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過労死から始まるドラゴン転生  作者: questmys
二章 亜成体期
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19 力適わず、口で勝る

「一騎討ちもええんじゃが……この格好でか?」

 と言って自らの姿を見返すじいさん。武器こそ腰から下げているものの、着の身着のままで飛んできたため、とても戦う格好ではない。「装備:むらびとのふく」だ。

「む……むむむ……よし、俺様も脱ごう」

「ええんかのう。折角の一騎討ちをみすぼらしい姿で果たして。ケチがつかんかね?」

「ぐぬぬぬぬぬぬ……」

 葛藤している。気兼ねなく戦いたいという気持ちと、今更仕切り直しは出来ないという事情がせめぎ合っているのだろう。

「ふぅむ、やれやれじゃな。ちょいと待っとれ、そこの兵士から装備一式借りてくるでな。どのみち奇襲は失敗なんじゃ。構わんじゃろ?」

「……早くしろ」

 許可を得てのっそり門へと歩くじいさん。歳のせいか歩みは遅く、馬野郎も眉を潜めてはいるが、しかし文句は口にしない。

「俺から兵士に口利いてやるよ。ちょっとは良いもん借りられるだろ」

 目の前を通り過ぎる時に声をかけたが、「いらんわい」とすげなく断られた。

「それより、時間が出来たじゃろ? 今のうちになんとか説得してみい」

 おほぉ、じいさん、策士だな! ここまでの流れは計算通りか! 流石は年の功だ。


 ◆


 さて、説得か。どういう手で攻めるかな。

 何か会話の取っ掛かりでもないかと辺りを見回す。すると棒立ちの部下共のうち一体が身体を震わせ目線を逸らした。あー、あいつがこないだの捕虜か。

 なんだか知らんが小刻みに震え続ける元捕虜。その姿を俺から隠すように三体が前に立ち、残りの二体が慰めている。仲良いなこいつら。

「お前ら、案外仲間想いなんだな。捕虜相手なら『生きて帰るは武人の恥』とか言って自害を強要しそうな国なのに」

「国民を蔑ろにして国が成り立つものか。『どうせ死ぬなら戦って死ね』とは言うがな」

「その国民を助けるために俺の下に下ろうとは思わんの? お前ら始末してヴァノス国の領土を取り戻したら、今度はお前らの国が戦場になるんだぜ?」

「ふん、低脳ドラゴンめ」

 て、低脳! そんな悪口言われたの初めてだ!

「俺様の国は落ちんよ。人間共の連合国軍で無理だったのだ。疲弊したセントスにもはや求心力はなく、他国を攻め落とす力は集まらない。ヴァノスの土地を取り戻すことすらままならぬと知れ」

「そこにドラゴンの軍勢が加わるとしたら?」

 そんなもん無いけど。

「ハッタリはよせ。ドラゴンは群れない。人間に味方する貴様が特別異常なだけだ。そして軍団を組むほどの数も居ない」

 あー、そっかー。やっぱドラゴンは希少種なのかー。てか思った以上に少ない?

 でもハッタリ続行です。

「お前にドラゴンの何が分かる。ドラゴンの全てを知ったつもりか?

 世界は今緊急事態なのだ。女神は死に、邪神も息絶え、加護は消え去り、争いは激化する! ……この辺、あいつから聞いた?」

「ああ、部下から聞いたとも。なるほど、と思わんでもない。しかし、それだけだ。遙か昔から、我々は争ってきた。そして……ふふふ、今現在の状況は我々魔族側に有利に働いているようではないか。

 ならば、貴様らこそが頭を垂れ命乞いをするべきなのだ! もっとも、聞き届けることはないだろうがな。ふはっはっはははっ!」

「だからこそドラゴンは人類側に味方する。バランスを保つべく、世界を調整するためにな」

「ふん! 出任せだ!」

「その証拠が俺だ! 人類領域に産まれ、人に味方するために産まれた!

 そして、ヴァノス国が滅びた今、魔族領域も一国滅ぼす必要がある。その国がどこか分かるか? ワスナ国だ! お前らの国が滅びるのだ!」

 嘘ですけどねー!


