逆転
「さぁ、説明は終わりだ。食事にするぞ」
玉座からこちらに来た女王様が俺たちメテオバードを倒した組にそう言ってきた。
「はい」
俺はそう返事をするが、他の男子たちは女王様のエッチな服装を近くで見て興奮している様子だった。
女子はさっきのダンジョン攻略をしなければいけないことが頭によぎっているのか、表情を暗くしているところが、男子と女子の頭の複雑さがすぐに分かる。
「ちょ、ちょっと! 私たちはどうするのよ!?」
「召喚した責任くらい持てよ!」
まだ自分たちの立場があると思っている元トップカーストの連中が騒ぐ。
「知らん。国からは何もしないから好きなようにやれ。冒険者ギルドに行って金を稼いでもよし。娼婦や男娼になって金を稼ぐのもよし。好きなようにやれ。ただし城からすぐに出て行け。城の中でうるさくされてはかなわないからな」
「娼婦って……」
この国には女性しかいないと思っていたが、男もいるんだな。
……この国では女性の地位が高くて、女性しか日の目を浴びれないとか? それなら、娼婦になったらご愁傷様という感じだな。
ただ冒険者ギルドに行ってもステータスは高くないからどうしようもないのだろうな。
トップカーストがこんな状態になるとはな。笑える。
「行くぞ」
「はい」
さっきから女王様の言葉に俺しか反応していないんだが。
まだ一日目だからそんなものか。ジョブが魔王の俺だからこうやって反応できているだけか。
「ま、待ちなさいよ……」
女王様のあとに続く俺の腕をつかんできたのは星川だった。
「なんだ?」
「どうにかしなさいよ……娼婦なんていや……」
さっきとは違って少しは丸くなっているが、それでも自分が上だと思っている感じだ。だけど星川が俺に何かを乞うているのは気分がいい。
とは言え、女王様に星川の待遇をよくしてほしいと言ったところで無理なことは分かっている。
だから俺ができることは女王様との交渉ということだ。
「女王様、俺の魔力を買い取りませんか?」
「ほぉ、そいつを助けるのか?」
「こんなところで死なれては、気が済みませんから」
「ふっ、それもそうだな」
笑みを浮かべた女王様はこういう手のことは嫌いではないし、むしろ好きみたいだな。
トップカーストの連中が嫌いなだけかもしれないが、俺にとっては好都合だ。
「どれくらい出すつもりだ?」
「さっきと同じ1000でどれくらいですか?」
「それならテリオ金貨五十枚だ」
……さすがに通貨については魔王は分からないようだ。
「テリオ金貨一枚で一週間は過ごすことができます」
「ありがとうございます」
近くにいたソフィーさんがそっと教えてくれた。団長クラスとなればこういうこともしっかりとしているのだろう。
「テリオ金貨五十枚で買い取っていただきたいです」
「いいだろう。前金で二十枚出せ」
「はっ」
女兵士がこちらに来て、俺にジャラジャラ音を出している袋を差し出してきたことで俺はそれを受け取った。
「こんなに急にもらえるとは思いませんでした」
「どうするのか気になるからな」
女王様が見たのはこちらに期待の眼差しを向けている星川だ。
「やればできるじゃない! さ、早くよこしなさい」
星川は俺に手を向けて当然のようにもらおうとしている。
「何を勘違いしている? 俺は別にこれをお前にやるつもりはない」
「はぁ!? なにふざけたことを言ってるのよ! 早くよこしなさいよ!」
「それならそれ相応のお願いの仕方があるんじゃないのか?」
「……陰キャのくせに調子に乗りやがって……!」
「俺はお前に金を渡さなくてもいいんだぞ? お前の態度次第だ」
星川は俺を殺しそうな目で俺を見てくる。
「なんだその目は。まだ自分の立場が分かっていないのか?」
「お前ぇ……!」
「ほら、どうするんだ? 冒険者になるのか? 娼婦になるのか? それとも俺に丁寧にお願いをしてお金をもらうのか。好きに選べ」
歯を食いしばってひどい顔をして俺を見ている星川に俺は追い打ちをかける。
「あぁ、冒険者になってもそのステータスでは死ぬだけだな。ソフィーさん、メテオバードを倒せない冒険者は必要ですか?」
「人手は必要としていますが、さすがにステータスの低いものは必要としていませんね。それこそ、メテオバードを倒せないとなれば一般人並みです」
「それなら娼婦しか道はないわけだ。でも星川は前にこう言っていたな、お金をいくら積まれても気持ち悪い男とはやらなーいって。大変だ、残る道は一つしか残されていない。肉体的に死ぬか、精神的に死ぬか、プライドを捨てるか、好きにしてくれ」
星川にそう言えば、怒っていて、泣きそうで、苦しそうな顔で俺に頭を下げてきた。
「お……お願い……します……!」
歯を食いしばりながらそれを言っているのが分かる。
「何をだ? それだけでは何をお願いしているのかよく分からないなぁ」
「お前……!」
悔しそうに怒っている星川の顔は何ら怖くない。
今のこいつらは何もできないボトムカーストなのだから。俺たちには手出しすることができず、この国で何も成すことができない。
