第174話:ルミナ・コア
ヴァルドの木剣が振り下ろされた瞬間、アランの胸の奥で光が爆ぜた。
衝撃は腕を通り、肩へ、背中へと抜けていく。
普通ならそのまま吹き飛ばされて終わる一撃だった。
だがその衝撃が、逆に体の奥にある光を揺さぶった。
胸の中心。
さっきまで小さく回っていた光の渦が、一気に速度を上げる。
(……回ってる)
アランは一瞬、自分の内側を見た。
光の粒が、同じ場所を巡っている。
ゆっくりではない。
今はもう、はっきりとした回転だった。
そしてその中心に、ひとつの点がある。
小さく、しかし強い光。
次の瞬間、ヴァルドの二撃目が来た。
アランは反射的に剣を上げる。
木剣同士がぶつかり、乾いた音が山に響いた。
だがその感触が違う。
ヴァルドの眉がわずかに動く。
「……ほう」
今の一撃は、さっきまでより明らかに重かった。
アランの腕がぶれない。
むしろ、衝撃を受け止めている。
アラン自身もそれを感じていた。
胸の奥の光が、体の動きと連動している。
呼吸に合わせて回転し、魔力を全身へ送り出している。
(これが……)
アランは歯を食いしばる。
(中心)
次の瞬間、ヴァルドが踏み込む。
速い。
木剣が横から振り抜かれる。
アランは体を捻り、かろうじて受けた。
衝撃が腕を震わせる。
だが吹き飛ばない。
胸の奥の光が、体の軸を保っている。
ヴァルドの目が細くなる。
「安定したな」
アランは小さく息を吐いた。
「……ああ」
自分でも分かる。
さっきまで散っていた魔力が、今は一本の流れになっている。
胸の中心から、全身へ。
まるで新しい心臓のように、光が脈打っていた。
ヴァルドは木剣を軽く回す。
「それがルミナ・コアだ」
アランは一瞬驚いた顔をした。
「名前、ついてたのか」
ヴァルドは肩をすくめる。
「昔の研究者がそう呼んでいた」
その言葉に、アランの眉がわずかに動く。
だが今はそれを聞く余裕はない。
ヴァルドが再び構えた。
「だが」
声が低くなる。
「本物かどうかは、まだ分からん」
次の瞬間、地面が弾けた。
ヴァルドの踏み込みは、今までより速い。
木剣が空気を裂き、アランの頭へ振り下ろされる。
アランは反射的に剣を上げる。
衝突。
激しい音が響いた。
だが今回は弾かれない。
胸の光が強く回転する。
魔力が腕へ流れ、体を支える。
ヴァルドの口元がわずかに上がった。
「いい」
今度は三連撃。
上、横、突き。
アランは必死に受ける。
だがさっきまでとは違う。
動きが見える。
剣が来る前に、体が自然に動く。
魔力の流れが、ヴァルドの動きをわずかに予測している。
(……見える)
アランの剣が初めて反撃に出る。
木剣が横に走る。
ヴァルドは軽く受け流すが、その瞬間目が細くなった。
「反撃か」
アランは構えを崩さない。
胸の光はまだ弱い。
だが確かにそこにある。
新しい中心。
壊れた核の代わりに生まれた光。
ヴァルドは剣を下ろした。
少しの沈黙。
山の風が吹き抜ける。
そして静かに言った。
「合格だ」
アランは目を瞬かせる。
「……え?」
ヴァルドは木剣を肩に担ぐ。
「ルミナ・コアは完成した」
アランは胸に手を当てた。
光はまだ弱い。
だが回転は安定している。
消える気配はない。
ヴァルドは続ける。
「普通の魔導士は、魔法陣で魔力を制御する」
空を見上げる。
「だが今のお前は違う」
視線を戻す。
「体そのものが魔法陣だ」
アランは苦笑した。
「とんでもないこと言うな」
ヴァルドは真顔で答える。
「とんでもないのはこれからだ」
アランは眉を上げた。
「どういう意味だ」
ヴァルドは少しだけ笑った。
「グラシオンに勝つんだろう」
その名前が出た瞬間、空気が少し重くなる。
アランは黙った。
ヴァルドは続ける。
「今のお前は、やっと入口だ」
そして木剣を投げる。
アランが受け取る。
「次の修行を始める」
アランはため息をついた。
「まだあるのか」
ヴァルドの目が鋭く光る。
「当然だ」
山の奥を指さす。
「次はあれだ」
アランが振り向く。
そこには、岩山がそびえていた。
断崖のような斜面。
ほとんど人が登れそうにない高さ。
アランは嫌な予感がした。
「……まさか」
ヴァルドは平然と言った。
「登れ」
アランは思わず笑った。
「修行ってレベルじゃないぞ」
ヴァルドは腕を組む。
「光は秩序だと言ったな」
そして静かに続ける。
「ならば自然の流れを読む」
岩山を見上げる。
「魔脈は山の中を通っている」
アランはその意味を理解した。
「……魔脈を使って登れってことか」
ヴァルドは頷く。
「そうだ」
そして小さく笑う。
「落ちたら死ぬぞ」
山の風が強く吹き抜けた。
アランは岩山を見上げる。
胸の奥の光が、静かに回っていた。
(……上等だ)
木剣を握り直す。
ルミナ・コアは完成した。
だが修行は、まだ終わらない。
むしろここからが本番だった。




