第115話:重なり始める痕跡
応用課程・第七演算室。
前回の実習から三日後。
再び、同じ教室に学生たちが集められていた。
「追加資料を配布する」
講師の声と同時に、投影板が切り替わる。
新たに表示されたのは、
別の律異変発生地点の残滓データだった。
場所は違う。
発生時期も、規模も異なる。
だが――
(……また、これか)
アランの視線が止まる。
最初のデータと同じ、
説明のつかない“ズレ”。
光属性反応としては弱すぎる。
闇属性と呼ぶには、侵食性がない。
「偶然、とは言えないわね」
リリアが、低く呟いた。
「三地点。
しかも全部、律の歪みが“溜まったあと”に起きている」
研究班の一人が、演算結果を見比べる。
「波形の立ち上がりが、似てる……
いや、正確には“重なってる”?」
投影板に、複数の波形が重ねて表示される。
一致しない。
だが――方向が同じ。
「向き、だな」
アランが言った。
「魔力の流れが、同じ方向を向いている」
「中心が、ないのに?」
「だからこそだ」
アランは、画面から目を離さない。
「中心がないのに、
同じ方向へ歪むのは……」
誰かが、続きを言いかけて、言葉を飲み込んだ。
「外部から、同じ“働きかけ”を受けた可能性」
教室が、静まり返る。
「同一存在、とは断定しない」
講師は念を押すように続けた。
「だが、偶発的な自然歪みとも言い難い。
少なくとも――
律は、同じ“やり方”で影響を受けている」
アランの脳裏に、嫌な静けさが広がる。
(集めている)
誰かが、
歪みを、残滓を、律の揺らぎを。
「でも……」
リリアが、慎重に言葉を選ぶ。
「敵意は、感じられない。
むしろ……」
「抑えてる?」
研究班の一人が、驚いたように言う。
「暴走を、完全にはさせてない」
その言葉に、アランの指が微かに動く。
山核主。
名を持たぬまま、歪んだ存在。
(もし、あの歪みを……
誰かが“集約”していたとしたら)
「無理に結論は出すな」
講師の言葉を合図に、議論はそこで打ち切られた。
いくつかの仮説は出されたが、どれも決定打にはならない。
最終的な扱いは――
理論未分類事象。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
アランは、投影板に映る重なり合う波形を、じっと見つめ続けていた。
三つの地点。
三つの痕跡。
どれも、名を持たない。
だが――
同じ“手触り”だけが、確かに残っている。
(あの少年は……)
思考が、そこまで及んだ瞬間。
光導槍が、ほんのわずかに震えた。
導かれない。
拒まれない。
ただ、黙って“気配”を伝えるだけ。
アランは、静かに理解する。
これは、敵ではないかもしれない。
だが――
放っておいていい存在でも、ない。
理論の外側で、
何かが、静かに動き始めていた。




