第131話:帝国の評価会議
帝都ルメニア中央区。
白銀の塔群の最奥に位置する、帝国魔導評定庁・第零会議室。
分厚い扉が閉じられた瞬間、
室内の空気は、明確に“政治”の色を帯びた。
円卓を囲むのは、評定官、軍務省代表、研究局上席、そして学院側の連絡官。
その中央に投影されたのは――
第四層ダンジョンで記録された戦闘ログだった。
「確認する」
評定官の一人が、低く告げる。
「本件は、律異変ではない。
また、自然発生型ダンジョンでもない」
波形、魔力流、構造設計図が切り替わる。
「高度な知性を持つ闇属性存在による、
意図的構築型ダンジョン。
戦闘個体は、明確に“殺害目的”を持って行動している」
沈黙。
「……戦争の兆候と見ていいのか?」
軍務省の男が口を開く。
「局地的ではあるが、否定はできない」
研究局の代表が答えた。
「特に問題なのは――」
投影が切り替わり、
アランの戦闘映像が静止する。
《ルミナ・シェル》展開時の防御ログ。
《ミラージュ》を突破されながらも立て直す動き。
そして、槍による純粋な制圧。
「闇個体は、光魔法への適応を見せている。
だが――」
研究局の男は、わずかに言葉を切った。
「この被験……いや、
アラン・ルクレディアの光は、
適応を“受け止めている”」
「殲滅していない?」
学院連絡官が確認する。
「はい。
破壊ではなく、制御。
暴走を起こさず、個体を無力化している」
軍務省が、静かに唸った。
「……兵器としては、扱いづらいな」
その言葉に、数名が同意する。
「だが」
評定官が、卓を指で叩いた。
「対闇戦において、
唯一、致命的損耗を出さずに戦えている存在でもある」
再び、アランの映像。
闇の少年と対峙する場面。
少年が、あえて撤退を選んだ瞬間。
「敵は、彼を“観測対象”としている可能性が高い」
「逆に言えば」
研究局が続ける。
「こちらも、彼を“基準”にできる」
会議室の空気が、変わった。
「結論を述べる」
評定官が宣言する。
「アラン・ルクレディアを、
対闇事象における最優先観測兼実戦対応要員に指定する」
学院連絡官が、眉を動かす。
「学生です」
「承知の上だ」
評定官は即答した。
「だからこそ、
帝国直属ではなく、学院所属のまま運用する」
軍務省が、僅かに笑った。
「……切り札を、檻に入れないと?」
「檻に入れれば、折れる」
評定官は、淡々と言った。
「彼の光は、命令で振るうものではない」
短い沈黙。
「――だが」
その声が、少しだけ低くなる。
「必要とあらば、
帝国は彼を前線に出す」
それは、保護でも期待でもない。
戦力としての宣告だった。
会議は、静かに終わった。
結論は、記録として残される。
対闇事象対応指針・特例条項
アラン・ルクレディアを
「切り札扱い」とする
同時刻。
帝国魔導学院・寮区。
アランは、その事実を、まだ知らない。
だが――
光導槍は、静かに重みを増していた。
それは、
世界が彼を戦力として認識し始めた証だった。




