9 渋い戦い
「だがその前に貴様の勘違いを正してやろう。この俺ドラゴンのフェアプレイ精神に感謝するが良いよ!」
「ほう、勘違い?」
「この勝負に俺の負けはない。何故ならば、この俺ドラゴンは既に『全知全能』の精神支配を克服しているからだ!」
「な、なにぃっ!?」
驚愕する黒ドラゴンに高笑いで応える。そもそも劣化スキルなんぞに頼る貴様とは勝負にすらならんのだよ。同じ神でもその神格には差があると知れ!
「でもさっきすんごい顔してたぞ。本当にノーリスクなのか?」
そこに気付くとは。やはり神か。
「ノーリスクでは――――ないけど」
「ふーん。どんなん?」
「口の中が渋くなる」
「は?」
「口の中が渋くなる」
「なんだそのペナルティー。舐めてんのか」
ば、馬鹿にするな! すっごい渋いんだぞ!
「そう思うならば貴様も味わってみるがいい! 神の力、スキル『全知全能』発動! 奴さんに俺と同じ苦しみを味わわせてやんな!」
瞬間口の中に広がる渋み。おげぇっ、渋ぅい! 舌先に直で濃縮還元ドングリエキスの投入である。吐き出したい! けれど吐き出すべきものが何もない。
だが今回に限っては微かな喜びを含む。目の前で同じ苦しみを分かち合う相手が居るのだから。すんげえ顔して涎を吐き散らし悶絶する黒ドラゴン。くくく、様を見ろ。
「おげげげげぇっ。かふっ! かはぁっ! まっず、しっぶ、うぇっ。
や、やってくれたなぁ、中々の不意打ちだったぜ。つ、次は俺の番だな」
「え、今の攻撃一回にカウントされんの?」
「当ったり前だろ!」
……俺も同じ思いをしたのに。
っていうか、ターン制なの? 一発受けたら一発返す方式なの? その辺のルールどうなってんだよ。
「そうさなあ、同じ神とはいえ、流石に『全知全能』なあんたにガチンコ勝負で勝てるとは思っちゃあいない。ここは一つ、精神攻撃で攻めさせてもらうぜ」
「構わんよ」
格上の風格を見せるべく余裕の態度で受け止めてやる。
肉弾戦だと俺が勝っちゃうからなあ。お互いドラゴン同士で頑健さは同じとしても、スキルの差で俺が勝つ。上位互換は伊達じゃない!
そこで直接攻撃を諦め間接攻撃を選んだことは褒めてやろう。だが残念、この俺ドラゴンは精神力も並ではないと知ってもらおうか。
「先代女神があんたを選んだ時、報酬を用意していたって知ってたかな? 運命に干渉して、あんたが成長するまでおもしろおかしく暮らせるように、ってな」
む。それってあれか。先代が死ぬ間際に残した神託が関係してるのか?
ていうか、ぶっちゃけフルとの出会いが先代の用意したシナリオだったってところなんじゃないの。成長するまでとか、おもしろおかしくとか言っちゃってるし。
別にそんなんでショック受けたりしないんだけど。偶然だろうが必然だろうが関係なくフルと過ごしてきた日々には満足している。
「くくく。聞いたら驚くぜ。
代々、女神になる奴らは変態ばかりだ。そして先代は次の女神となるあんたも変態になると考えていた。だがその性癖は分からない。未知数だ。ならばニーズに対応するためにどうしたと思う?」
うん。ちょっと待て。女神が変態ばっかってのも十分問題なんだが。
なんだろう。不穏だ。すごく嫌な感じがするぞ。
「色んな相手を用意するのさ。要するにハーレムだ。思い返してみろよ、心当たりがあるだろう?」
…………えー。いたっけ? フルに……姫殿下に…………? フルのお母様――人妻――有りか? 相当無理して女神教の大司祭マイナ。あと身近なところに女性なんていましたか。むしろ女性率低くないか。
「分からん。教えて『全知全能』! 俺のハーレム要員って誰ですかいな?」
瞬間、口の中にほとばしる渋み。
「お、おげぇ、うえぇ、おぅおぅおう」
吐き気が込み上げる。
原因はドングリの渋みだけではない。理由は――――
↓女神コートのハーレム要員(抜粋)↓
○あこがれの勇者様 トラスタ=ヴィル=アインス(鈍重勇者)
○キザなナイト様 アルフォンス=シアータ(タレ目)
○素敵なお父さん ドーレン(フルの親父さん)
○伝説の英雄 バルシェン(じいさん)
○頼れる兄貴分 ピルコ(村の悪ガキの一人)
○かわいい弟分 八ヶ月後に生誕予定
○幼なじみ 獣神(原田勇助)
○好敵手から良い仲に ジルダリアス(馬野郎)
○寡黙な王様 エイージャ・ヌーク・ビ・オ・セントス
○シークレット *******(まだ秘密)
「げぼあっ」
俺は吐血した。ストレスマッハで胃に穴が開いたのだ。
俺のハーレム要員、男ばっかだ。
男ばっかだ。
男ばっかだ!!
「くたばれクソ女神!」
「死んでるよ。つーかあんたが女神だよ」
うるせえ! 冷静にツッこんでるんじゃねーよ!
身体は雌ドラゴンでもその精神は四十代男性。なのに報酬として与えられたのは男だらけ、薔薇の香りもどぎつい男の園である。
馬鹿か。先代は馬鹿なのか。
はっ! そういえば初代はホモホモしたいとか言い出すホモ好きだった…………まさか、意図的に……いや、まさか…………しかし……………………っ!
「てか、お前も幼なじみ枠で入ってんじゃねーか!」
「はぁ?」
暫くの沈黙のあと、黒ドラゴンも吐血した。『博識万能』が真実を教えてくれたのだろう。それにこいつ、俺の前世知ってるもんな。スキルに頼って俺の情報を調べたことが仇となったな。
この勝負――互いに引き分けか。




