね、もう君たちの事は全くどうでも良いんだ、謝罪も要らない、気分が悪くなるだけだよ」
「「そんな!!」」
ユミカ達が叫ぶ。
悲痛な顔をしてるが、どうせ翌日にはけろっとしてるんだろ?
何となく分かる、コイツらそんな奴等だ。
「行こうハンナ」
「うん...」
静かに無言で手を握るリク。
やり過ぎたかな?
こんな恐い女と嫌われたんじゃ...
「ありがとうハンナ」
静かな公園のベンチに座り、リクはにっこり微笑んだ。
この公園って...
「僕はハンナが大好きだよ、これからも、ずっと」
「リク」
「カナダでアルバイトしたお金でハンナにプレゼントしたいって決めていたんだ」
リクはそう言って指輪を差し出した。
可愛いデザインのペアリング。
「サイズはジャニスから聞いたんだ。
受け取ってくれる?」
「もちろんよ...」
私はそっと左手を差し出す。
リクは薬指にリングを填めてくれた。
「ありがとうリク」
「良かった...」
「リク!!」
「ハンナ!!」
リクの身体をしっかり抱き締める。
この幸せを絶対手離すもんか!
「幸せ!!」
心の底から叫んだ。
エピローグ行きます。




