魔王の思うままに
「星川、お前は本当に馬鹿なんだな」
振り返れば痛みで座り込み、息を荒くしている星川の姿があった。
「さっき言っただろ、俺を裏切れば苦痛が襲い掛かってくるぞと。言葉も分からなくなったのか?」
星川に目を合わせるようにしゃがみこんで星川に話しかける。
だが星川はよほど痛かったのか喋らず、泣きそうで吐きそうな顔をしていた。
そして星川から異臭を感じたため汚いスカートをめくれば、汚れた白のパンツから勢いよくおしっこが出ていた。
「ははっ、また漏らしているのか。しかも苦痛があると最初に分かっていたのにしようとするんだから、マゾなのか? そうじゃなければ意味が分からないな」
俺の言葉に真っ赤になり、すぐにスカートを元に戻した星川。
「それで、どうして攻撃しようとしたんだ?」
「……分かってたの?」
「当然だ。お前がメテオバードにやられないようにしていたんだからな。すぐに変な動きをしていたことに気付いた」
むしろずっといい感じでメテオバードを痺れさせていたのにそれを分かっていなかった星川に驚きだ。
「どうして攻撃しようとしたんだ?」
どうして愚かなことをしたのか自分の口で言わせないとな。
「……気付かれなかったら大丈夫だと思った」
「ほとほと星川にはあきれるな。レベルアップまでさせてやっているのに、俺に攻撃しようとしているんだからな」
俺は別に星川から特にもらっていない。星川からお願いをされたからこうしてやっているだけで、星川から何かを受け取っているわけではない。
それなのに星川は俺を攻撃しようとした。本当に救えない。
ただそれでも星川は不満があるような顔をしている。おそらくは俺が上に立っていること自体が気に食わないのだろう。
「いい加減に分かれ、お前は俺よりも下なんだ」
「ッ! そんなわけないわよ!」
「こうすれば分かるのか?」
星川にまたアイアンクローをしてレベルが上がったことでプラスされたステータスを奪って行く。
「あ、あっ……や、やめっ……!」
俺の手を外そうとするが全く力を入れることができず、すべてのステータス値を奪われた。
「か、返しなさいよ……!」
やっぱりこういう態度をしているが、簡単に折れるよりかはマシか。
「返しほしいのなら言うことがあるだろ。それ相応の態度でやるんだな」
これでちゃんと言わなければ、この状態でこいつを放置していくつもりだ。
モンスターだらけのこの場所で、しかも戻ったとしても原田たちにお金を奪われるかもしれない。そういう恐怖をすでに星川は理解している。
だからすぐに星川は行動に移した。
「ご、ごめんなさい……わ、私が、悪かったです……だ、だから……許してください……」
星川はすぐに土下座をしてそう言った。
「本当に悪かったと思っているか?」
「お、思ってる!」
「もう裏切ろうとしないか?」
「裏切らない!」
「さっきも同じことを聞いたな。しかも二回も裏切ってきたんだぞ。分かってるか?」
普通の人ならこんなことをしない。それなのにしてくるんだから感心してしまう。
このまま黙って従っていればレベルも上がってお金も守れる。まあ仕事と一緒か。
接客業をやろうとしても面倒な客に頭を下げたくない、そういうプライドが星川にあるのだろう。
俺はこうやって優しく接してあげているというのに。
「……で、でも、攻撃できなかったから……」
「へぇ、未遂だから許せと言っているのか」
本当にどうしようもないほど保身に走っているな。本当に感心する。
「お前はまだ<隷属>を理解していない。<隷属>は別に裏切らないようにするためのものではない。お前の上に立っているという証明だ。だから俺が命令すれば簡単にお前の意思をなくすことだってできるんだぞ?」
俺の言葉にパッと顔を上げた星川は怖がっていた。
「俺がそうしていないのはさすがに非人道的だと思うからだ。でも、お前が何回も裏切るのなら、それを考えてもいいかもしれないなー」
「や、やめてください! それは嫌です!」
おぉ、やっぱりプライドがある分そういうことは嫌な様子だ。
「それなら裏切らないか?」
「裏切りません!」
「本当か?」
「本当に裏切りません!」
この星川の人格が変わっていくのがいいのだから俺が意思をなくすことはしない。
ただこんな高い頻度で叫ばれるのは面倒だからな。少し大人しくしてもらう。
「しばらく土下座をして反省していろ」
「か、変えない……?」
「変えない変えない」
「ホントにホント?」
「本当に本当だ。だから土下座で反省してろ」
「はい!」
さすがにその脅しは効いたようで元気よく返事をして土下座をした。
安堵の気持ちから反省のポーズをしているのは分かっているが、一応星川の後頭部に触って星川のステータスは返しておく。
星川に渡した分のステータスもどうせだからあげることにした。俺にとっては端ステータスだから気にすることはない。
……今まで綺麗だと思っていた髪も汚れているな。金貨一枚あれば今日の夜は綺麗にできるだろ。
星川が反省のポーズをしている間、俺はメテオバードからより多くのステータスとスキルを奪うことにする。
ただしこの場から動かないようにするためだから、魔王のジョブスキルを少し解放してからにする。
『<魔力+15000>を解放しました』
『<魔攻+20000>を解放しました』
『<隷属+A>を解放しました』
『<隷属+A>
任意の隷属対象に自身のステータスの百分の一を増加させる』
