20 塞翁が馬
「言ってみろ」
「……ん?」
あら、食いついた? にしては妙な雰囲気。
怒るような、呆れるような、蔑むような、微妙な顔をしてらっしゃる。
「聞いてやる。言ってみろ。その画期的な商品とやらがなんなのか。
そんな物はないのだろう? 口から出任せを垂れ流しているだけだ。貴様は妄言ばかりを吐いている。信じるに値しない。聞かれたところで答えられるはずがないのだ。
もしもそんな物があるのならこの場で腹を切って死んでやろう。言えるはずがないがな!」
自害されても困るんですけど……。
しかし、ビックリするくらい的確な判断。マジか。脳筋魔王じゃなかったのか。俺の目論見が見事なまでに看破されてしまっている。
ど、ど、ど、どうしよう。ええっと……、ええっと……。
やばい。何も思いつかない。詰んだか? ここからどうしたら挽回出来ますよ。ああ、姫殿下が隣にいれば何か知恵を貸してくれたかも知れないのに。具体的な商品名。そもそも魔族領域に何があって何がないのか知らないし。
困ったなぁ。打つ手無し。なので沈黙し、馬野郎と向き合う。
――ふと、相手の目を見た瞬間に悟った。
「……あっぶねぇっ! 危うく口にするところだった!
お前、やたら挑発してくると思ったら、何を売るのか聞き出して対策練るつもりだっただろう!
こ、この野郎、散々武人がどうのこうの言っておいて心理戦持ちかけてくるんじゃねえよ!」
「……チッ」
目論見がばれたところで薄笑いを浮かべて舌打ちする馬野郎。汚い、流石魔王汚い。騙し討ちを仕掛ける輩なだけはある。
てか、本当に危なかった。危うく適当に言ってたことがばれるところだった。しかし災い転じて何とやら、これでまた質問されても「何を売るかは秘密です。敵には教えませーん」で押し通すことが出来る。ラッキー。
「魔王さんよぉ、これで分かっただろ? 自分の国を滅ぼされたくなかったら、生き残って情報を持ち帰り対策を立てる必要がある。何も知らない息子さんを助けるためにも生きて帰らなくちゃいけませんなぁ。
そこで最初の勧誘に戻るぞ。俺の下に付け。魔族領域はお前にやるから」
もはや断る道はあるまい。突っぱねればワスナ国は滅びる――まあ、嘘なんですけど。
嘘も誠も話の手管ってな。通らば良かろうなのだよ!
そして遂に馬野郎も折れた。大きく意気を吐き、「いいだろう」と呟いた。
勝った! 魔王すらもこの俺の話術の前にひれ伏したのだ!
なんだ、やるじゃん俺。すばらしい。自分で自分を褒めたい気持ちです。やったね俺。ありがとう俺。
「ただし」と、馬野郎は続ける。
「この俺様に勝つことが出来たらな!」
ヘイ、脳筋! やっぱこいつ脳みそまで筋肉!
結局それかよ。俺が戦わずに済ませる道を示してやったというのにこれだ! 全てが水の泡だよ。そんなに戦いたいかこん畜生。
「物好きな奴よ。くくくっ、貴様は何故だか俺様を配下にしようとこだわる。そのせいでこれから始まる闘い、この俺様を殺すという選択肢が無くなった。
元より死ぬつもりであったが、おかげで殺される心配もなく一方的に蹂躙出来るわけだ。その温い戦況で貴様を殺せれば、先の下策も潰せる。
これも邪神ディオガンテ様の思し召しか?
いや、既に亡くなられたのであったな。ならばこの俺様が神の座に着くか。神懸かり的な幸運にて命を永らえたこの俺様が! くっはっはっはっはっ!」
………………おあぁっ。悪化している! 殺しに来る相手に対して殺さずを貫く縛りプレイの始まりです。どう考えても状況が不利。
したたか! この魔王、超したたか! 逆境にめげない超合金メンタル。
こんな鬼メンタルがあと五体もいるのか魔族領域。
マジかよ嘘だろう、一体くらい素直に分けてくれよ……。
◆
「さあ、英雄と闘う前の前哨戦だ。此度は逃げられぬぞ」
魔王はやる気である。
でも俺はちょっと泣きそう。じいさん、早く戻ってきて。
「ちっくしょう! やったらぁっ! お前負けたら本当俺の手下になれよなマジで!」
「この俺様に二言は無い。貴様のようなドラゴン如きに負ける気はせんがな。いくぞ、死んだ方が負けだ!」
阿呆か! 配下に下る気さらさら無いだろ!
馬野郎が槍を構えて突進してくる。それを受けとめ、組み伏せるべく腰を落として構えた。
そこへ投擲される槍。これをかわせば体勢が崩れる。かわさなければ負傷は必至。
しかし、かわさない!
堪えてみせるぞーーー……あ、やっぱなし。
刃物が迫る恐ろしさにびびる俺、尻尾にて迎撃成功。しかし尾を振るうことで僅かにずれた重心を付くように魔王の体当たり。
思わず足下をすくわれそうになるが、これまた尻尾の活躍により傾いた体幹を支え持ち直す。そして組み合うがっぷり四つ。
「ふははははっ! やるではないか」
「お前こそ、この体格差でよく押し負けないもんだよ!」
いかん、力を入れすぎたか、手足が痺れる。ぐぬぬ、しかしここは負けられない。
「ところで、気付いているか? ここで俺様が部下に指示を出せばどうなるか」
「――! こ、の、卑怯者! 一対一の真剣勝負じゃないのかよ!」
「舐めるな! この俺様の決闘に茶々入れなどさせるものかよ!
俺様が出す指示は、こうだ。
『貴様ら、国へと戻りこいつの下策を伝えろ!』
くっくっくっ! これで貴様の策は、詰み、だな」
ガーーーン!
なんという卑怯者! 打撃や魔法を使わず組み合ったのはこのためだったのかぁっ! 急いで追いかけようにも気を抜けば押し倒され、組伏されてしまうだろう。だがなんとか押し返そうにも馬野郎の身体はびくとも動かない。
策士! ただの戦闘狂ではない。幾多の死線を越えた男の戦術。俺はこの魔王の手の平の上で踊らされていただけに過ぎないというのかっ!
「でも、お前の部下共倒れてまひゅけひょへ!」
何でか知らんけど。
「ふん、くひゃらぬ嘘をひゅくひゃべれれれれれ」
馬野郎の言動がおかしいが、チャンスであることに違いはない。ここで一気に押し倒す! ――つもりだったのだが、手足が痺れて力が入らない。ていうか体中が痺れる。なにこれ。
一転して超ピンチ、と思いきや、馬野郎も痙攣しながら横倒れになる。
「ひひゃは、ひゃひほひは……」
何言ってるか分かんねえよ。
ドラゴンVS魔王の第二戦、見学者共々倒れ、立つもの無し。よって無効試合。
けひひひひ、魔王相手に二戦無敗である(勝ってもいないけど)。これ、自慢になるんとちゃいますか。
ほんで……この痺れ……本当なに…………?




