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最強だと思った光魔法ですが習得が難しいです! ~魔法至上の国でダンジョンに挑む公爵家の落ちこぼれ~  作者: 空木 輝斗


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125/195

第125話:静かな逸脱

第三層の奥へ進むにつれて、

空間の“癖”は、はっきりとした形を取り始めていた。


急激な変化はない。

だが、積み重なった違和感が、

ある一点を越えた瞬間――

質が変わる。


「……ここ」


リリアが、思わず足を止めた。


「さっきまでと、空気が違う」


「同感だ」


アランは、ゆっくりと槍を構える。


敵の気配は、ない。

だが、空間の反応が――

“返ってこない”。


床に落とした小石が、

音もなく転がり、

本来あるはずの反響を返さない。


「吸われてる?」


「いや……」


アランは、静かに首を振る。


「受け止められてる」


《ルーメン》


淡い光が広がる。


照らされた空間は、正常に見える。

歪みも、濁りもない。


それなのに。


(記録されてない)


第三層は、これまで

侵入者の行動を“保存”してきた。


選択。

戦闘。

移動。


それらが、後から効く仕組みだった。


だが、ここでは違う。


「……反応が、途切れてる」


リリアが、低く言う。


「空間が、私たちを“見てない”」


誰かが、息を呑んだ。


「そんなこと、あるのか?」


「本来は、ない」


アランは答える。


「ここは、第三層だ。

選択と結果が、必ず結びつく」


だからこそ――

この“空白”は、異常だった。


その時。


前方の通路で、

ごく微弱な魔力の揺らぎが走る。


敵ではない。

環境でもない。


“痕”だ。


「……残滓?」


「違う」


アランは、慎重に言葉を選ぶ。


「残ったんじゃない。

“置かれた”」


魔力が、そこにある。

だが、発生源がない。


溜まりでもない。

噴き出しでもない。


ただ、

意図を持って配置されたような不自然さだけがある。


《ルミナ・リゾナンス》


アランは、極低出力で共鳴場を広げた。


抑えるためではない。

探るためだ。


すると、空間が、

わずかに――

“ずれる”。


「……今、揺れた」


「ええ」


リリアの声が、緊張を帯びる。


「でも、暴走じゃない」


「律も、荒れてない」


アランは、確信する。


(これは……環境でも、選択でもない)


第三層の設計から、

一段、外れている。


「進む?」


後衛の生徒が、慎重に問う。


アランは、少しだけ考えた。


引き返す理由は、ない。

だが、無理に踏み込む必要もない。


「……迂回する」


「逃げるの?」


「避けるだけだ」


アランは、前を指す。


「ここは、

ダンジョンの“ルール”から外れてる」


それは、危険だからではない。

危険かどうかすら、

判断できないからだ。


一行は、

その空白を避けるように進路を取った。


数分後。


背後で、

空間が、静かに“戻る”気配がした。


振り返っても、何も見えない。


だが、

確かにそこにあった“逸脱”は、

第三層の一部として、

すでに刻まれていた。


(誰かが……)


アランは、光導槍を見下ろす。


槍は、震えない。

だが――

拒みもしない。


「……まだ、出てこないな」


リリアが、ぽつりと呟く。


「ああ」


アランは、静かに答えた。


「でも、確実に近づいてる」


第三層は、まだ崩れていない。

帝国の判断も、誤ってはいない。


だが。


“管理可能”という枠の内側で、

すでに説明できない何かが、動いていた。


それが、

次の層へ続く――

最初の兆しだった。


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