第124話:分岐する進行
第三層の奥へ進むにつれ、
通路の“均一さ”が失われていった。
壁の角度が微妙に変わる。
床の反発が、一定ではなくなる。
どれも致命的ではない。
だが、確実に――
進行速度に差が出る。
「……歩きやすいわね、ここ」
リリアが、慎重に足を運びながら言った。
「第三層に入った直後より、
むしろ安定してる」
「選択が、噛み合ってる」
アランは短く答える。
《ルミナ・リゾナンス》を、断続的に維持している。
出力は最小。
干渉ではなく、同調。
空間は、完全には従わない。
だが、反発もしない。
(押さえつけてないからだ)
第三層は、
制御されることを嫌う。
だが、理解されることは拒まない。
その時、通信符が再び震えた。
『……第一補助班、進行遅延。
通路の再構成が頻発しています』
別の声が続く。
『戦闘は少ない。
だが、移動だけで魔力消費が増大』
帝国側の監視記録が、
逐次集約されている。
アランは、少しだけ眉をひそめた。
(想定通り、だな)
危険ではある。
だが、崩壊には至っていない。
致命的な損耗も、出ていない。
だから――
“管理可能”の評価は、まだ維持される。
「切り上げ命令は、出ないわね」
リリアが、静かに言う。
「この程度なら、
実習として成立するって判断」
「その通りだ」
アランは、足を止めずに答えた。
「帝国は、結果を見る。
原因よりも、まずは被害量だ」
第三層は、
人を選ぶ。
だが、殺さない。
選択を誤った班は、
時間と魔力を削られるだけだ。
「……残酷ね」
「公平だ」
アランは言い切った。
「全員に、同じ条件を出してる」
その時、前方で空間が、わずかに歪んだ。
敵ではない。
通路の“選別”だ。
左右に分かれる道。
片方は、やや狭い。
もう片方は、広く、だが奥行きが掴みにくい。
リリアが、ちらりとアランを見る。
「どっち?」
アランは、少しだけ考えた。
《ルーメン》で照らし、
《リゾナンス》で反応を見る。
広い方の通路は、
魔力の“返し”が遅い。
(蓄積型……進むほど重くなる)
「狭い方だ」
「了解」
誰も異論を挟まない。
選択が、積み上がる。
そして、その痕は、
必ず後で効いてくる。
だが――
今のところ、アラン班は
“軽い側”を歩けている。
奥へ。
さらに奥へ。
第三層は、まだ静かだ。
だが、
その静けさの質が、
少しずつ変わり始めている。
(次は……)
アランは、光導槍を握り直した。
この先で、
“環境”では済まないものが
顔を出す。
そんな予感だけが、
確かな重みを伴って、胸に残っていた。




