帰城
いつまでやるとは考えていなかったが、山道が来てちょうどよかったからそこで切り上げて王都に戻ってきた。
「じゃあ星川とはここまでだな」
星川の願いは果たしたから星川とはここで別れることにした。
「それなら外して?」
外して、とは十中八九<隷属>だ。
「俺を裏切るつもりがないのならつけていても問題ないだろ?」
「はぁ!? そんなの嫌よ!」
星川は俺の支配下に置かれていることがよほど嫌なのだろうな。
「早く外しなさいよ!」
「そこまで言うなら外してもいいが……本当にいいのか?」
「いいわよ」
説明しない方が後々面白いかもしれないが、でも俺は優しいから教えてあげよう。
「もし、お前がまた俺をお願いをするかもしれない。そうなれば、お前にはまた首輪をつける」
「裏切るつもりはないけど、それであんたの気が済むのならいいわよ?」
どの口が言っているんだか。
「本当にいいのか?」
「しつこいわねぇ」
「また、あの痛みが来るんだぞ?」
俺の言葉に星川は苦々しい顔をしながら黙った。
「お前が俺にもう頼らないというのなら、痛みが来ることはないな。それでどうする?」
「たっ! ……頼ら……」
頼らないと言い切ろうとしたのだろうが、意外にも冷静になって言葉を止めた。
今回のことで俺がいればレベルが上がることは分かったからな。だから頼らないと言い切れない。
「言っておくが、お前のステータスはかなり低い。レベルが5になったところで、選ばれた側の初期ステータスに追いついていないんだからな」
俺は例外だけど。
「もし今日みたいに山道が復讐しに来たら、絶対に勝てないな」
「……でも、今の状態でも変わらないじゃん」
「だからこそ、またレベルを上げるってことだ。それを一人でできるのなら別だけどな」
ステータス値もない、ジョブ補正もない。そんな状態でどう戦えるのかは星川の策次第だな。
「……分かったわよ。つけておいていいわ」
さっき解放した<隷属+A>で、星川に隷属による加護を与えてやってもいいが、調子に乗らせるから今はやめておこう。
「ま、その金貨一枚はお仲間さん? の原田からは奪われないだろうな」
「仲間じゃない! 今度会ったらぶっ殺す!」
「やめとけ。苦しみが一瞬で終わるだけだ」
「そうね。あんたいいこと言うじゃない」
むしろぶっ殺すと言っておきながら苦しむ手段を選びそうではある。今までの傾向的にな。
「じゃあな。もう会わないかもしれないが」
「ちょっと、レベル上げは手伝ってくれるんでしょ?」
「そんな約束はしていない。お前の態度次第だ」
俺は城に向けて歩き始める。
チラッと後ろを見ればあっかんべーをしている星川が見えたが特に気にすることでもない。
だってペットが飼い主を馬鹿にしてきても可愛いと思うくらいで怒りの感情すら起きやしない。
城の門番には顔を覚えられているらしくすぐに通してもらい、城に戻る。
「おかえりなさいませ、璃央様」
城に入れば俺の専属メイドのイザベラさんがいた。
城を出るときと同じ場所にいるが、さすがにずっとここにいたわけではないだろう。でもそれなら俺が来ることを察知したのかもしれない。
「はい、ただいま戻りました」
「お部屋に戻られますか?」
「はい、戻ります。あと女王様に謁見できるか知りたいです」
「かしこまりました」
イザベラさんは近くにいたメイドさんに目配せして、そのメイドさんはどこかに向かった。
俺はイザベラさんと共に俺の部屋に戻る。
「何かご要望のものはございますか?」
「それなら飲み物をください」
「かしこまりました」
イザベラさんは部屋から出て行き、俺は椅子に座って一休みする。
レベルとしては最初のモンスターにしては十分上げることができた。ていうか最初に出会ったモンスターでレベルが12まで上がるとは思ってもみなかった。
魔王のように蹂躙していたから経験値はすぐに溜まるか。
『大万璃央
ジョブ:魔王
Lv12
体力:19165
攻撃:25719
防御:24050
速度:23683
器用:31479
魔力:296594
魔攻:425066
魔防:314348
SP:310』
昨日よりもはるかに高くなっているステータスは、魔王のジョブスキルやらレベルが10からステータスの上がり方が変わったことが要因だ。
……これで神速と不壊を使って建物を横断したら一瞬ですべてが吹き飛びそうだ。
本来メテオバードがそういう戦い方をしていたのだから、メテオバードの超強化版の技が使えるようになったというわけか。
「失礼します」
すぐに戻ってきたイザベラさんが三段のワゴンを押して入ってきた。
そこにはティーポットやらお菓子が置かれたタワーがあり、俺の前のテーブルにそれを置いてくれる。
「ありがとうございます」
「とんでもないことです」
俺は紅茶だけ来ると思っていたが、こういう場ではこれが正しい感じか。
それならそれでいただくことにするが、妙なことに俺の正面にも誰かが座るように色々と置かれている。
イザベラさんが飲むわけでもないだろうから……え、もしかしてそういうことなのか?
