隷属
「ほら、一枚恵んであげよう」
手装備の<収納>に入れていた金貨が入った袋を取り出す。
この袋には昨日もらった前金とリリーさんに魔力を付与した後にイザベラさん経由でもらった報酬分、つまり四十九枚のテリオ金貨が入っている。
その中から金貨一枚を星川に渡す。
「あ、ありがとう……」
「ふっ、それで安心しているとは随分と楽観的だ」
「……どういう意味?」
本当に分かっていない様子の星川に答えてあげる。
「また原田たちと会ったら、奪われるんじゃないかって話だ」
「あっ……」
……本当に何も考えていないんだな。今まで考えなくても大丈夫だったからこういう危機感が欠如した化け物が生まれたわけか。ウケる。
「あ、あんたが私のステータスを奪ったから……!」
「奪ってなくても同じことだろ。あのゴミステータスで何をするっていうんだ」
元トップカーストの連中は全員がゴミステータスであることを本当に理解した方がいい。
「……どうにかしてよ」
星川はまた何も考えずに俺にどうにかしろと言ってくる。
「どうにかしろと言ってもな。そこまでやってやる義理はないからな」
「あんた、私にずっと苦しんでほしいんでしょ? それならどうにかしないと野垂れ死ぬわよ」
またずいぶんと変な脅迫をしてくるな。
「そうか。それなら俺にもっとお願いをするべきではないのか? お前も野垂れ死ぬのは嫌だろ? だから必死でお願いするんだよ」
「……何をすればいいのよ」
「分かるだろ? お前がいつも言っていただろ、許してほしければこうしろって」
星川はすぐに自身の言葉を思い出したのか、顔を真っ赤にして体を震わせていた。
「ほら、どうするんだ? 別に俺は強要しない。お前が来なければ別に俺は干渉するつもりはなかったからな。だから、選べ」
俺は別に星川をいじめ抜きたいわけではない、というスタンスはとっておく。
だからそれをするのは星川の自由だ。しなくても俺は星川を無視して行くだけだ。
俺はこいつらのようにゴミ性格ではない。
「……お、お願いします……ど、どうか、助けて、ください……」
恥辱に染まった星川は地面に膝をつき、俺の前で手をついて頭を地面につけた。
いつも星川は俺たちにお金がなかったら、こうして土下座をして許しを請えと言う。
皮肉にも、それが回りまわって自分が土下座をしないといけなくなるとは当時の星川は思ってもいないだろうな。
俺はしゃがみこんで星川に話しかける。
「助けてほしいのか」
「は、はい……」
「でもなぁ、助けても恩を仇で返してくるかもしれないからな」
「そ、そんなことはない!」
「ふっ、今までの言動を考えたらなぁ」
今まで星川が俺にしてきたことを今の星川にぶつける。
「し、しないから……」
「本当にか?」
「ほ、本当!」
たぶんだが星川は裏切らない。
元の世界に戻れば別だが、この世界にいる限りは裏切らない。
一緒にいたとしてもいつ俺からステータスを奪われるか分からないという恐怖。
さらに俺の強さを見せていれば、裏切ることはないだろうな。
裏切れば娼婦にしてやって心を折るだけだ。
「それなら――」
「ちょっと何をしているのよ!」
俺と星川のところに怒鳴り込んでくる女性がいた。
「大丈夫? 酷いことをされていたわね」
女性は土下座している星川のところに向かい、優しく話しかける。
そして俺には睨みつけながら俺と星川の間に入る。
「こんな公な場で女の子にこんなことをさせていいわけがないでしょ!? 男だからって偉いとでも思っているの!?」
女性は俺に怒ってくる。
今までの俺なら怒鳴られただけで委縮するだろうが、今の俺は何とも思わない。
「何を言っている。そいつは俺にお願いをしてきただけだ。俺は何も指示していない」
立ち上がった俺が見下ろしながらそう言えば、女性はひるんだ。
……やっぱり国全体で何か起こっていたな。公の場でやっていたことで分かった。
「そうなの?」
ひるんだが何とか切り替えた女性は星川に聞く。
「ち、違います。やらないと殺すって言われて……」
星川は渾身の演技で涙ながらにそう女性に訴えかけた。
こいつは先生たちの前でこうして俺たちを悪者扱いしていた。だからその光景は、あぁまたかという感情だ。
「ッ! やっぱりそうじゃない! この国ではもう男が偉いわけではないのよ!」
女性の後ろでニヤリとしている星川だが、こいつは本当に後先考えずに行動しているんだなと再度理解した。
「俺は自分が偉いと思ったことはない」
「それならどうしてこの子にこんなことをさせているのよ!」
「勘違いするな。俺はそいつにやれとは一言も言っていない」
「そんな言い訳が通じるわけがないじゃない!」
……はぁ、これも星川のせいだな。
この女性は優しい人なのだろう。だからこの人は悪くない。悪いのは星川だ。
「もういい。俺は金輪際、そいつと関わらない。二度と話さないし、二度と何もしてやらない。これでいいな?」
「えぇ、そうしなさい」
「え……」
俺が必死になって星川のことを保護しようとは思わない。
あとで無残な死にざまを知れるのなら、それでいい。だからここで星川と縁を切るのは俺にとっては痛くもかゆくもない。
だが星川はそうではない。また無一文になるかもしれないし、娼婦になるかもしれない。
ここでお金を払わせる腹だったのかもしれないが、根本的な解決にはならないだろうに。
ようやく外に出れると思いながら星川と女性に背を向けて歩き始める。
星川以外にも元トップカーストの連中はいるんだ。そいつらに希望をちらつかせるのもいいかもしれない。
「ご、ごめんなさいっ!」
