「いやまあ最終的にはそうなんだが!?」
「で? 誰が誰に寝取られたのかしら」
「……すいませんでした」
グロンド平謝りである。
しょうがない。一番保護が必要なときに居てやれなかったのはグロンドの責任である。
仕事に明け暮れってならまだしも――若い頃のヤンチャが元で捕まりそうななったからドロンしたって、もう弁解のしようがない。
「……というか二人とも、ホテルのダイニングでなんて話してるんですか」
そう言って光はグロンドの頭にキャップを被せた。
「ただでさえ目立つ頭なんですから、ちょっとは対策してください」
「わりい……」
室内で帽子はマナー違反だがこの際どうしようもないだろう。
不躾にスマホのカメラを向けてくる客こそいないが、それでも視線は集まってくる。
「食べたらとっとと行くわよ」
「どこに?」
愛は何言ってんの?と言うように眉をひそめた。
「――お母さんのお墓に決まってるでしょう?」
* * *
『――ハンカチ落としましたよ』
『あ、すいません』
愛の母、春原爽香との出会いはそんな感じだった。
ベタすぎるほどベタである。
もちろんその頃にはすでに売れっ子ホストだった進――和姫が直に返してやる必要など無かったのだが。
――その顔には見覚えがあった。
ティーンのカリスマ――モデル夏原涼香。
客になってくれそう――とまで思ったわけではない。
流石に高校生を迂闊に客にとるわけにはいかないのは分かっていたし――親のない子には優しくするというのは貴宮和姫唯一絶対のルールだった。
親。
夏原涼香は二親を火事でなくしているというのは有名な話だった。
親どころか友人知人が一度に死亡した大規模火災。
その後施設を転々とする暮らしを余儀なくされたという。
今の事務所に入るまで施設との折り合いが大分悪かったというのも同情を引いた。
同情。
そう、最初は同情だったと思う。
夏原涼香は雑誌の表紙を総なめしてるとは思えないほど地味な子だった。
スタイルも悪くなかったが全体に細身。
顔立ちも整っているが印象が薄い。
でも、だからこそ。
彼女はどんな服でも着こなした。
着るものを選ばない全方位対応型モデル。
男装してメンズファッション誌の表紙を飾ったのを和姫も見たことがあった。
名刺を手渡したのは習慣のようなもので特に他意は無かった。
だから、本当に連絡が来たときには驚いたものだ。
それが、交際の始まり。
* * *
「――で、おいしくいただいちゃった、と」
「いやまあ最終的にはそうなんだが!?」
最終的は!! 最終的にはそうなんだが!!
「……基本、清く正しい男女交際だったんだからな?」
「うわー、ホストが清く正しい男女交際とか引くわー」
痛いものを見る目で見る我が娘。
……これが育児放棄の末路だというのかっ!?
「……つーか、爽香はなんつってたんだよ?」
「女をたらし込むしか能のないダメ男」
ぐさっ。
反論が……反論が出来ねえ。
「『悪い人じゃないの。ただ、学がなくて能力がなくて女の人からお金巻き上げるぐらいしか取り柄がなかっただけだから』って言ってた」
「……その通りだよ!! 畜生!!」
中卒である。
しかも学習障害持ち。
レジ打ちすらまともに出来ない自分に他にどういう生き方があったのか。
親がいれば、と何度も思った。
信用できる大人が背後に居てくれれば――音楽家として名を上げることも不可能では無かっただろう。
……まあ、いたとしてもあの両親ではどうにもならなかったと思うが。
キアウイーの頭の中は基本お花畑である。
良くも悪くもサパンデに厳重に保護された動物園の珍獣のような存在である。
野生のまっただ中に放りこまれれば三秒で身ぐるみはがされる。
「まあ、『悪ぶってるのは全部ポーズで、根は優しい子なのよ』とも言ってたけどね」
「…………まあ、そうだよ」
「あと、『服装はあれがカッコいいと思ってやってるんだから気にしちゃダメ』って」
「…………………ああ、そうだよ!!」
ポーズというか、キャラ付け。
分かりやすいキャラを作った方が売れやすい。
子供放り出してホストにいれあげるおかーさまがたに嫌悪感を隠しきれなかったというのもある。
服装はあれだ。
かたっくるしい格好が苦手なのである。
スーツにネクタイが限界であった。
金物なんかつけられるか。
無論差別化と言う側面もあったのだが……。
「……つーか、あれだよ。サパンデ的には貴金属よりプラスチックの方が価値があんだよ。その価値観が抜け切らねえのを誤魔化そうとしてたらああいうファッションになったんだよ」
「……ふうん?」
「物質魔法の媒体としては無機物より有機物の方が適してんの」
三つ子の魂百までというか。
味気ない金や銀よりスパンコールやラインストーンの方がどうしても『高級』に見えてしょうがなかった。
いざ、魔法使う段になってもその方が有利だし。
が。
この髪色でスパンコールやらラインストーンやらアクリルアクセやらじゃらじゃらやるともう、痛い。
痛いことこの上ない。
目がチカチカする。
そして泣く泣く諦めたのであった。
「……ここで、おはぎ買ってくから」
「……ああ、好きだったな。ゴマときな粉」
「そう、いつもあんこだけ私のところに回ってきた」
「……ガキっぽいなあ」
くすりと笑って――和菓子屋のドアをくぐる。
これが最後かもしれないから――奮発してやんよ。
涼香さんは食べ物でいうと白米。
何にでも合うし飽きが来ないけど単体だと弱い。




