第130話:決戦・光と闇
第四層の奥。
空間は、明らかに“戦場”として整えられていた。
壁は滑らかすぎるほど平坦で、
魔力の流れは一本の導線のように中央へ収束している。
自然生成のダンジョンではあり得ない。
「……完全に、殺しに来てる構造ね」
リリアが低く言った。
返事の代わりに、
闇が、動いた。
床から立ち上がる影。
先ほどまでの個体とは明らかに違う。
無駄がない。
攻撃のためだけに組み上げられた形。
「来る!」
アランは即座に踏み込む。
《ルーメン》
光が弾け、視界を押し広げる。
だが、闇の個体は怯まない。
光を“避ける”のではなく、
計算した角度で通過してきた。
「っ――!」
《ミラージュ》
分身が三つ、瞬時に展開される。
だが次の瞬間、
闇の個体は迷わず“本体”へ踏み込んできた。
「分身を、見抜いてる!?」
「違う!」
アランは叫ぶ。
「分身を見てない。
魔力の揺れだけを追ってる!」
《バッシュ》
槍の穂先から衝撃波が放たれ、
闇の個体を横殴りに吹き飛ばす。
だが――倒れない。
即座に体勢を立て直し、
複数の影が同時に動き出す。
「囲まれる!」
《ライトヴェイル》
淡い光の膜が展開され、
闇の斬撃が弾かれる。
「数が……!」
その瞬間、空間が歪んだ。
中央の魔力収束点。
そこから、一歩踏み出す影。
少年だった。
「ここまで来たか」
声は、前と同じ。
静かで、感情が薄い。
「お前が、指揮しているな」
アランが槍を構える。
少年は否定しない。
「試しているだけだよ」
「何をだ!」
「光が、どこまで“抗える”か」
闇の個体が、一斉に動く。
「来る――!」
《ルミナ・シェル》
光の球状結界が展開され、
面制圧の闇が受け流される。
だが衝撃は重い。
「くっ……!」
「アラン、無理しないで!」
「大丈夫だ!」
踏み込み、槍を振る。
純粋な槍術。
余計な魔法を乗せない、最短の一撃。
闇の個体が、初めて崩れた。
「……やっぱりね」
少年が、どこか満足そうに呟く。
「律に触れなくても、
君は“壊さずに倒す”」
その視線が、鋭くなる。
「だからこそ――
次は、もっと深く用意する」
「待て!」
アランが踏み出した瞬間。
闇が、爆ぜた。
視界を覆う黒。
次の瞬間には、少年の姿は消えていた。
残されたのは、
膨大な闇属性反応データ。
そして、
人為的に構築されたダンジョンの中核構造。
「……逃げられたわね」
リリアが息を吐く。
「でも」
アランは、投影端末に表示される数値を見つめる。
「十分すぎるほど、情報は取れた」
闇は、敵だ。
理論の外側にある力で、
明確な意志を持って、人を殺しに来る存在。
だが――
「次は、向こうが本気で来る」
光導槍が、静かに震えた。
導かれない。
拒まれない。
ただ、
次の戦いを告げるように。
光と闇は、
もう同じ場所には立てない。
決着は、まだ先だ。
だがこの日――
帝国は、確信することになる。
これは異常ではない。
戦争の兆候だ。