「わ、私に……生活できるだけの、お金を、お……お恵み、ください……!」
星川は頭を下げながらそうお願いしてきた。
汚れているスカートのすそを握りしめ、我慢しているのだろう。
「俺はお前らみたいに性格はクズではないからな。ここまでしたのなら、恵んでやる」
「ほ、ほんと……?」
「ほら、手を出せ」
星川が素直に両手を差し出してきたから俺は袋からテリオ金貨を一枚取り出して星川の手に置いた。
「は、はぁ!? なんでこれだけ!?」
「さっきの話を聞いていなかったのか? テリオ金貨一枚で一週間は過ごすことができるんだ。今のお願いだけでそれだけもらえるのなら破格だろ」
「そ、それじゃあ、またお願いしないといけないってこと……!?」
「ふっ、この世界で俺にお願いしなければ生きていけないってことか」
「ッ! お前なんかいなくても生きていけるわよ!」
この態度がいつまで続くのかが見ものだな。
「あのー、代表くーん」
星川に続いて話しかけてきた元トップカーストの男が俺にすり寄ってきた。
「俺たちって結構仲良かったよね? 原田も結構止めてたしさ、俺を助けてくれないかなーって」
意味が分からないことを言っているし、事実を捻じ曲げている。
「そうか。それなら俺の名前を言ってみろ」
そう言えばその男は黙り込んでしまった。
代表と言っている時点で俺の名前を知らないことはすぐに分かったからな。
「そんな浅慮だからお前らはそんな怪我を負うことになったんだ。あと、傷を治したお礼をもらっていないぞ。そんなことも言えないのか?」
「陰キャ代表が黙れ! てめぇは今まで通り俺たちに金をよこしてればいいんだよぉ!」
男は俺の手にある袋を無理やり奪おうとする。
「ぐっ! な、なんだよこの力はぁ!?」
「それが俺とお前たちの差だよ」
そう言って俺は男の顔を鷲掴みにしてステータスをすべて奪ってやる。
おっ、こいつステータスポイントを割り振っていない。これも奪えるし、0にすることができる。
「あ……あ……あ……」
「本当に微々たるステータスだ。しょうもない」
俺にステータスを奪われたことで放心状態になり、俺が手を放せば膝をついて動かなくなった。
「お待たせいたしました、女王様」
「構わん。それに試したいこともできた。だから璃央には手を貸してもらうことになるかもしれないな」
「いつでもお呼びください」
「ふふっ」
どうやら俺の態度が気に入ったようで、女王様は歩き始める。
ジョブが魔王であったとしても俺は王様になるつもりはない。そこは俺の元からある本心だし、魔王になってもそこら辺は変わらない。
☆
女王様との食事を終わらせ、今日から住むことになった俺専用の豪華な部屋にいた。
元居た世界の一人部屋よりもはるかに広く、高価な家具やカーペットで埋め尽くされている部屋だ。
しかもこの部屋にはトイレとシャワー室もあるという、中世ヨーロッパ的な雰囲気を見せているが実際には文明は発達しているのかもしれない。
……いや、もしかしたら俺たち以外にもそういう異世界人が前に召喚されていて、文明を築いたのかもしれないが分からないところだ。
それに俺が以前見た中世の世界観では衛生観念がヤバかった、と見たが今日の城下町にはその雰囲気はなかった。
とにもかくにも、女王様との食事は俺と女王様しか会話していなかった。
女王様との食事は乾杯から始まり、出てくる料理を食べるコース料理みたいなことをしていた。
俺は魔王のジョブでキチンとしたマナーで食べていた。どうして魔王のジョブがそんなことを知っているのだとは思ったが。
だが他のクラスメイトはそういうわけではなかったようで、俺や女王様を見て苦戦していた。
だからそんな見苦しいクラスメイトを見るよりも俺をジッと見て話しかけていた。
会話していたと言っても、この国を見てどう思ったとか、これから大丈夫そうかとかそういう浅い会話しかしていない。
とは言え、この国が何か問題を抱えていることはすぐに分かった。いや魔王のジョブがそう教えてくれた。
どういう問題があるかは分からないが、それでもこのステータスなら大丈夫だと思えてくる。
『大万璃央
ジョブ:魔王
Lv4
体力:3548
攻撃:4930
防御:4271
速度:3610
器用:6222
魔力:78511
魔攻:116001
魔防:85309
SP:10』
俺が女王様と魔力を売ろうとしたのもこれほどのステータスがあるからだ。
見た感じレベルが一つ上がるごとに初期ステータスの二倍プラスされている感じだ。
俺のこのステータスは財産となっている。しかもまだLv4だから伸びしろは大いにある。
これなら魔力以外のステータスも売ることだってできるし、何なら盾ついてきたやつらから奪うことができる。
試していないが、モンスターからステータスを奪うことができるのだろうか。
「ふっ、楽しみだ」
明日のことが楽しみで仕方がなかった。
ステータスのこともそうだし、この国にどう貢献するか、そしてあの元トップカーストの連中がどうなるのか。
この世界に来て本当に来て良かったと思ってしまっている。




