第120話:第二層・霧の応答
第二層へと続く石扉をくぐった瞬間、
空気の質が変わった。
「……霧?」
薄く、だが確実に視界を奪う白。
ただの水分ではない。
光を、わずかに散らす。
「視界が一定じゃないわね」
リリアが小声で言う。
「動いてる」
アランは足を止め、周囲を見回した。
霧は流れている。
だが風はない。
(環境型、か)
第一層のような“待ち構える戦闘”ではない。
ここは、侵入者の動きに応じて反応する。
「先に対処する」
アランは、短く告げた。
《ライトヴェイル》
微光の膜が、班全体を包む。
霧は消えない。
だが、視界の輪郭だけが、はっきりと浮かび上がった。
「助かる」
後衛の男子生徒が、息を整える。
「霧越しだと索敵が――」
《ルーメン》
淡い光が前方へ広がる。
霧の奥。
複数の“影”が、にじむように浮かび上がった。
「来るわ!」
リリアの声と同時に、
左右から何かが跳び出す。
人型二体。
低い姿勢。
奇襲前提の動き。
アランは、踏み込まない。
「散るな!」
槍を構え、間合いを保つ。
一体が、横から切り込む。
アランは槍の柄で受け、
そのまま軸足を払う。
倒れかけたところへ、
光をまとわせた突き。
霧の中で、影が崩れた。
「次、後ろ!」
別方向から、二体。
小競り合いが続く。
数は少ない。
だが、間隔がいやらしい。
(一体ずつじゃない)
敵は、様子を見ている。
「……来るわね、まとめて」
リリアが歯を食いしばる。
その直後だった。
霧が、わずかに濃くなる。
複数の影が、同時に動いた。
「連携型!」
アランは、即座に判断する。
《ミラージュ》
光が屈折し、
アランの残像が三つ、前方へ走る。
敵の動きが、一瞬止まった。
「今!」
《バッシュ》
槍の穂先から、光の衝撃波。
正面の敵列が、まとめて吹き飛ぶ。
隊列が崩れる。
「右、崩れた!」
「押すわ!」
リリアが踏み込み、
別の生徒が追撃する。
連携は取れている。
だが、敵の反応が追いついていない。
(学習してるが、まだ浅い)
戦闘が終わると、
霧はわずかに薄くなった。
「……止んだ?」
「いや」
アランは首を振る。
「“下がった”だけだ」
奥を見据える。
霧の向こうで、
別の気配が、ゆっくりと動いている。
「この層……」
リリアが呟く。
「戦うほど、性質がはっきりしてくる」
「だな」
敵の数は減った。
環境も、少し安定している。
だが――
奥へ進むほど、
空間そのものが“こちらを測っている”感触が強まっていた。
(第二層は、戦い方を見る場所だ)
アランは、光導槍を握り直す。
これは、まだ前半。
本番は――
この先だ。