数歩歩いたところで星川の声が地面くらいから聞こえてきた。
振り返れば、星川は再度土下座をしていた。
さっきと同様に不慣れで不細工な土下座ではある。何度もやらせたし見たことがあるのだから綺麗に見せてほしいところではある。
「ど、どうしてまたしているの!?」
「ごめんなさい! 私がお願いをするために土下座をしていました! その人に指示されたわけではなく、自分の意思で土下座をしました!」
土下座をしながら自分の罪を白状した。
「え、そ、そうなの? それもまた脅されてない?」
「違います! 私が勝手にやっています!」
「ほ、本当に?」
「はい! さっきは嘘をついてその人を陥れようとしました!」
ハキハキと喋っているのは俺に誠意を見せるためだろう。
「あ、あなたの言っていることは本当だったの……?」
「さぁ、どうだろうな。俺の言葉を信じないお前に何を言っても無駄だろ」
女性が恐る恐る確認してきた女性だが、俺の言葉に押し黙った。
「星川、お前は裏切らないと言ったばかりだったのに早速裏切った。そんなやつを信じるわけがないだろ。お前は俺を阿保だと思っているのか?」
「……魔が差しました」
「それでお金をもらおうとでもしたのか? そもそも、能無し扱いされたお前が俺に対してそんなことができるわけがないだろ。馬鹿はいらないぞ?」
いたって普通なことを星川に突きつける。
「か、改心します! だから、助けてください!」
「口先だけだな。さっきも同じことを言っていただろ」
「ほ、本当です! 今回は、本当ですから!」
星川はこれで許されると思っているのだろうか。
裏切らない発言からの裏切って改心します、は誰も信じないだろ。
とりあえずは困惑している女性をどうにかしようか。
「悪いがこういうことだ。だからもう行ってくれて構わない」
「そ、そう。……その、ごめんなさい」
「気にしていない。悪いのはそいつだからな。きっとあなたはいい人だからこうしてこいつを助けに来てくれただけだろ。だから気にしないでくれ」
「その、本当に疑ってしまってごめんなさい」
女性は深々と頭を下げながらこの場から離れていった。
「ああいうのが誠心誠意の謝罪というものだな。今までお前がやってこなかったものだ。お前、心の底からの謝罪というものを知らないだろ」
「そ、そんなことはない! 心の底から謝ってる!」
こいつは自分の保身のために謝っているだけで相手に悪いと思って謝っていない。だから心の底から謝っていない。
「俺はお前らみたいにクズでゴミではないからな。許してやろう」
「ほ、ほんと……?」
「あぁ。だがまたお前は裏切るかもしれないよな?」
「し、しない! 絶対にしない!」
「それなら、俺のスキルを使っても問題ないよな?」
「え……」
「お前が裏切らなければ全く影響がないスキルだ。それとも、裏切るつもりだから嫌なのか?」
「そ、そんなことはない! や、やっていい!」
「やっていい?」
「……や、やってください」
「いいだろう」
試してみたいと思っていたジョブスキル<魔王>で解放した<隷属>のスキルを星川に使う。
「ぐぎぃ!?」
スキルを使えば星川は叫び声をあげ、苦しんでいる様子だった。
涙目になり、口からよだれを垂らしている星川。
「はぁ……はぁ……今のは……?」
「俺のスキル<隷属>を使った。だからお前は俺に対して裏切りの行為や反逆することはできなくなった」
「……はぁ!? それなら一生あんたの奴隷ってことじゃんか!」
「なんだ、裏切るつもりか。それなら俺は構わないんだぞ」
「あ、ち、ちが……」
人はそう簡単に変わるものではないからな。
「お前が俺を裏切ろうとすれば、そういう行為を取ろうとすれば、お前はさっきの苦痛を受けることになる。まぁ、裏切らないのなら関係のないことだよな?」
「さ、さっきのを……?」
よほどさっきの苦痛が嫌だったのか、震えている。
「なんだ、裏切るのか?」
「う、裏切らない! 絶対に裏切らない! だからいやぁ!」
おぉ、俺から手をあげていないのに痛みで支配している感じになっている。
これで星川が裏切ればそれまで。裏切らなければ俺に支配されている星川を見ることができる。どう転んでも俺にとってはいいな。
さらに星川を隷属したことで触れなくても星川のステータスが見えるようになった。
『星川陽菜
ジョブ:制作者
Lv1
体力:12
攻撃:1
防御:13
速度:11
器用:19
魔力:10
魔攻:6
魔防:3
SP:0』
改めて見たが、こいつは戦闘職業ではない。
それなのに剣を持っていたから職業を言うときに嘘でもついたのだろう。
「製作者で何か作ろうと思わなかったのか?」
それで何か作って大儲け、というのがラノベでのセオリーだ。
「……見えてるのね。でも、できない。器用が足りない」
そういうことか。
俺の魔王でも魔力が足りなければヘルファイアやケラウノスを使うことができない。
それでも初期値が高かったから、ジョブとステータス値の歯車がかみ合っている状態が才能なのだろう。
「剣を分解しても失敗してボロボロになるし、もう最悪よ……!」
だから必死になっていたし、武器も持っていなかったのか。
「ふっ、才能がないというのは大変そうだな」
俺の嘲笑に睨みつけてくる星川だが特に何とも思わない。
「行くぞ」
「どこに行くのよ」
「もちろん外だ」
「……私がメテオバードにやられる様を見るつもり?」
「それが出てくる辺り、本当にゴミだな」
極悪人しか思いつかないことだろ。
「じゃあなによ」
「もちろんレベル上げだよ」




