第129話:闇の少年、顕現
第四層の結晶が沈み切ったあとも、
空間の歪みは消えていなかった。
まるで、
何かが“残ること”を前提に作られた場所のように。
「……来るわね」
リリアの声が低くなる。
アランも感じていた。
さっきまでの戦闘個体とは違う。
もっと静かで、
もっと“近い”。
空間の奥。
何もないはずの場所に、影が滲む。
闇が、人の形を取った。
少年だった。
年齢は、アランと大差ない。
だが、その存在感だけが、明らかに異質だ。
「……ようやく、ここまで来たんだ」
声は穏やかだった。
敵意すら、感じられない。
それが、逆に不気味だった。
「君が……」
アランは一歩前に出る。
「このダンジョンを作ったのか」
少年は、少しだけ首を傾ける。
「“作った”というより、
集めて、形にしただけだよ」
「律の歪みを?」
「正確には、
律から零れ落ちた“余白”を」
その言葉に、リリアが息を呑む。
「余白……?」
「世界は、綺麗に説明できるものしか残さない」
少年は淡々と続ける。
「説明できないものは、
危険だって言われて、
排除される」
その視線が、アランを捉えた。
「君も、少し似てるよ」
「……何?」
「光なのに、壊さない。
導くけど、支配しない」
一瞬、空気が張りつめた。
「だから、気になった」
少年は、初めて笑った。
「君が、どこまで来られるか」
その瞬間。
空間が、軋んだ。
闇が、少年の足元から広がる。
「話は、ここまでだ」
「待て!」
アランが叫ぶ。
「お前の目的は――」
「次で、分かる」
少年の姿が、闇に溶けていく。
「これは、始まりだよ」
最後に残ったのは、
冷たい静寂だけだった。
しばらく、誰も動けなかった。
「……逃げた、わね」
リリアが、ぽつりと言う。
「いや」
アランは、槍を見下ろす。
光導槍は、震えていない。
拒んでもいない。
ただ――
次を、待っている。
「これは、宣戦布告だ」
「ええ」
リリアは、深く息を吸った。
「次は、話し合いじゃ済まない」
遠くで、ダンジョンが軋む音がした。
まるで、
さらに深い階層が開いたかのように。
闇は、まだ終わっていない。
だが同時に、
逃げ道も、もうない。




