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舞踏会の洗礼


今宵の舞踏会が開催される王都のお城に、馬車が到着した。


『ステラお嬢様、エントランスホールまでは私がエスコートいたします』


『えぇ、よろしくね』


セオドアの大きな手のひらの上へ、私の手を重ね合わせ、馬車から降りる。

目の前には燦然と輝く王城に、麗しく煌びやかに着飾ったご令嬢たち。

皆が自信満々に、私を見てと言わんばかりの堂々たる佇まいをしている。


華美に着飾りすぎだなんて心配することもなかったわね、、

んっ!?

それはそうと……何かしら?

視線が痛いような……

皆が一斉にこちらを振り返って見ている気が……?


ーーな、なに?何か変なの私?


よくよくご令嬢たちが熱い視線を送る先に注視したら、どうやら私ではなくセオドアに送られている視線のようだ。


ーーどよめきたってるし……


これでは屋敷にいる時の侍女らと一緒ね。

セオドアって本当にモテるんだーー。

美男子ではあるけれど、私は家族みたいに当たり前に側にいてるから、そんなふうに男性として意識して見たりはしないもの、、


隣に立つセオドアの横顔をさりげなく見上げる。


シャープなフェイスラインに、

すっと整った鼻筋、

いつ見ても爽やかに上がっている口元、

涼しげにきりっとしていながらも、人を惹きつける柔和な目元、


ーーそれにラベンダー色の瞳。


ラベンダーは母様がお好きだった花。

母様の部屋には、たびたびラベンダーの花が飾られていた。

セオドアの瞳はラベンダーそのものを見ているかのように綺麗で、どこかほっと安らぎを与えてくれる。


ーー母様と一緒に過ごした、懐かしくも優しい時間を思い出すから。


うん、、確かに……

モテるのは認めざるを得ないかっ。

口うるさいし、過保護だけど……。


じろ〜〜っとした、私の妙な目線に気づいたセオドアがにこりと微笑む。


ドキッ、、、、


なんかすごく照れちゃった……っ。



どよめきたっているご令嬢たちの熱い視線を浴びながら、お城のエントランスホールに足を踏み入れると、すぐに私のエスコート相手、ジャスティン様が姿を見せた。


『やぁ、ステラ嬢!! 待っていたよ!! お久しぶり。最後に会ったのは…… 半年前の我が屋敷で催した夜会だったよね? 今宵は一段と目も眩むほど美しい君をエスコートできるだなんて、僕は幸せ者だ!!』


何言っちゃっているのかしら!?

あの夜会で、あなたをめぐってご令嬢たちが言い争っていたのを私は知っているのよ!!

年頃のご令嬢相手に、結婚をほのめかしては火遊びを繰り返しているみたいねッ!!

皆をその気にさせ、自分こそが本命だと思い込ませるだなんて最低な男だわッ!!!!

私、そんな不誠実な男は大っ嫌いだから!!!!


べ〜〜ッて感じっ、心の中ではっ、、


はあぁ……なんとか作り笑いと、中身のないどうでもよい会話で、今夜を大人しく乗り切るしかないわねっ。


『ご機嫌よう、ジャスティン様。お久しぶりです。私もジャスティン様に今宵エスコートしていただけることを光栄に思います』


『こちらこそ光栄さ!! それでは早速メインホールへ行こうか』


ジャスティン様がさっと手を差し出す。


『はい』


エスコートしていたセオドアから手を離そうとしたその瞬間、私の手をセオドアが強く握った。


『イッ、、痛いわ、セオドア……っ』


『も、申し訳ございませんっ!!!! お手は大丈夫でしょうかお嬢様?』


狼狽えるセオドアが強く握りしめた手を弱める。


『え、えぇ、大丈夫よ』


ーーどうしたのかしら?


セオドアから手を離し、私はジャスティン様の手をとった。


『それではジャスティン様と行って来るわね』


『はい、ステラお嬢様。お帰りのお時間まで控えております。ご用がございましたらお申し付けくださいませ』


『わかったわ』


あぁ、セオドアと離れるのがこんなにも心細い日がくるとわ……。


『ジャスティン様、ステラお嬢様を何卒よろしくお願いいたします』


私の不安を察してか、セオドアが深々頭を下げる。


『ただの執事なんかにそんなこと言われなくてもわかってるよッ』


見下した冷たい目つきでジャスティン様が淡々と吐き捨てた。


ーー本性現したり!!!!


ただの執事なんかっ!!!!

よくも言ってくれたわね!!

人の屋敷の執事にその上からの物言いは何?

以前から傲慢で、鼻持ちならない生意気なお坊ちゃんなのは知っていたけど……更に大っっ嫌いになったわッ!!


