悪の魔王
「私はイーリオス騎士団の団長、ソフィーと申します。私がメテオバードの生息地にご案内します」
綺麗な金髪をショートカットにした凛とした女性、ソフィーさんが俺たちの前でそう自己紹介した。
……女王のときもそうだが、このソフィーさんは騎士団の団長だから鎧を着ている。
だがその鎧がビキニアーマーかよと思うくらいに露出されていた。もう鎧としての効果があるのかと思ってしまうレベルだ。
しかもそれでいて胸もお尻も大きいからスタイルが際立っている。
「まずは勇者殿たちに武器をお渡ししたいと思います。ではこちらです」
ソフィーさんを先頭に俺たちは城の中を歩く。
「俺、ソフィーとやろ」
「いーや、最初は俺だ!」
「あの尻はヤバいな……絶対俺」
そのソフィーの後ろに立っているトップカーストの男たちがそう口々に言っている。
自分たちが強いから何でもできるとでも思っているのだろうか。……ん? どうして俺はこう思ったんだ? 俺は別にこの世界の基準は分からないはずだが。まあいいか。
「おやー、陰キャくんはソフィーを見て勃起しているのかー!」
「ぎゃはははは!」
自分たちだって勃起しているくせに気弱そうな男子をそう言っていじる。
その男子は涙目になっている。
「てめぇには一生さわれねぇよ。想像でしこってろ」
「おいおい! 少しは夢を見させてやれよー! ぶはははは!」
トップカーストの男たちはその男子を笑う。本当に品がなく不愉快だ。
それをソフィーさんがチラッと見て、嫌悪の視線をトップカーストの男たちに向けたが一瞬だった。
そんな中、ソフィーさんの案内で広間にたどり着く。
『ようこそいらっしゃいました! 勇者様!』
広間には多くのメイドさんたちがいて、快く俺たちを出迎えてくれた。
……この城、女性しかいなくないか? 異世界で女性しか見ていない。
「ここでそれぞれのジョブに応じて武器をお渡しします」
ソフィーさんがそう言えばメイドさんが俺たち一人ずつについた。
「勇者様のジョブは何ですか?」
俺にもメイドが来たが、さすがに魔王と言うのはよくないと思ったから別のジョブを言うことにした。
「魔法使いです」
「はい。少しお待ちください」
魔法を覚えていないが、魔王を口に出さないのなら魔法使いと言うしかない。
このステータスが本当なら物理でも行けそうだし。
「今夜どう?」
「女王のクエストをこなせればいかようにも」
「本当だな! やりー!」
トップカーストの男たちは美人しかいないメイドを口説いていたが、一方の陰キャ男子たちはおろか女子たちもメイドに話しかけられて言い淀んでしまっていた。
この言い淀むのはトップカーストの連中にも原因がある。
トップカーストの連中が自分たちが上だと叩き込んだことでコミュニケーション能力が著しく低くなっている。
それでも自分たちのジョブを答えて、メイドさんたちが武器を違う部屋から持ってきている間にソフィーさんが口を開く。
「勇者殿はまだ陛下からステータスの見方しか教えられていないでしょう。ですからこの間にスキルの説明をいたします」
もしかしたらそのスキルで魔法を覚えるかもしれない。
「スキルにはジョブスキルとゲットスキルの二種類があります。ジョブスキルはそのジョブに応じたスキルで、例えば戦士であれば<戦士>というスキルがあり、レベルアップで手に入るスキルポイントを割り振ることで新たなスキルやステータス値を獲得することができます。ゲットスキルは後天的に取得できるスキルで、戦士であっても盗賊のスキルである<気配遮断>を手に入れることができます。ただゲットスキルにはスキルポイントは割り振ることができませんから、存分にジョブスキルに振り分けてください」
ということは今の俺たちはジョブスキルにスキルポイントを割り振れってことか。
「どうすればいいってことー?」
トップカーストの女がソフィーにそう聞いた。理解できていないようだ。
「初期ステータスにSPの項目がありますね? それがスキルポイントです。それをジョブスキルに割り振ってください」
「おー、そういうことねー」
ステータスではなくジョブスキルと念じてみれば、ステータスとは別の窓が出てきた。
『魔法<ヘルファイア>
スキル<魔王>』
お、ジョブスキルは分かっていたことだが、魔法をすでに覚えているのか。しかもヘルファイアという業火が使えるとは。
さらに<魔王>のジョブスキルに集中すればスキルツリーが出現した。
中央の項目が<剥奪>となっており、それを取得しない限りはどこにも進めないようになっていた。
その<剥奪>はSPが50必要となっていて半分も使うのかと思いながらもすぐに取得した。
『<剥奪>が解放されました』
『<剥奪>
相手に触れることで相手のステータス、スキルを奪うことができる』
……本当に魔王みたいだな。ただ悪の魔王という言葉になってしまうが。それでも悪くはないか。
剥奪を解放したことで隣接するパネルも解放できるようになった。
新たな魔法やステータスを増やすものがあるが、どれもSPを50要求してきた。
そのため、次に解放するパネルは<ケラウノス>にした。