「ならば戦って滅びる! そうだろう貴様ら!」

『応!!』

 馬野郎の部下共が応える。

「しかしただやられるだけではない。ドラゴン風情が何匹来ようが負けはせぬ!」

『応!!』

「貴様も身の程を知れ! 俺様相手に逃げ出したのはついこの間のことぞ!」

『応!!』

「我々は最強!」

『我々こそが最強!!』

「そして人類領域を滅ぼし、魔族領域を支配し、最後に神域を手に入れる!」

『我々が全てを手に入れる!!』

「聞け、ドラゴン! 聞け、セントスの愚民共!

 我が名はジルダリアス。いずれ三界を支配する魔王よ!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』


 あかん。説得するつもりが裏目に出てる。こいつら、やる気満々じゃないですか。気力を充実させてしまった。

 ちら、と後ろを見れば、城壁の上の兵士達が敵の怒号を受けて萎縮している。あーわわわ、まずいぞまずいぞ。

「三界を支配する……ね。それがここで死ぬ奴の言葉かねえ」

「くくく、果たして死ぬのはどちらかな。そして、例え死んだとしても、その意志は既に息子へ引き継がれた」

「死んでも悔いはないってか?」

「無論。死ぬ覚悟も死に向かう心構えも常に持っておくのが武人だ」

 くそう、後先考えない奴は厄介だな。

 じゃあどうする? 死ねない理由を作るか? でも王位は譲ったから後は息子に任せたってスタンスだからな。うーん。

「……まあ、聞く限り、お前の国は武闘派で、攻め落とすのは容易じゃないだろう。そこは認める」

「当然だ」

 とか言いながらちょっと誇らしげだな。

「だが、武力以外で攻められればどうなるかな。ワスナ国の連中は搦め手に対応出来るほど頭の出来がよろしいのかね?」

「……下らんことを考えているようだな」

「たとえば――経済戦争、とかね」

「……?」

「物流と金の動きを外から来た商人に握られて、戦争しようにも武器が買えない、防具が揃わない、なにより兵糧が賄えない。それでご自慢の武力が振るえますか、って話だよ」

 槍が得意でも槍がなければ仕方がない、てね。うむ、適当に言った割に悪くない。

「ふ、戯れ言だな。その商人をどこから用立てるつもりだ。人類の商人が魔族領域に入れるとでも? よしんば入れたとして、物の売り買いが出来るとでも思っているのか?

 貴様こそ頭の出来はよろしくないようだな」

 自覚はありますけどね! 他人から言われると腹立つわー。

「……(考え中)……そこで、ドラゴンですよ」

「なに?」

「ドラゴンが魔族領域で商売したとして……まあ、初めは警戒はされるだろうけど、人類と違って締め出しを食らう程じゃあないだろ? そして、数が少なくとも経済は回せる。うまく潜り込んで大商人にでもなった日には――おや、ワスナ国は戦争の準備すらさせてもらえないんじゃあないですかねえ?」

「……………………」

 考えてる考えてる。さあ、迷え。そして情報の価値を見出せ。その策が祖国に伝わらなければ、お前らの国はどうなるものか。十分に考慮するが良い!


 ドラゴンの商人なんて一匹もいないけどな!


「いや、無駄だ。伝手も基盤もない者がそう簡単に市場を手中に収められるわけがない。やはり戯れ言。口から出任せだ」


 ふはははは、迷ったな! 可能性を考えただろう! ならばそれはもう詐欺にはまる一歩手前なのだよ。

 流れは俺向き。このまま押せ押せだ。行き当たりばったりの舌戦で貴様を屈服させてやるぞ馬野郎!


「できる。できるとも。何故ならば、俺達ドラゴンは魔族領域に無い画期的な新商品を用意出来るのだから! それも、大量にな!

 それを足掛かりにすれば、魔族領域の経済掌握など、取るに足らんよ!

 我に秘策あり! わーっはっはっはー!!」


 そんなもんないけどな!

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