『身分もわきまえず大変ご無礼を申し上げました。心よりお詫びいたします……。いってらっしゃいませ』


無礼なのはセオドアじゃないわッ!!

謝らなくてもいいし、頭下げなくてもいいんだから!!

むかっ腹立つからあとでダンスの時にわざと足でも踏んでやろーー。



後ろ髪引かれる思いで、最低男と共にメインホールへ移れば、今宵の舞踏会の主催者でもあり、そしてお父様の妹で、私の叔母様でもあるレティシア王妃のお姿があった。


今夜、お城で開催されている舞踏会は、レティシア王妃が孤児院への基金集めのために毎年開催されていて、十六歳になったばかりの私は初参加となる。


ジャスティン様にエスコートされ、私はレティシア王妃のもとへとご挨拶へお伺いした。


『レティシア王妃、今宵はご招待していただき、大変有り難く存じます』


膝を曲げ身を低くし、丁重にお辞儀をする。


『ステラ、久しぶりねぇ。あなたももう立派に淑女の仲間入りじゃない。お兄様からは相変わらずおてんばな様子は話に聞いているけどね…… ふふふっ』


お父様ったら、そのようなことをレティシア王妃に言わなくても……。


『お、お恥ずかしながら…… 返すお言葉もございません』


今朝木登りして落っこちてしまっていますし……。


『あら、おてんばな淑女がいてもいいんじゃないかしら? うっふふふ』


『はっ、はい……っ』


顔が赤くなってきちゃうわ、、


『ゆっくり色々とお話をしたいところなんだけど…… 他の来賓客の方へのご挨拶周りが立て込んでいるから、これで私は失礼させていただくわ。二人共、どうぞ今宵は楽しんでちょうだいね』


私とジャスティン様に申し訳なさそうにして、レティシア王妃は優雅な甘い残り香だけをほのかに残し、忙しなく去って行かれた。


ーーもっとお話ししたかったのになぁ。



叔母様でもあるレティシア王妃は私の尊敬する人。

舞踏会は嫌いだけど、レティシア王妃の民を思う行動力には常に感銘を受けている。

レティシア王妃は、一人親のための救済基金を募り、病や事故などで突如とし、一人親となってしまった家庭への支援も積極的に行なっている。経済的事情から、親子が離れ離れにならないようにするための取り組みだ。


また昨年には、国王陛下とレティシア王妃は私財を投じ、病気や障害などで働くことが困難な民をサポートするホスピタルも設立している。


国王陛下とレティシア王妃はアステア国の民の道標となるお方。



憧れのレティシア王妃の余韻に私がどっぷり浸っていたら、上辺だけの男ジャスティン様をお目当てに、ご令嬢たちがあっという間に集まってきた。

皆一様に甲高い声を上げる。


『キャーーッ!! ジャスティン様がいらしているわよ〜〜♡』


『まぁ!! なんて素敵なのかしら〜〜♡』


いつもどおり大人気だわ……なぜ?

最低男なのに……


『ご機嫌よ〜〜♡ ジャスティン様〜〜ぁ♡ 今宵はわたくしとも踊っていただけますわよねぇ?』


横に立っている私のことは完全にスルーしてくれちゃってる!!


『ソフィア嬢、申し訳ありませんが今宵はステラ嬢のエスコート役を務めますので…… またのご機会に』


いいのよ、いいのよ!!

私のことなんてほったらかしておいてくれてもっ!!!!


『あらっ、ステラ様…… ご挨拶が遅れましたわ、ご機嫌ょ〜〜』


イヤイヤ感全力で出しているご挨拶をどうもありがとう!!


『ご機嫌よう!! ソフィア様』


今日一番と言ってもいいくらい、とびっきりの笑顔でご挨拶をする。


ソフィア嬢…… スタンリー伯爵家の一人娘。

スタンリー伯爵が随分溺愛していて、ソフィア嬢の望みはなんでも聞き入れてるとは小耳に挟んでいたものの…… こちらの想定以上に我が強い女性に成長しているわね。

私にジャスティン様をとられるとでも、勘違いしているのかしら?

とらないから!!全然興味もないしッ!!

なんならエスコート相手を交換して欲しいくらいよ!!


あ〜〜もう帰りたいッ!!!!


ジャスティン様の横で、私は針のむしろ状態で過ごすことになってしまった。

絶え間ないご令嬢たちの怖い視線を感じて……


やはり社交の場は、女たちの妬み嫉み渦巻く恐ろしい場なのである。

予想していたとおり、早々に舞踏会の洗礼を受けることとなったのだった。















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