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魔法使いは水で殺す

七月十九日。木曜日。午前十時。上野動物園。


「白い……黒い……白黒い」


江藤連はパンダの檻の前で呆然と呟いた。

なんだこのジャイアントパンダってのは。

なんで白と黒なんだ。中国が原産って海越えたらこんな白黒動物ばっかりなのか。意味が分からん。


江藤連。上野動物園に来ていた。前々から来たかったのだ。

無論観光というわけではない。反魔法(アンチマジック)の調査である。


|反魔法<アンチマジック>は別に人間専用の特性というわけではない。

犬でも猫でもカラスでも蟻でも。植物動物問わず備わっている特性である。


が、しかし。

これが全世界的な特性なのか、日本固有の特性なのかというのは謎であった。

アフリカあたりに行けば魔法使う動物も居るんじゃないか? そう言う疑問は常にあったのだ。


そこで動物園である。ここなら国外の動物が山ほどいる。

価値のある知見を得ることが出来よう。


そして、ジャイアントパンダショックである。

まさかの白黒。まさかのモノクロ。

無論江藤連とてテレビや何やらでパンダぐらい見たことはあったが――実物はインパクトが違う。

正に白黒熊。何をどうしたらこんな生物が生まれるのか、江藤連には見当も付かなかった。


「……ううむ、奥が深い」


あるいは魔法界も探せばこういう生物がいるのだろうか。


「……俺もまだまだだな」


何でも分かるような気になっていた。

知らぬ事など何もないとすら思っていた。

真理を極めたつもりにすらなっていた。


だが、まだまだだ。

知らないことが、分からないことが、未知なる物が沢山ある。

向こうにもこっちにも。


「……ぬうっ!? あの耳と鼻は……あれが象かっ!?」


何はともあれ。

動物園をエンジョイである。


 * * * 


「ああもう!! なんでこうみんなフリーダムなんですか!!」


魔法鉄鋼王国先端技術大臣ディルク・シュンペイターは天を仰いだ。

第一宮廷魔法師と国王のぶらり異世界旅行。

とばっちりを受けたのはこの男である。


「この隙にどっかが攻めてきたらどうするんですか……。ああ、絶対何も考えていませんよねえ……」


技術馬鹿と傀儡の王。

政治的なことが何も分からない二人である。

どうせ「マイリトルハニー!!」とか言って特攻したに違いない。


「『賢者』が捕獲してくれたから良かったようなものの……」


『賢者』鈴木弘。

勇者召還を裏から支え続けた男。

ディルクにとっては知性派の兄貴分にして油断ならない協力者であるわけだが。


「あー、蓮兄は上野動物園で象見てます。で、陛下は講堂でピザ食ってます」

「エンジョイしすぎでしょう!?」


俺だって象見てピザ食いたいわ!!

コーラ飲みながら元勇者ときゃっきゃうふふしたいわ!!


「……ちなみに、君は世界間転移出来ないんでしたっけ?」

「できねえっすね」


尋ねられた魔法使いーー江藤龍は首を振る。


「技術的にどうこうっていうより――いくつかの技術は蓮兄にリミッター噛まされてるんですよ。反魔法(アンチマジック)の応用っすね。思いつくこと自体禁じられてます」

「……よく、それで平気ですね」

「蓮兄ですから」


あの兄なら。

瞬きするほどの間に七国民全員を鏖殺する事も可能だ。

少しばかり――頭の中をいじられたくらいなんだというのか。


「多分、神聖王国経由でバイパスすればなんとかなるんじゃないかとは思いますけどねー。あの法王がそんなこと許すかどうか」

「……」


どうだろう。

持って行き方しだいではなんとか。

――あの男は生粋の仕立屋だ。ファッションの発信地神聖王国の申し子。

技術の信望者にして芸術の信仰者。


政治の不可能を――技術で可能にする。

それがアラン・シセという男だ。


例えば、絶対領域。

太股でニーソックスを止めるには既存の伸縮素材では心許ない。

そのためほとんどの場合ニーソックスはガーターベルトとセットであった。

その不可能を可能にしたのがアラン・シセだ。

シルクを加工した新種の伸縮素材によりずり落ちないニーソックスを開発。

絶対領域に革命をもたらした。


「……無論、メイドさんの太股ハアハアってだけなら無害なのですが」

「魔法使いは水で殺す、基本ですねー」


伸縮素材。

それはすなわち水中戦での動き易さを飛躍的にあげる。

魔法使いといえども――江藤蓮といえども(!)呼吸は必要だ。

水没してしまえば――生存は困難である。


かといって補給的に水辺は外せないので。

夜営の度にビクビクすることになった。


あの男服飾関連に関しては本当に容赦ない。


「……というか、随分砕けた話し方をしてますね。いや、それを咎めようとは思いませんが」

「いやー、蓮兄が色々ほっぽりだして動物園できゃっきゃうふふしてるかと思うと、もう処罰がなんぼのもんじゃいって気になってくるんですよね」


江藤龍。

目が完全にイっちゃってる。


ディルクがなにかフォローの言葉をかけようとした――その瞬間。


どげしいっ!!

豪快な音と共にドアを蹴破ったのは――ツナギの王妃、マルタ。



「おらおら!! 厄介なのが向こう行ってる間に仕事片づけるよ!! はいこれ!!」


どさりと置かれたのは――書類の山。


ツナギの王妃はにやりと笑う。


「アタシの目の黒い内は――寝かせてもらえると思うなよ?」

「それはそれとしてメイドさんの太腿は好きです」BYアラン・シセ

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