萬呪事引受協会、ご案内です!
前回に続き説明回。
萬呪事引受協会。
ここが私の職場であり暮らしている場所だ。
フィオレンティーナに付いて家を出て転移した先は協会のエントランスホールだった。フィオレンティーナは受付嬢に私を託すと次の仕事へと向かい、私は協会長に面会した。
会長は、この世のものとは思えない程の美形だった。史実の通り魔女は美形って事だけど私には触れないで!平凡だもの。
彼女は伝説の元聖女で転生は3回目らしい。聖女だった時以外は全て天寿を全うし、全ての生で魔女を選択し協会長に就任している。
私はまず魔女についての学習と仕事について協会本部を案内されることになった。担当してくれたのは、事務方トップのキキョウさん。眼鏡の似合う何とも艶のある背の高い美人さんで思わず見とれてしまった。
ちょっと低めの優しい声が心地いい。
「まず魔女として必要な備品を揃えに行きましょう。」
備品っていうのは、ローブと杖のことだった。
最初に案内されたのは総務部縫製課。中に入ると左右の壁の棚に積み上げられた黒い生地達。足踏みミシンが5台。刺繍台、カッティング台等があった。縫製課に所属している魔女さん達は全部で8人。ここで主に作られているのは魔女のローブだ。魔女のローブには特殊な生地と糸を使っているらしく、修繕依頼もひっきりなしらしい。つまり人手不足ってことで、
「オリエンテーション終わって、裁縫得意なら是非縫製課へ!」
と声高らかに叫んだ魔女に一人の魔女が何かをぶつけた。
「あ痛っ!……何よぉ、えっ?……あっ!あ、得意じゃなくても大丈夫!手取り足取り教えます!」
………と勧誘されました。
貴族令嬢の教養として刺繍はしていたけど職人程の実力はないかも。
「とりあえず、生地選びからね。」
ローブの色は黒だけど生地や光沢によって随分印象が違った。そういえば、すれ違った魔女さんの中にはもふもふの毛皮みたいなローブを纏っていた人もいた。
私は一般的なベロア調の生地を選んだ。私の髪は一般的な茶色、瞳の色は緑がかった黄色だから黄緑色の光沢のある黒のローブにした。裾に施す刺繍は、パターンからベースを選ぶらしい。自分の魔法属性から選ぶとよく馴染むと言うことなので、キキョウさんが私は教えてくれた水属性に因んだパターンから選ぶことにした。
「決まっていることは、胸元に協会のロゴマークを入れることと、何色にも染まらない、強い意志を示す黒を主とすることかな。白い生地に黒の総レースなんて子もいるから、黒が入っていれば、それでいいの。後は自分の好きなモチーフを言ってくれたらデザイナーと相談して、背中にでっかくドラゴンとか入れてもいいよー!」
縫製課の主任は底抜けに明るかった。本格的に仕事を始めるまでは既製品を使うので、5日前後には返事が欲しいとの事だった。
次に案内されたのは製造室。部屋に入るとこれまた綺麗な魔女さんが出迎えてくれた。何の製造かと言うと魔法の杖がメインらしい。製造室の管轄は総務部製造課で、所属魔女さんは全員で10人。杖の他にも細々としたもの(椅子とか、棚とか諸々)を作る職人気質な魔女さん達の集団だった。
「あれ?キキョウさん、男の方がいますよ?」
凄く体格のいい、顔は精悍な感じの人だった。
「魔女として処刑されたのは、女性だけじゃないですからね。」
ふとキキョウさんの表情が曇ったように見えた。
「魔女って、何人くらい居られるのですか?」
「魔女として処刑されたのは1110名。命からがら何とか生き延びその後、亡くなったのが12名。そのうち現世に転生しているのは384名。未成年で扶養の必要な乳幼児が50名。各国の支部で働いている魔女が24名、魔女ではなく一般人として暮らしているのが32名。あ、あなたが此方に来たので31名。なので、現在協会本部で働いているのは、279名、うち男性は19名です。」
すらすら答えるキキョウさん。
「凄い……、覚えているんですね。」
「総務部の人事長ですから、当たり前のことですよ。」
製造室には、背丈ほどある大きな水晶と手前に両手大の水晶があり、私は指示に従い小さな水晶に触れた。
柔らかな光を灯す水晶。
その光が筋となって大きな水晶に吸い込まれていく。
淡い水色の光は水晶に溶けて幾分強い光を放った。
「セシリアさん、大水晶の中に手を入れて下さい、手の先に触れたものが貴女の杖ですので、しっかりと握りしめて下さい。」
言われて大水晶の前に立つ。
未知の経験に手が震えたけどニッコリ微笑むキキョウさんを見て覚悟を決めた。
私の手は水晶に飲まれていく。感触としては柔らかいゼリーの中に腕を入れていくと言ったらいいかしら。
肘関節の一歩手前で指先に固いものが触れた。
(これかしら?)
細い枝切れのようなものを指先だけでなく指の腹で捉えると握り混んだ。
フィオレンティーナの杖が大ぶりの物だったため華奢な感触にほっとした。
あんな大きな杖を操る何て無理だと思っていたからだ。
しっかりと握りしめた私は勢いよく大水晶から手を抜いた。
手に馴染む魔法の杖は力を入れると先端が水色に光った。
「上手くいきましたね、使い込む程によい風合いになってきますよ、魔力が安定すれば大きさも自由自在ですよ。」
キキョウさんの言葉に楽しみが増えたように感じた。