『<剥奪+B>を解放しました』
『<剥奪+B>
<剥奪>の範囲に入った対象を複数選択できる』
今の俺は見える範囲にいる相手に剥奪でき、しかも対象が複数いても同時に剥奪できるようになった。
それでメテオバードを蹂躙していく。
まさに魔王だな。
魔王のごとき蹂躙をしていれば、こちらに来ている男とメイドがいることに気が付いた。
こっちはこっちで手を止めたくないからあちらが声をかけてくるまで作業を続ける。
「おー、大万じゃないか」
俺だと分かって声をかけてくる男がいた。というか近づいてくるのは分かっていたから驚きもしない。
「山道か」
「おっす」
山道も勇者として迎え入れられた勇者組で、制服ではなく盗賊のような服装をしている。
「こんな朝早くから、精が出るなー」
「別に朝早くはないだろ」
「いやー、もう学校がないって考えたらいつまでも寝ていられたんだよなー。しかも昨日はこいつとお楽しみだったし!」
隣にいるメイドさんを横抱きする山道。
「そうか。それはよかったな」
「もしかしてメイドさんとやっていないのか? あんな美人なのに?」
「そんなことしか頭にないのか?」
「いや、絶対にやるだろ! あんなどうぞ手を出してくださーいみたいに言われたらやらないと失礼だ」
こいつもちゃんといじめられていた。
でもトップカーストの連中がいないときはまるでトップカーストの連中のように偉そうに振る舞っていた。
内弁慶ということだな。
「あの美人とやってないなら、俺がやろうかなー」
「お前は偉そうにやっていい立場なのか?」
「は? お前が食べないから俺が食べようとしているだけだろ。文句あるのか?」
「専属メイドの意味を考えろ。お前はそのメイドさんを大切にしろ」
「してるしてるー」
その適当な発言でメイドさんに嫌な顔を露骨にしていることにも気が付いていない様子だ。
「ていうか……土下座してるのって星川じゃん!」
俺の近くにいた土下座している星川を見て嬉々とした山道。
「なんだ、お前もお前でひでーことしてるなー」
「お前には関係のないことだ」
「あるだろ。だってこいつは俺たちをいじめていたんだぞ」
そう言えば山道は土下座している星川に近づき、足を上げて頭を踏もうとした。
「おい」
そうなる前に俺は山道に怒りの言葉をぶつける。
それは単なる怒りの言葉ではない。俺の魔王のジョブがそうはさせない。
怒りと共に滲み出した魔力は山道に一身に向かい怒りの魔力が向けられた。
「ぁ……」
それを受けた山道はぶわぁっと汗を噴き出させて、後退った。
「お前に何の権利があってそれをやる? 身の程を知れ」
確かに星川はこいつもイジメていた。
だが今の星川は俺が隷属している星川だ。誰にも手を出させはしない。
「な、なんだよてめぇ! 少しだけ女王から目をかけられているからって調子に乗って!」
少しだけ滲み出した魔力を振り切った山道はナイフを抜いて俺に向かってきた。
「そっちから手を出してきたんだ、手加減しないぞ?」
おそらく盗賊か何かのスキルで俺の背後に回った山道だが、動けなくなる程度のケラウノスを放ったことで膝をついて動けなくなる山道。
「な、なにが……がっ!」
「知らなくていいことだ」
俺は山道の首をつかんで持ち上げる。
「は、放せ……!」
「トップカーストの連中にイジメられていたのに、同じようなことをするお前には呆れていたんだ。だからトップカーストの連中と同じ目にあってもらおうか。一緒なことをしているんだから一緒な境遇にならないとな」
そう言って俺は山道からステータスを奪う。
昨日のうちでレベルを7まで上げていたのか。それに今のところトップカーストの二人だけしかステータスを見ていないからよく分かっていなかったが、勇者としてのステータスを何となく理解した。
盗賊だから速度と器用が900を超えていたし、他のステータスも魔法方面は少し低いがそれでもトップカーストの連中よりかは遥かに高い。
「あ、あ、あ……」
俺にステータスを奪われているため放心状態になる山道。
ただこうして奪ってみて分かるが、ジョブスキルは奪えない。ジョブスキルはジョブを成立させるために必要なものだから、ジョブを奪うスキルでなければ奪えないだろう。
だからステータスをすべて1にしてから解放してやる。
少し放心してから、意識をハッキリとさせた山道はすぐに噛みついてきた。
「何したんだよ!」
「ステータスを見れば分かる」
すぐにステータスを見た山道は目を見開いた。
「は、はぁ……!?」
「あそこにメテオバードがいるぞ。冗談かどうか確認しに行けばいい」
「お、お前がやったのか……!?」
「さぁな。星川、もう土下座はやめていいぞ」
「やっと?」
本当に反省のかけらも見せようとしないな、この女。
「おい待てよ! 返せよ俺のステータス!」
「あぁ、それはステータスを誤魔化しているだけで本当はステータスを奪っていないぞ。だまされたか?」
「……んだよ、ビビらせるなよ! ていうかしょうもないことするな!」
「ふっ。行くぞ星川」
「分かった」
俺と星川は山道とメイドさんから離れていく。
「あれ、ホントに誤魔化しているだけなの?」
「ん? そんなことできないぞ?」
「……ぷはっ! それなら私みたいに奪われたんだ! ウケるー!」
「お前はもう返しているけどな」
「え、あっ、ホントだ! よかったー!」
返したけど特に言葉もなしか。
ここにきて星川の人間性が下に更新していくとは思わなかった。




