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最強だと思った光魔法ですが習得が難しいです! ~魔法至上の国でダンジョンに挑む公爵家の落ちこぼれ~  作者: 空木 輝斗


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第170話:見えない魔法

北方山地の朝は、帝都よりもはるかに静かだった。


空気は澄み、遠くの森のざわめきさえはっきり聞こえる。

その静けさの中で、木剣がぶつかる乾いた音だけが何度も響いていた。


アランは息を荒くしながら木剣を振る。


だがその剣は、ことごとく弾かれていた。


「遅い」


ヴァルドの低い声が飛ぶ。


次の瞬間、木剣が軽く払われるだけでアランの剣は軌道を外され、体勢が崩れる。

そこへ肩を押され、アランは再び地面に倒れ込んだ。


「……くそ」


地面に手をつきながら、アランは息を吐く。


訓練が始まって三日。


結果は変わらない。


いや、むしろ差ははっきりしてきていた。


「立て」


ヴァルドは短く言った。


アランは顔をしかめながら立ち上がる。


「さすがにおかしいだろ」


息を整えながら言う。


「魔法も使ってない、同じ木剣だ。それなのに全然当たらない」


ヴァルドは木剣を肩に乗せたまま答えた。


「当然だ」


その表情は少しも変わらない。


「お前は見えていない」


「何がだ」


ヴァルドは空を見上げる。


朝の光が山の斜面を照らしていた。


そして、ゆっくりと腕を上げる。


「魔力だ」


その言葉にアランは眉をひそめた。


「見えてる」


「いや、見えてない」


ヴァルドははっきり言った。


「お前が見ているのは“魔法”だ」


木剣を軽く振る。


「光が走る、火が燃える、雷が落ちる」


そして視線をアランへ戻す。


「だが魔法が生まれる前に、必ず“流れ”がある」


地面に剣の先で線を引く。


「魔力は水と同じだ」


一本の線を描き、そこから枝分かれさせる。


「流れ、ぶつかり、集まり、形になる」


剣を止める。


「魔法はその最後の結果に過ぎん」


アランは腕を組んだ。


「それで?」


「それをどうやって見る」


ヴァルドは少しだけ笑った。


「だから魔法を捨てろと言った」


次の瞬間。


彼の姿が消えた。


「っ!?」


アランが反応したときには、背後に気配があった。


木剣が首筋に軽く当たる。


「今のも魔法じゃない」


ヴァルドは静かに言う。


「ただの身体操作だ」


剣を離しながら続ける。


「だが俺はお前より先に動ける」


アランは振り返る。


「どうやって」


ヴァルドは地面を指した。


「流れを読む」


そして胸を指す。


「自分の流れも、相手の流れも」


アランは少し考える。


「……つまり」


「魔力を感じろってことか」


ヴァルドは頷いた。


「その通りだ」


木剣を放り投げる。


「今日の訓練はそれだ」


アランは呆れた顔をする。


「また殴られるやつか?」


「違う」


ヴァルドは地面に胡坐をかいた。


「座れ」


アランは半信半疑で座る。


「目を閉じろ」


「は?」


「いいから閉じろ」


仕方なく目を閉じる。


風の音が聞こえる。


森の葉が揺れる音。


遠くで鳥が鳴いた。


しばらく何も起きない。


「……何も感じない」


アランが言う。


するとヴァルドの声が返る。


「当たり前だ」


「お前は今まで魔法しか見ていなかった」


少し間を置く。


「だからまず、静かになれ」


山の風が頬を撫でる。


アランは黙った。


しばらくして。


ふと違和感を覚えた。


(……ん?)


何かが動いている。


目には見えない。


だが、空気の奥で何かがゆっくり流れているような感覚があった。


川のように。


あるいは呼吸のように。


「……何か、ある」


思わず呟く。


ヴァルドの声が少しだけ変わった。


「ほう」


アランは集中する。


その流れは、地面の下から山の奥へ続いているようだった。


そしてもう一つ。


自分の体の中にも、似た流れがある。


「これが……」


アランが言う。


「魔力か」


ヴァルドは答えた。


「そうだ」


少しだけ静かに続ける。


「それが“魔脈”だ」


アランはゆっくり目を開ける。


「魔脈……」


帝都で何度も聞いた言葉だった。


だが今、初めてその意味が少し分かった気がした。


ヴァルドは立ち上がる。


「覚えておけ」


空を見上げる。


「魔法とは、その流れを“形”にする技術だ」


そしてアランを見下ろした。


「お前の光魔法も同じだ」


アランは眉をひそめる。


「でも俺の核は――」


ヴァルドは言葉を遮る。


「関係ない」


はっきり言った。


「核が壊れた程度で終わる魔法なら、それは最初から偽物だ」


その言葉は重かった。


アランは拳を握る。


「……作り直すって言ったな」


ヴァルドは頷いた。


「そうだ」


山の風が再び強く吹いた。


「お前の光は、まだ終わっていない」


少しだけ目を細める。


「ただ形を変えるだけだ」


アランは空を見る。


雲がゆっくり流れていた。


(……形を変える)


その言葉が胸に残る。


ヴァルドは木剣を拾い上げた。


「休憩は終わりだ」


アランを見た。


「次はもっと殴る」


アランは苦笑した。


「やっぱりそれか」


そして木剣を握る。


山の静かな空気の中で、再び剣の音が響き始めた。


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