第132話:光の温度
正直に言えば。
最初に感じたのは、違和感だった。
演習場の端。
アランが、いつものように槍を構えている。
動きは変わらない。
無駄がなく、静かで、正確。
それなのに。
(……前より、近い)
リリアは、そう感じていた。
以前のアランは、どこか遠かった。
一緒に戦っていても、
常に一歩、内側に踏み込ませない壁があった。
「もう一本、いける?」
リリアが声をかける。
「大丈夫だ」
アランは即答した。
だがその声に、
ほんの僅か――迷いがない。
それが、違和感だった。
以前なら、
必ず一拍置いていた。
「やめておく」とか、
「様子を見る」とか。
(判断が、早い)
槍が、走る。
《ルミナエッジ》
光の刃が、一閃。
的が、きれいに断ち切られた。
「……綺麗ね」
思わず、そう言った。
「ありがとう」
アランは、短く返す。
笑わない。
だが、拒まない。
(……戻ってきた?)
ふと、胸の奥がざわつく。
律に触れ始めてからのアランは、
どこか感情の起伏が薄かった。
良くも悪くも、
「整いすぎていた」。
それが今は。
「ねえ、アラン」
訓練が一区切りついたところで、
リリアは、槍を下ろした。
「やっぱり……ちょっと変わった?」
アランが、首を傾ける。
「そうか?」
「ええ」
リリアは、言葉を探す。
「前みたいに、
考えすぎて立ち止まる感じが減った」
「……そうかもしれない」
アランは、少しだけ間を置いた。
視線が、遠くを見る。
「律に近づきすぎて、
自分が“均されていた”ことに、気づいた」
リリアは、息を呑む。
「……それで?」
「戻った」
短い答え。
だが、
それだけで十分だった。
(ああ)
リリアは、胸の奥で納得する。
だからだ。
戦闘の中で、
アランの判断が速いのは。
迷いを捨てたのではない。
感情を取り戻したから。
「それなら、安心ね」
「何がだ?」
「切り札扱いされても、
ちゃんと“人間のまま”戦えそうで」
アランが、僅かに眉を動かす。
「……何か、知ってるな?」
リリアは、肩をすくめた。
「さあ?」
本当は、感じている。
学院の空気が、変わったことも。
アランを見る視線が、
期待と警戒を孕み始めたことも。
でも、それはまだ言わない。
今は――
「次の実習、また一緒ね」
「ああ」
短く、確かな返事。
リリアは、微笑った。
(大丈夫)
光は、冷たくなっていない。
ちゃんと、温度がある。
それだけで、
十分だと思えた。