「お連れしました」
ノックと共に女性の声が聞こえてきた。
こちらの反応なしに扉が開かれたと思えば、女王様がバルンバルンと胸を揺らしながら堂々と俺の部屋に入ってきた。
「入るぞ、璃央」
「……わざわざお越しになるとは思いませんでしたよ」
「なに、気分転換がてら来ただけだ」
これは嘘だな。
俺の報告が待ち遠しくて来たのだろうと、女王様の反応から察してみる。
俺の正面に女王様が座り、紅茶を飲んでいる光景が様になる。
「今日はどうだった?」
「自分がしたことに興味がおありですか?」
「そういう気分だ。何があったのか話してみろ」
女王様は話題提供をしたのではなく、本当に俺の話が聞きたいようだったから今日あったことを星川に出会ったときからかいつまんで話す。
「――という感じです」
「もっとだ。もっと詳しく話せ」
「どれくらいがお望みですか?」
「すべてだ。璃央が覚えている限り会話もすべて、スキルポイントをどう割り振ったかも教えろ」
……そんなにも知りたいのだろうか。
一番隠すべき魔王を知られているから、知られてまずいことなんて一つもない。だから俺は女王様の気が済むまですべて話した。
さっきの出来事であるからほぼすべて話すことができ、俺は紅茶を一口飲む。
ほぼなくなったことでイザベラさんがお代わりを注いでくれる。
「ふっ、魔王のジョブとはつくづく規格外だな。スキルを奪い、そのスキルを合成させてさらに強いスキルを生み出すことができる。ステータスやスキルが神の贈り物とのたまっている奴らに聞かせれば、発狂ものだろう」
心底機嫌をよくしている女王様。
「それで、神速と不壊はいくつある」
「それぞれ六個ずつ合成しています。一個につき元のスキルが十六個いるのでそれくらいしかできませんね」
「十分すぎる。それで、もちろん売るんだろう?」
確定事項を問いかけてくる女王様に俺は頷いた。
「もちろんです。この国には力が必要なんですよね?」
詳しくは説明されていないがそういうことなのだと分かっている。
「璃央はどこまでこの国について把握している」
「おそらく、この国は少し前まで男性が統治していたのではないですか?」
「ほぉ」
「しかも男尊女卑が激しい感じだと思います。でも何かしらの方法で下剋上を果たし、女性統治に切り替わった。ただ男性が主導だったため、女性だけでは戦力が著しく低い状態ではないですか?」
今までの言動からそう考察した。
だがここで一つ、大きなピースがない。それによっては間違いである可能性が大いにある。
この国を乗っ取った何かしらの方法。それが穴になりうる。
もし本当に乗っ取ったのなら、女性だけでもこの国は戦力が高いことになる。男に勝ったのだから。
考えられるのは一時的に巨大な力を手にした。まあこの世界のことについてまだ分からない状態だからあるかもしれない。
「正解だ。よく分かったな」
「魔王のジョブのおかげですよ」
「何もジョブはただ与えられているものではない。それは本人の素質で手に入れるものだ。だから誇れ」
「それなら素直に受け取ります」
元居た世界では魔王のジョブなんて考えられないけど、素質とは分からないものだ。
「璃央には話してもいいだろう、私のスキルを」
おそらくそれが何かしらの方法なのだろうな。
「私のスキルには<簒奪する女王>というスキルがある。これは簒奪する時にのみ発揮するスキルだ」
「使える状況が限られたスキルがあるのですね」
「それだけに効果は強い。味方だと認識した女たちのステータスを千倍にし、かけられた悪い効果、呪いをすべて解除できる。その瞬間だけ、私たちは男を蹂躙する能力を得た。無事に下剋上を成功させ今のテリオ王国がある」
「あぁ、なるほど。ということは今はかなり弱い状況にあるんですか」
「そうだ。言わなくても分かるとは思うが、スキルの発動条件は言うな」
「もちろん分かっています」
まさか簒奪時に発動するスキルがあるとは思わなかった。
自身が女王の時は全く効果を発揮しないという限定的なスキル。面白くはあるな。
……いや、そのスキルを俺がいじることもできてしまうのか。合成させ、そのスキルのマイナス面を打ち消すことができる可能性がある。
「そういうわけで今テリオ王国は璃央の力が必要なわけだ。神速と不壊、今持っている分を渡せ」
渡せとはひどい言いようではあるが、タダではないことは分かっている。
「もちろん。神速と不壊、それぞれ六つずつお渡ししましょう」
「ふっ。だが困った」
「何がですか?」
「一億倍にするそのとんでもないスキルの報酬はどうしたものか。金貨では足りないだろう」
俺にとってはそこら辺で手に入ったものをねりねりしたらとんでもないスキルが出来上がった、みたいな感覚だ。
「そうだ、私の体を一か月間好きにできる、というものでどうだ?」
「え」
どんな報酬にしてくれるのだろうかと思ったが、とんでもないことを言い出した女王様。
「この胸も、この顔も、このお尻も、すべて汚していい言っている」
女王様は自身の体が魅力的なのを分かっており、なまめかしく主張してくる。
かなり魅力的な報酬ではある。だが俺が求めているのはそういうことではない。
「お断りします」
「……なに?」
女王様は俺の言葉に眉をひそめる。
「私の何が不服か言ってみろ。それとも数が足りないのか? それなら騎士団長も足すぞ」
「そういうわけではありません。女王様自身がそれを嫌っていますよね?」
女王様でもそれは例外ではなかった。
「勇者として選ばれた自分以外の男子はメイドさんとやったそうですが、かなり嫌がっている様子でした。それに女王様は城から追い出された連中からいやらしい目を向けられて嫌な感情が見えました」
「……よく見ている。いや、見えている」
「あいにくと、自分は純愛が大好きなんです。女王様が魅力的なのは重々承知ですが、ちゃんと女王様に惚れてもらってから手に入れますよ」
別に女王様を狙っているわけではない。もし女王様とやりたいのならって話だ。
「……くくくくくくっ、まさかそんなことを言われるとは思わなかったな。いや、これは璃央を他の男と一緒にして侮っていたか。悪いな、璃央」
「別に気にしていませんよ」
「そうか、純愛か。……体験してみてもいいかもしれないな」
貴族だと恋愛をしないこともあるそうだから、女王様もそういう口かもしれない。