『<ケラウノス>を解放しました』
『<ケラウノス>
破滅の雷を繰り出す魔法』
かっこいいとは思う。
だが、俺はこれを選んだ方がいいと思った。
……もしかして、魔王のジョブが何か俺を導いてくれているのか? それならそれで悪い方には向かわないと思うから構わないか。
「お待たせしましたー!」
一人のメイドが部屋に戻ってきたことで次々とメイドが部屋に戻ってきた。
俺たちがジョブスキルにスキルポイントを割り振っている時間を与えていたのかもしれない。
「魔法使いの勇者様にはこちらの杖をお渡ししますね」
「ありがとうございます」
メイドさんから渡されたのは俺の背丈ほどある黒の杖だった。
「そちらの杖は魔法の威力を増幅させる効果があります。そちらで頑張ってください」
「はい、頑張ります」
……杖をジッと見たが鑑定のように文字が見えなかった。それをするには別のスキルがいるようだな。
「全員武器を持ちましたね。それではメテオバードがいる場所に移動します」
またソフィーさんの案内でまた移動することになった。
今度は城を出て、城下町を歩く。
テリオ王国の王都はかなり大きく、城もさることながら城下町もかなり賑わっている。
そんな城から出てきた俺たちが城下町を歩いていれば、人並みが綺麗に真ん中を割いて通りやすくなった。
「あれ、勇者様よ!」
「本当だな! ついに来たのか!」
「勇者様ー!」
俺たちが呼ばれたものだと分かった様子で見ていた。
「ひゅー、俺たち人気者だなー」
「しかも全員が美女だぞ! もしかしてハーレム?」
「あんたたちそんなことしか考えてないんだー。かくいうあたしもイケメンを期待していたのになー」
城下町にいる人たちも全員が女性だった。
これは明らかに異常であることはすぐに分かったが、どうしてそうなっているのかは分からないから今はおいておく。
高い壁を抜け王都から出れば、平原が広がっていた。
今までこんな平原見たことがないくらい広大だった。
「メテオバードはこの辺りにたくさん生息しています。クエストが発注されているということは、メテオバードがどのモンスターかすぐに分かるはずです」
「ソフィーちゃーん、あたし戦ったことがないんだけどー」
「なんだ、ビビってんのか?」
「は? ちんこ蹴るぞ」
「こわ、それで十分できるだろ」
「戦ったことがなくて問題ありません。戦闘ジョブであれば戦い方は自ずと分かります」
ジョブにはそういうサポート能力がある。……あるのか。
「それではご武運を。私はここにいますので聞きたいことがあれば何でも聞いてください」
ここからは自分達でやらないといけない。
「よーし、やるぞー!」
「おー! 待ってろ俺のメイドー!」
「あたしは宝石ー!」
トップカーストの連中はヤル気満々だが、それ以外はあまりテンションが上がっていなかった。
いや困惑している、というのが正しいのだろう。
「おい陰キャども、ついてくるなよ。お前たち雑魚に横取りされるかもしれないからなー」
原田はトップカーストの連中と一緒に行ったことで、安心のため息が聞こえてきた。
「はぁ……なんであいつらと一緒に異世界召喚なんだよ……」
「そうだね……あいつらだけだったらよかったのに」
「……帰りたい」
トップカーストの連中は楽しんでいるがこちらは楽しんでいない。そこがまあ分けられる部分なのだろうが、それもこれもあいつらが抑え込んだせいだ。
「とにかく、メテオバードを倒さないことには俺たちがこの国で生きられない。やるぞ」
俺がそう言えば頷いてくれた。
一応俺はあのクラスで最後まで抗っていたから、彼らから一定の信頼は勝ち得ている。
「とりあえず最初はバラバラでやってみるか。無理そうだったら徒党を組もう」
俺はともかく彼らがどれくらいできるかは分からない。だから最初はそれの方がいい。たぶん。
「え……い、一緒に、行かないの……?」
恐る恐る、俺にそう聞いてきた女の子がいた。
眼鏡をかけ、長い黒髪を三つ編みにして肩から前に出している地味な女子生徒、清水香帆だ。
トップカーストの連中がいなければ話しかけてくる女子だ。
「一緒に行きたければそれでいい。ただ自分達がどれくらいできるのか知りたくないか?」
「べ、別に……」
他のクラスメイトの顔を見れば、六人の男子は同意しているように見えるが、清水以外の四人の女子はそうではなかった。
ここでも男子と女子で温度差がある様子だ。
「分かった。それなら俺についてきたいやつは来てくれ」
「そ、そんなことを言っているけど、だ、大丈夫なのか?」
男子の一人がそんなことを言ってきた。
これは心配とかではなく、俺を下に見て言っているのだとすぐに分かった。
よほどステータスに自信があるようだが、こうして俺にしか言わないあたり相当な自信ではないな。
「それならお前が一人で彼女らを守るのか?」
「そ、それでも別にいいよ……」
自信なさげにふわっとそう答えてくる。
「だそうだ。好きな方を選んでくれ」
俺がそう言うが、明らかに男子を見る目が不安でしかなかったため、俺が五人の女子を守ることにした。




